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コラム:中銀デジタル通貨、隠された地域活性化の機能=井上哲也氏

[東京 25日] - 日本銀行(日銀)がデジタル通貨の発行に向けた取り組み方針を10月初めに公表するなど、中央銀行デジタル通貨(CBDC)を巡る動きが本格化している。筆者も7月に本テーマに関する著書を刊行したこともあって取材等を受ける機会もあるが、なかでも「民間企業によるキャッシュレスサービスは駆逐されるか」との質問が目立つ。

 日本銀行(日銀)がデジタル通貨の発行に向けた取り組み方針を10月初めに公表するなど、中央銀行デジタル通貨(CBDC)を巡る動きが本格化している。写真は都内の日銀本店。2012年9月撮影(2020年 ロイター/Yuriko Nakao)

私の答えは「ノー」であり、将来的に決済手段がCBDCに集約されても、「〇〇ペイ」のようなサービスはCBDCによる支払いを指示する手段として残存しうる。つまり、現在は最終的に銀行預金による支払いによって決済を行うところが、CBDCによる決済に置き換わるだけである。

加えて、CBDCは中央銀行が提供する決済手段として高い安全性やコスト効率性も期待できるので、金融機関だけでなく、幅広い消費者サービス企業にも参入機会を提供し、キャッシュレスサービスにおける競争やイノベーションを活性化する効果が期待できる。CBDCは金融サービスに対する社会インフラとしての役割を担うと予想される。

<既存の地域通貨に足りなかったもの>

CBDCのインフラとしての役割は、マクロ的なものに止まらない。

例えば、近年は地方自治体や地域金融機関による地域限定の支払手段である「地域通貨」の試みが散見される。「地産地消」の手段として有効であるだけでなく、居住者間の相互扶助によるコミュニティ強化や、モノやサービスの流れの見える化と金融との連携などの点で大きな役割が期待される。

もっとも、地域内限定とは言え、通貨として家計や企業による幅広い信認を得る必要があるほか、上記の効果を発揮する上では、デジタルソリューションの活用が不可避である中で、地方自治体や地域金融機関にとって、財政面や技術面でのハードルは低くない。

結果として、商店街等に限定した試みに止まるケースもあり、通貨の持つ特性であるネットワーク外部性(利用者が多いほど利便性が高まる特性)を発揮しえない面がある。

日銀が導入を検討するCBDCは国全体で使用されることが想定されているが、この決済手段をインフラとして活用する主体は、大手銀行や大規模な交通機関、携帯電話会社などに限られるわけではなく、小規模な地方自治体や地域金融機関にも開放されることが期待される。

もちろん、公的インフラを活用する以上、一定の技術的な標準を満たす必要があるので民間IT企業等の支援も必要となろうが、インフラ自体をゼロから構築することに比べてハードルは顕著に低下し得る。

つまり、CBDCは「地域通貨」を利用した支払いを安全かつ効率的に決済するためのインフラとしても機能するため、地方自治体や地域金融機関は、こうした機能を活用することで地域活性化をより円滑に促進することが期待される。

<地域の決済センター新設も>

CBDCを中央銀行の側から考えた場合にも、地域活性化に寄与する可能性がある。

日本のように大規模な金融経済を抱える国において、家計や企業が幅広く利用するCBDCを導入する上では、日銀が取り組み方針で示した「階層構造」を通じて民間の仲介業者との間で相応の役割分担を行ったとしても、利用者による受け払いを管理する巨大なシステムに関わる実務的な課題は小さくない。また、システムを集中型とした場合、自然災害や通信トラブル、サイバー攻撃等への防御の課題も大きくなる。

その意味では、CBDCのシステムを首都圏の一カ所に集約するのでなく、国内に分散することも考えられる。これは、事業継続計画(BCP)として一般的な「メインとサブ」の併存とは異なり、そもそも機能を複数個所に分散するイメージである。

制度面から見ても、これは現実的な枠組みと言える。現在でも、日銀は銀行券を本店のみならず国内に配置された支店からも受け払いしている。この点で、CBDCの利用者による受け払いの管理を分散すること自体は、現在の仕組みの延長線上にある。

もちろん、CBDCは国全体で利用されるので、ある支店が管理するCBDCが別の地域で使用された場合には、日銀の支店相互間での情報や資金のやり取りも必要となる。しかし、これはあくまでも日銀内の処理なので、リアルタイムで行うのではなく、ある程度の時間を集約した処理とする余地もあろう。その分、システム運営の負担は軽減しうる。

一方で、CBDCの受け払いを管理する機能は、全国の支店に分散させるのではなく、各地域ごとに1カか所といった程度にとりまとめることも現実的だろう。その場合には、地域の中核都市に置かれた支店(例えば仙台や福岡)ではなく、それ以外の支店(例えば秋田や熊本)に管理機能を付与することで、特定の支店への機能集中を避けることができるだろう。

大都市への人口や経済活動の集中が進行する下で、日銀が保有する支店の役割にも変化が求められている。そうした中でCBDCの管理を分担する新たな「決済センター」を各地域の支店に設置することの意義は小さくない。

しかも、そうした「決済センター」にはシステムの運営に止まらず、支払いや決済に関する調査・研究の機能も付与することが望まれる。それによって、日銀の「決済センター」と民間企業との専門家による対話や共同研究の機会を提供し、ITや金融サービスに関わる企業の立地や設立を促すことも期待できる。

そうした動きに地域の大学や研究機関も参画すれば、これもまたCBDCが地域活性化にとってのインフラとしての役割を果たす好例となる。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融イノベーション研究部主席研究員。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。

(編集:田巻一彦)

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