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コラム:総裁選び、NY連銀と日銀「彼我の違い」=井上哲也氏
November 29, 2017 / 12:46 AM / 15 days ago

コラム:総裁選び、NY連銀と日銀「彼我の違い」=井上哲也氏

[東京 29日] - 11月2日のパウエル米連邦準備理事会(FRB)次期議長指名に隠れて目立たなかったが、ニューヨーク(NY)連銀のダドリー総裁は11月6日、2019年1月の任期満了を待たずに2018年半ばに退任することを発表した。

他の地区連銀総裁とは異なり、NY連銀総裁は、金融政策に係るさまざまな取引を管理するシステム公開市場勘定(SOMA)の管理者として、FRBによる金融政策の決定組織である連邦公開市場委員会(FOMC)の常任メンバーであり、かつ副議長の役割を担う。

ダドリー氏は2007年に金融市場担当幹部としてNY連銀に入行した後、2009年1月から総裁のポストにあり、金融危機の沈静化に向けたさまざまな対策やその後の量的緩和、利上げとバランスシートの削減という一連のプロセスを実行する上で中心的な役割を果たしてきた。

筆者も個人的に感慨深いが、ダドリー氏の具体的な功績やその評価は、実際に退任する来年半ばに改めて取り上げることにして、今回はすでにスタートした後任の選出について検証したい。

<選任委員会立ち上げ、ヘッドハンターも活用>

NY連銀を含む地区連銀の総裁は、各地区連銀の取締役会が選任し、FRBの理事会の同意を得て任命される(連邦準備法第4条4)。この取締役はA、B、Cの3種類からなる(同法第4条10―12)。

AとBは地区連銀の加盟銀行(大まかに言えば当該地区の銀行であり、当該地区連銀に対する株主でもある)が選任するが、Aは加盟銀行の代表者と位置付けられるのに対し、Bは加盟銀行の職員や取締役以外の人材で当該地域の公益の代表者と位置付けられる。CもBと同様の位置付けだが、地区連銀でなくFRBの理事会が直接選任する点が異なる。各々の種類の取締役は定員3人なので、取締役会は合計9人となる。

興味深いことに、上記の法律(連邦準備法第4条4)は、地区連銀の総裁の選任には、取締役のうちBとCのみが関与できることを定めている。容易に想像できるように、地区連銀による規制や監督を受ける立場にある金融機関が、総裁の選任に関与することは利益相反につながるリスクがあるからだ。

こうした法的な歯止めが存在するにもかかわらず、地区連銀の総裁には、金融危機以降に米国内でさまざまな批判が向けられてきたことは記憶に新しい。つまり、上記の点を含めてA取締役の権限は制限されているが、民間銀行が地区連銀の運営に対して影響力を行使し得る枠組み自体を問題視する指摘がみられた。

とりわけ、個別の金融機関の危機に際して不良債権の買い取りの仕組みやさまざまな資金供給を実行したNY連銀は、ダドリー氏がゴールドマン・サックスの出身だったこともあり、大手金融機関を恣意的に救済したといった批判を受けることが多かった(大手金融機関出身者が要職を占める現政権にとって問題ではないかもしれないが)。

NY連銀が、ダドリー氏による退任表明後直ちに総裁の選出に関するウェブサイトを立ち上げ、NY連銀総裁の主な職務や法的な枠組みを含む選任プロセスをFAQ(よくある質問)付きで詳細に説明していることからは、総裁選出プロセスの透明性や説明責任をアピールしようとする意図が強く感じられる。

その他にも、具体的なプロセスを仕切る選任委員会をBおよびCの取締役の代表者によって立ち上げている。同委員会は幅広く候補者探しを行い、そのために民間のヘッドハンター会社(スペンサースチュアートとブリッジパートナーズ)も活用するという。自薦や他薦も受け付け、任命までには6―9カ月を要するとの見通しも示している。

<学位や専門知識より重視される条件とは>

上記のFAQには選任委員会がNY連銀の次期総裁に求める経験が列挙されている。NY連銀総裁の職務を考えると、公的当局での経験や経済学に関する学位などが先頭に来ると想像されるだろうが、最初に来ているのは「重要かつ困難な意思決定を行い、それを実行し完結させるための戦略的かつ統合的な思考過程を有すること」であり、2番目も高度に洗練され複雑な組織を率いるリーダーシップである。

ようやく3番目に金融市場や金融機関での包括的な経験が出てきて、4番目にFRBを含む公的機関での経験が出てくる。そして、ビジネス、経済またはファイナンスの上級学位は、最後の8番目になって「望ましい」との位置付けでようやく登場する。

同じく、次期総裁の選任のサポートを委託されたスペンサースチュアートも、次期総裁に求められる資質として、対外的な幅広い視点、NY連銀の多様な部門の統率(異なる意見に対するオープンマインドやNY連銀に対する建設的な姿勢を含む)、人材の育成、判断力や執行能力を挙げている。

併せて、NY連銀の行動規定によって、NY連銀総裁は上場企業の取締役や政治活動、預金金融機関の株式保有や5万ドル以上の米国債保有などが禁止されることも付記されている。

これらをみると、中央銀行という公的機関の長の選任であるにもかかわらず、求められる経験や資質は、民間の大規模な金融機関とほとんど変わらない印象を受ける。

もちろん、NY連銀の後継総裁の人選が文字通りこうした条件だけで決まるわけではなかろう。このポストは、FOMCにおいて議長とともに「執行部」の一翼を担う点で政策運営に大きな影響を与え得る。そのことを考えれば、具体的な人選がパウエル次期FRB議長の意向も含めNY連銀の外からのさまざまな影響を受けることは否定できない。それでも、こうした条件を読むと、中央銀行が市場取引を通じて政策を執行する特殊な公的機関であり、従って銀行組織の性格を有することに改めて気付く。

翻って日本の中央銀行も来年春には正副総裁が任期満了を迎える状況にあり、すでに人選に関するとみられる動きも報道されるようになっている。ヘッドハンター会社を活用するという米国流は現実的でないとしても、日銀の総裁や副総裁の担う職務や求められる経験と資質について本件のステークホルダーが幅広く理解を共有した上で、少なくとも候補者の絞り込みはこうした要件に沿って行い、そうした条件を満たす候補者の中から国会の同意の下で内閣が任命するというのも1つの姿であるように思われる。

*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融ITイノベーション研究部長。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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