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コラム:苦悩するECB、12月理事会で量的引き締め議論へ=井上哲也氏

[東京 28日] - 欧州中央銀行(ECB)は、12月の理事会でも利上げを継続するとみられる。10月のHICPインフレ率が前年比10.6%と加速を続けているほか、工業製品やサービスを含めて価格上昇圧力が一層拡大しているからである。10月理事会の議事要旨でも、利上げの継続が必要であるとのコンセンサスが示された。

 12月の欧州中央銀行(ECB)理事会では、引き締め領域に達した政策金利を今後どう運営するかが議論の焦点となる。井上哲也氏のコラム。写真は7月、フランクフルトのECB前で撮影(2022年 ロイター/Wolfgang Rattay)

<12月理事会、金利面での大幅引き締め完了へ>

一方で、12月会合での利上げによって、ECBは政策金利の面での金融緩和の解除を完了することになる。なぜなら、市場が予想する0.75%ポイントの利上げが行われれば、主要な政策金利のうちで最も低位な預金ファシリティの金利でみても、2.25%と中立金利の想定レンジの上限である2%をやや上回る水準に達するからである。

そこで、12月の理事会では、引き締め領域に達した政策金利を今後どう運営するかが議論の焦点となる。

先に挙げた議事要旨では、物価目標の達成に向けた総需要の抑制とインフレ期待の安定のために、政策金利について中立水準を上回る水準にする必要があるとの考え方を示しているだけに、来年に入っても当面は利上げの継続が見込まれる。

一方で、これまでのような大幅な利上げを継続する必要性も低下するとみられる。

第1の理由は、来年前半にかけてユーロ圏が景気後退に陥る可能性が高いためである。その主因がエネルギー供給の不安定性にあり、物価にはむしろ上昇圧力をもたらすだけに、ECBが難しいトレードオフに直面することは否めない。

しかし、ユーロ圏の景気にとっては、既往の利上げの消費や設備投資に対する影響がむしろこれから顕在化するだけでなく、主要な輸出先である中国や英国、東欧諸国の需要回復が当面期待しがたいといった多くの下押し圧力が存在する。

第2の理由は、先に挙げた議事要旨が示すようにユーロ圏の物価上昇の主因は依然として供給要因にあることである。

だとすれば、来年のECBにとって重要なことは、インフレ期待の安定を維持することで、輸入要因を起点とするインフレが賃金上昇を通じて、国内要因による高インフレとして定着する事態を防ぐことである。そのためには、政策金利を引き締め水準に維持することの方がむしろ重要になる。

これらの点を踏まえると、来年に入ってからのECBは当面、利上げを継続するとしても景気やインフレ期待の推移を見ながら慎重に対応することが想定される。従って、結果的には大幅な利上げは12月理事会をもって一段落する可能性が高いと考えられる。

<量的引き締めの本格化>

ECBの12月理事会でのもう1つの焦点は、量的引き締めの運営に関する議論である。

ユーロ圏の景気に下方リスクがあり、利上げも同時に進めている中でも、ECBが量的引き締めに進むことには疑問もあろう。また、ラガルド総裁は、9月の理事会後の記者会見で、次回(10月)の理事会で量的引き締めの議論を開始すると予告したが、英国発の長期金利の不安定化もあって、議論は先送りされていた。

一方で、ECBは既に量的引き締めに実質的に着手している面もある。

つまり、10月の理事会で貸出条件付き長期資金供給オペ第3弾(TLTRO III)の適用金利を引き上げ、このオペによって資金を調達している銀行に対して期前返済を促す措置を講じた。

実は、TLTRO IIIを中心とする長期資金供給オペの残高は足元で2兆ユーロ強に達し、パンデミック緊急資産買い入れ(PEPP)の保有資産残高である1.7兆ユーロよりも大きい。

TLTRO IIIの残高が減少すればECBの資産規模を明確に削減することが可能であり、かつ、保有国債とは関係がないので、長期金利に直接的な上昇圧力をもたらすリスクも少ない点で有効な量的引き締め策といえる。

実際、先に挙げた議事要旨でも、TLTRO IIIの条件変更の目的として、金融緩和の解除とともにECBの資産規模の圧縮が明記されていた。

それでも、ECBにとっては、量的引き締めの「本丸」である資産買い入れプログラム(APP)による保有国債等の削減に関する議論へと進む理由がいくつか存在する。

第1の理由は、APPによる保有国債等の再投資に関するフォワードガイダンスにある。ECBは利上げの開始後の長期(extended period of time)にわたって再投資を継続すると表明しているが、既に利上げ開始から約半年が経過する中で、いずれにしても運営を具体化する必要がある。

第2の理由は、将来の量的緩和に備えた「のりしろ」の確保である。先に検討したようにECBの政策金利は中立水準を若干上回るところ、具体的には3%前後が最高到達点となる可能性がある。

このため、次の景気後退に対する利下げで短期間で使い果たし、再び量的緩和に依存せざるを得ない可能性も高い。実際、ECBの総資産規模は対名目国内総生産(GDP)比で6割強に達しており、米連邦準備理事会(FRB)が量的引き締めを開始する直前には4割弱であったのに対して顕著に大きい。

第3の理由は、銀行によるTLTRO IIIの返済時期に不透明性が残る点である。先に見たように、銀行にとってこのオペによる資金調達の有利さは減退したが、資金調達の安定性というメリットは残っている。ECBのサーベイ結果によれば、来年第2四半期に返済のピークが到来し、その規模は1.2兆ユーロに達するとみられるが、今後の金融環境の動向によって変化する可能性も残る。ECBとしては、より予見可能な形で量的引き締めを進めたい面もあろう。

<長期金利への影響の抑制>

もちろん、ECBはAPPによる保有国債等の削減に際しては細心の注意が必要である。長期金利が顕著に上昇するようでは、景気後退をより深刻化する恐れがあるほか、利上げ戦略自体の見直しに波及しかねないからである。

具体策に関して、市場では再投資政策の変更を来年第2四半期以降に先送りするとの見方がある。この案には、景気の下方リスクが最も大きな時期を避けることができるほか、先に見たTLTRO IIIの返済規模のピークを見極めることができるというメリットがあり、一定の合理性がある。

もっとも、ECBには他にも対応策がいくつか存在する。

第1に、少なくとも当初は保有国債等の毎月の減少額に上限を設けることである。つまり、保有国債等の実際の償還額が上限を上回った場合には、ECBがその分だけ国債等を市場から買い入れる訳であり、FRBが採用したのと同じ手法である。

ECBが公表している今後1年間の保有国債等の償還予定や本年前半のAPPの実施実績などを考慮すると、毎月の減少額の上限は200億ユーロといった水準からスタートすることが考えられる。

第2に、これは既に導入済であるが、PEPPによる保有国債等の再投資を柔軟に運営することである。具体的には、保有国債が償還した場合も単純に同じ国の国債に再投資するのでなく、金利上昇圧力の強い国の国債を買い入れる仕組みである。

実際、本年3月末のPEPPの買い入れ停止以降の再投資実績をみると、主要4カ国の中ではドイツ国債が顕著に減少した一方、イタリアとスペインの国債が明確に増加している。

これに加えて、ECBは金融政策波及保護手段(TPI)と呼ばれる国債買い入れプログラムも導入済みである。当該国の政府に対して適切な財政運営を求めるほか、非合理的な理由での金利上昇に限るなど発動条件が厳しく、実効性には疑問も残るが、ECBはこの手段の導入が域内国の国債利回りの格差を抑える上でアナウンスメント効果を有したと主張している。

これらの対応策を活用すれば、ECBは必ずしも来年第2四半期まで先送りしない形でAPPによる保有国債等の削減に着手することも可能であるように思われる。いずれにしても、10月の理事会の議事要旨が明記したように、12月の理事会では量的引き締めに関する議論が本格化する。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融イノベーション研究部シニア研究員。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。金融イノベーション研究部・主席研究員を務め、2021年8月から現職。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。

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