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コラム:FRBが挑む市場対話のイノベーション=井上哲也氏
2017年3月24日 / 08:00 / 8ヶ月後

コラム:FRBが挑む市場対話のイノベーション=井上哲也氏

[東京 24日] - 米連邦準備理事会(FRB)は、14―15日開催の連邦公開市場委員会(FOMC)で予想通り利上げを決めたが、その2週間前の2月末時点でも、市場で利上げを見込む向きはむしろ少数だった。

その後、小売売上げなど冴えない経済指標が散見された中でも、FOMCメンバー17人のうち11人が講演などの発信を行い、かつそのほとんどが利上げ容認を示唆した結果、市場がごく短期間で利上げを織り込んだわけである。しかも、こうした強引な誘導を招く要因は今後も強まる可能性が高い。

FOMCが今回示した予想によれば、2017年末時点の政策金利は1.4%に達するが、これはFOMCが長期的目途と考える金利(中立金利)である3%と、ゼロ金利の概ね中間に当たる。つまり、FOMCによる利上げも「アクセルの踏み方を弱める」ものから、「ブレーキをかける」ものへと意味合いを変えていくことになる。

約10年ぶりの本格的利上げであることも考えれば、家計や企業の借り入れやそれによる消費や住宅投資、設備投資に生ずる反応のパターンや大きさ、あるいは内外金融市場のリスクテークやその結果としての資本フローへの影響にはなお不透明性も残る。

しかも、本来であれば景気循環の点で緩やかな減速が見込まれていた米国経済には、足元の「オバマケア」の見直しを巡る政治的混乱に象徴されるように、経済政策の規模やその発動のタイミングに無視し得ない不確実性が残る。つまり、今後の経済指標にはこれらの要素を反映して上下双方の力が同時に働くとみられる。

加えて、FRBによる経済・物価見通し(SEP)のパフォーマンスは、少なくとも金融危機後は必ずしも良好ではない(下図参照)。見通しが上下いずれの方向に外れた場合にも、FRBは「ブレーキのかけ方」を慎重に調節する必要がある。

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これらを踏まえれば、FRBが多様な指標を含む金融経済の状況を毎回のFOMCで丁寧に点検し、虚心坦懐に利上げを決めるという、いわゆる「データ依存」の金融政策には合理性がある。

<日銀金融政策の正常化にも貴重な先例に>

「データ依存」の政策運営を行いつつ、次の利上げ時点で市場に「予想通り」と思わせる状況を作り出そうとすれば、FRBは今回のように「強引な織り込ませ」を繰り返さざるを得ない。

確かに今回は、内外金融市場もさほど動揺しなかったが、その理由の一端には今回(3月)の利上げを次回(6月)からの繰り上げと考えるハト派的理解があったと思われる。しかし、上に見た金融経済の不確実性を踏まえれば、今後は、FRBによる市場の誘導と政策決定の方向が事後的に齟齬(そご)をきたすリスクは否定できず、結果として市場のボラティリティを高めることもあり得る。

だとすればFRBには、利上げに関する市場の強力な誘導を徐々に後退させ、市場自身の柔軟な予想形成を促す選択肢が浮上してくる。一見、市場の見方が一様でないとボラティリティが高まるように思えるかもしれないが、実際の利上げ後には市場の見方の修正が打ち消しあう面もあり、必ずしも市場の不安定化を招くとは言えない。

市場に円滑に予想を形成してもらう上では、FRBの経済・物価見通しがどの程度外れる可能性があるかを事前に示すことが重要だ。実際、FRBが今回(3月)のFOMC議事要旨(4月7日に公表)から添付を開始する「ファン(扇型)チャート」は、過去20年間の官民双方による経済・物価見通しの予測誤差をもとに、将来の経済成長率やインフレ率がFOMCメンバーによる予想を中心に一定の確率(90%)でたどる経路の上限と下限を示すものである。

FRBは、政策金利の予想経路についても上記と同様な考え方に基づく「ファンチャート」を添付するようだ。しかし、こちらには検討の余地もある。例えば、政策金利はFOMC自身が直接に決定し得る変数であるだけに、「ファンチャート」によって示す経路の上限と下限もFOMC自身の確率分布を活用することが考えられる。そうすれば、FOMCとしての政策金利の予想経路に上下どちらの方向のリスクが大きいか推測しやすくなる。

また、個々のFOMCメンバーによる政策金利の予想経路を示す「ドットチャート」も、日銀の「経済・物価の展望」のように、個々のメンバーが上下どちらのリスクを意識しているか分かるよう工夫する余地もある。

このように、FRBが今後に利上げを進めていく際には、市場との対話についてのイノベーションとその効果にも着目することが重要である。なぜなら、それらは内外金利や為替相場といった市場の重要変数に大きな影響を持ち得るだけでなく、将来のいずれかの時点で日銀による金融政策の「正常化」にも貴重な先例を提供するからである。

*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融ITイノベーション研究部長。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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