December 26, 2016 / 12:26 AM / 2 years ago

コラム:伊モンテ・パスキ救済策の前途多難=井上哲也氏

[東京 26日] - イタリア政府は23日、同国の銀行問題に対応するための政府基金(200億ユーロ)に関する政令を承認した。この基金の主目的がモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ(モンテ・パスキ)(BMPS.MI)の救済にあることは言うまでもない。

資産規模3位の主要行であるモンテ・パスキは、今年夏の欧州銀行監督機構(EBA)と欧州中央銀行(ECB)によるストレステストに「落第」した結果、年末までの自己資本増強を求められていたが、民間ベースの増資計画(50億ユーロを目標)が頓挫し、その動向が注目を集めていた。

モンテ・パスキは政府資金に依存せざるを得なくなったが、欧州連合(EU)の域内国では、「銀行再建・破綻処理指令(BRRD)」と関連の声明によって、破綻先でない銀行への政府資金の使用は極めて限定されることに加え、使用する場合は債権者も一定のルールに従って損失を分担すること(ベイルイン)が原則とされている。

もっとも、同国の中央銀行であるイタリア銀行によればイタリアの家計はベイルインの対象債券を総資産の5%も保有し、ロイターの報道によればモンテ・パスキの劣後債を保有する個人投資家も4万人に上るだけに、上記のルールを適用した場合の影響が懸念されていた。

本稿の執筆時点(25日)でスキームの詳細は明らかでないが、同じくロイターの報道によれば、モンテ・パスキに対して上記の金額以上の増資に応ずる一方、債権者にも一定の負担を求めるようだ。

ただし、主として機関投資家が保有する種類の債券は額面の75%相当の株式に転換する一方、主として個人投資家が保有する種類の債券は額面の100%相当の株式に転換するだけでなく、モンテ・パスキが別な債券への交換の機会を提供するなど、個人投資家の負担を抑制する措置が取られるものとみられる。

<拭えぬ不良債権増加リスク>

こうした決着は、今年初めから本格導入された上記のルールに最初から例外を認めることに難色を示してきた欧州委員会と、金融システム不安の拡大を防止したいイタリア政府との妥協の産物である。もちろん、モンテ・パスキ問題が年末を越えて放置されるよりは大いに望ましい対応であるし、イタリア政府が上記の基金を他の銀行の健全性強化ないし破綻処理に活用すれば大きな意味を持つ。

ただし、残された課題も明らかである。つまり、モンテ・パスキが抱える不良債権をどう処理していくかは依然として明らかではない。

もちろん、健全性が向上するもとでさまざまに前向きのビジネスを展開することで収益性が改善し、これによって不良債権の処理を進めるロジックは成り立つ。しかし、モンテ・パスキのように不稼動債権の比率が30%を超える状況にある銀行にとって、こうした方法では不良債権額を圧縮するには長期間を要するだけでなく、その間はさまざまな外的なショックに対して脆弱な状況が続くことになる。

日本を含む金融危機の経験を踏まえると、こうしたケースでは、不良債権を銀行のバランスシートから切り離すことが最も重要かつ優先すべき対応である。そうした対応が講じられなければ、銀行は、今後の金融経済動向によって不良債権が増加するリスクにさらされ続ける。

ECBも最新の金融安定報告でイタリアにおける貸し渋りと企業活動の低迷との悪循環の兆候を指摘しているように、イタリア経済が当面低迷する可能性は決して小さくない。そうなれば、せっかく改善した健全性も、不良債権処理の負担を勘案した実質的な自己資本で見れば、再び悪化していくリスクが高くなる。

不良債権を銀行から切り離す際に生ずる損失を銀行が負担できないのであれば、これを支えることが政府資金の役割である。あるいは、政府主導の「バッドバンク」を設立しても良い。こうしたメカニズムによって不良債権が適正な価格まで下がれば、プライベート・エクイティのようなファンドが参入しやすくなり、不良債権の銀行からの切り離しが円滑になる。加えて、新たな債権者のもとで、借り手の事業再生が促進される効果も期待される。

自己資本の増強を求めるストレステストも、銀行の損失補填目的での政府資金の使用を禁ずるBRRDの規定も、基本的には健全な銀行を前提とした考え方である。また、それらは世界的な金融危機や欧州債務危機を経て、政府資金による銀行救済に厳しい批判が示されたことへの対応として合理性を有している。しかし、少なくとも欧州にはモンテ・パスキのように、そうでない前提で対処すべき銀行がまだ残っている。

*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融ITイノベーション研究部長。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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