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コラム:量的緩和にサヨナラ、次節は出番なしか=井上哲也氏
2017年6月28日 / 06:04 / 5ヶ月前

コラム:量的緩和にサヨナラ、次節は出番なしか=井上哲也氏

[東京 28日] - 米連邦準備理事会(FRB)は、6月の連邦公開市場委員会(FOMC)でバランスシートの縮小に向けた具体策を決定した。イエレン議長が示唆するように年内に実施に移されれば、量的緩和も最終局面を迎える。

この時点で量的緩和を考えることには、懐古趣味を超えた意味がある。なぜなら、FOMC自身も米国経済の拡大は緩やかにとどまるとみており、何らかのショックがあれば、あるいはFRBのバランスシート調整による引き締め効果に不透明性が残るだけに、政策金利が中立水準(FOMCによれば3%)に到達する前に利上げが終了する可能性が存在するからである。

そうなれば、次の景気後退局面で利下げにより政策金利を使い果たし、再び名目金利のゼロ制約に直面したFRBには(かねてマイナス金利政策に否定的であるだけに)量的緩和の再開が1つの選択肢となる。

実際、FOMCがバランスシートの縮小方針を公表した文書の最後には、FRBが今後は主として政策金利の調整によって金融政策を運営する方針が掲げられている一方、景気や物価が深刻に悪化した場合には、バランスシートの規模や構成の調整(つまり量的緩和)による政策運営を行う可能性も言及されている。

<量的緩和に意味はあったのか>

FRBは、2009年から合計3回にわたる量的緩和を実施した。このうち、金融システムの安定を主眼に実施されたいわゆる「QE1」を除けば、その後の「QE2」と「QE3」は、いずれも政策金利の名目ゼロ制約に直面したFRBが、景気や物価の安定を目指して実施したものである。

しかも、バーナンキ前議長が「量的緩和」でなく「大規模資産購入(LSAP)」と呼び続けたことが示唆するように、FRBは当座預金(ハイパワードマネー)の供給自体よりも、国債や住宅ローン担保証券(MBS)を大量に吸収することで金融市場の資産構成を変化させることに主眼を置いていたと理解される。

したがって、政策効果の主たる波及経路も、金融市場のこうした変化に直面したさまざまなプレーヤーが行動を変化させることが意識されていたものと考えられる。これは、FRBの当座預金を保有する金融機関による「ポートフォリオ・リバランス」のような直接的な反応に加えて、金融市場での資産構成の変化を映じた資産価格の変動に対して、多様な機関投資家が投資行動を変化させるという間接的な反応から成っている。

この結果、FRBが強調してきたように、長期のタームプレミアムを含むリスクプレミアムを圧縮し、長期の名目金利を(量的緩和がない場合に比べて)低下させることになる。その際、(インフレ期待が一定であれば)実質金利も低下させるので、消費や投資を刺激することが期待される。

同時に、リスクプレミアムの圧縮は広範な資産価格を下支えするだけに、資産効果やファイナンシャル・アクセラレーターの効果(担保価値の上昇などの効果)によって消費や投資を刺激することも期待される。

また、FRBは必ずしも強調しなかったが、国債を大量に購入することが一種のコミットメントの効果を持つことも考えられる。つまり、こうした政策をいったん始めると、停止したり逆転させたりすることは困難なため、結果的に長期化するとの理解である。

FRBが「QE1」を開始してからバランスシート調整に着手するまで約10年を要したことを考えれば、こうした見方には一定の合理性もある。いずれにせよ、コミットメントの意味があるとすれば、それは長期金利自体あるいはそのボラティリティーを低下させるので、上に見た政策効果を一層強めることになる。

これらのメカニズム自体は、精緻な実証研究の結果との整合性はともかく、米国の金融市場で実際に生じたこととおおむね一致していたと言っていいだろう。もちろん、そうした効果が、米国経済が直面していた問題との対比で十分だったかどうかには議論も残る。

また、量的緩和に伴うさまざまなコストやリスク(保有資産に係る損失や利上げの際の当座預金の付利コストといった直接的なものだけでなく、資産価格の過熱や金融機関の過剰なリスクテークといった間接的なものも含む)と照らしても、なお正当化されるかという議論も残る。これらの点については、別の機会で取り上げることとしたい。

<次のゼロ金利制約下では効果は期待薄>

では、近い将来にFRBが量的緩和を発動した場合、上に見たメカニズムを再び機能させることはできるだろうか。

例えば、メカニズムの根幹にあるリスクプレミアムの圧縮は、米国債の価格に相応のリスクプレミアムがある場合に有効となる。仮に米国経済が過熱せず、低水準のピークから緩やかな景気減速に直面する中でFRBが名目ゼロ制約に直面すると、米国債に圧縮すべきリスクプレミアムが見当たらない事態に陥ることはあり得る。

この点については、FRBが金融政策に関する市場との対話においてイノベーションを続け、結果として市場のボラティリティー抑制に寄与してきたことも、むしろ裏目に出ることになる。

また、このように景気循環を通じて低成長が維持されれば、金融市場では米国債へのニーズが安定的に維持される。これは、いわば市場の力で金融緩和を維持していることを意味し、FRBによる金融緩和の負担を減らす面もあろうが、米国債を使った大規模な資産購入をそもそも難しくする面もある。

冒頭に見たFOMCによるバランスシート調整の方針に沿っても、FRBの資産規模は2兆ドル以下には減らない(FRBも米国債を相応の規模で抱え続ける)ことや、金融危機後に強化された金融規制の遵守を目的とする金融機関の米国債需要が増加していることも考えれば、米国債買い入れの技術的制約は一層深刻になり得る。

これらの点から見て、FRBが次に名目ゼロ制約に直面した場合、過去の量的緩和の焼き直しでは必要な政策効果を得られないリスクは残る。

効果の点だけから考えても、例えば、政策効果の波及において意味を持ち、かつ金融市場に残るリスクプレミアムを的確に把握し、そこに対してピンポイントに影響を及ぼすオペのような政策手段や、金融市場や金融機関に対する負荷を最小化する工夫を伴ったマイナス金利政策、バランスシートの規模は不変のままで国債の年限構成を変化させるツイストオペなどについて、より幅広い視点から検討することが求められる。

*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融ITイノベーション研究部長。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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