February 28, 2018 / 1:22 AM / 4 months ago

コラム:日銀幹部人事に必要な「新たな知恵」=井上哲也氏

[東京 28日] - 注目を集めていた日銀正副総裁人事は、黒田東彦総裁の再任のほか、副総裁に雨宮正佳理事と若田部昌澄・早稲田大学教授を充てる案を内閣が提示し、国会の同意を待つ状況にある。

国内外の市場では、黒田総裁の続投が早くから予想され、しかもこの間に日銀が金融緩和の堅持を強調しただけに人事と政策運営が概念的に切り離された結果、上記の報道に対する反応も総じて抑制的だった。

ただし、審議委員も含めて日銀幹部の人事に関する枠組みをより長い目で見た場合、いくつか考えておくべき点も残されているように感じる。

<人選プロセス巡るECBやFRBとの違い>

日本が三権分立の民主主義国家であり、法定通貨の発行を中央銀行に委ねている以上、日銀の正副総裁を国会の同意の下で内閣が任命することは、有力な代替案がないという点で当然であり、その基本的な枠組みは米欧諸国を含めてグローバル・スタンダードでもある。

もっとも、日銀の場合は、選任を進める過程で誰が候補者なのかが明らかにならないという特徴を有している。この点は、日銀のような公的組織に限らず民間企業の人事でもごく一般的なので、日本社会に根付いた慣行と言うべきかもしれない。

考えられる理由の1つは、日本では人事もコンセンサスをベースとするだけに、関係者への根回しが完了するまで人事案を明らかにし難いことかもしれない。

しかし、加盟する19カ国の同意が必要という点で、日銀に比べても複雑で大規模な根回しが必要と考えられる欧州中央銀行(ECB)の正副総裁人事でも、今年5月に任期が満了するコンスタンシオ副総裁の後任人事が示すように、出身国の首脳による推薦などによって、事前に少数の候補者が対外的に明らかになる。

また、昨年末の米連邦準備理事会(FRB)の議長人事の際にも、ホワイトハウスはトランプ大統領がイエレン前議長やパウエル新議長などとの複数の面談を順次公表したので、外部からも候補者を具体的に認識することができた。

上記のような日本社会の慣行を考えると、日銀正副総裁の人選プロセスを米欧のように透明化することは決して容易ではないが、今回の事後報道を見ても、プレス関係者に対しては候補者の情報が事実上共有された面もあるようだ。

中央銀行のステークホルダーである国民は、最終的には国会を通じて意向を表明する機会が制度的に担保されているが、もう1つの重要なステークホルダーである実業界や金融市場にとっては、その意向を伝える機会が必ずしも十分に確保されていないように思える。

そうした意味でも、日銀正副総裁人事に際して、最終的な候補者を明らかにすることで外部の幅広い評価を確認しておくことは、就任後の政策に対する信認を含めてプラスの面も少なくないように思える。

<政策委員の多様性を担保する仕組み>

日銀で金融政策を含む政策と業務の決定機関である政策委員会は、正副総裁3人と審議委員6人によって構成される。このように複数のメンバーによる枠組みとした趣旨は、現行の日銀法の制定に至る議論を振り返るまでもなく、多様な経験や識見の反映を制度的に担保することにあり、この点も基本的には米欧諸国を含むグローバル・スタンダードである。しかも、日銀法は、正副総裁も政策委員会では独立して職務を執行すべきことを規定している(第16条2)。

一方で、審議委員も正副総裁と同じように国会の同意の下で内閣が任命する枠組みであるだけに、同様な政策思想を有する審議委員が選任され続ける可能性が少なくとも概念的には存在する。

もちろん、上記のように日本が民主主義国家である以上、こうした枠組み自体は当然に尊重されるべきである。その上で、日本に限らず米欧でも、中央銀行の意思決定機関を構成する個々のメンバーについて意図的に任期をずらすといった運用を行うことで、その多様性を事実上確保する知恵が活用されてきたわけだ。

しかし、議会の多数を確保しつつ安定した政権が成立すれば、経済政策の一貫性や大胆さの点では当然に多くの恩恵をもたらす一方、上記のような知恵も有効ではなくなってくる。この点は、FRBだけでなく日銀についても次第に明らかになりつつある。

しかも、日銀であっても、黒田総裁再任後の5年間の任期を展望すれば、いずれかの時点では現在の金融緩和の根本的な見直しが必要になる可能性は決して小さくない。金融危機やデフレとの闘いを進める際には総裁の強力なリーダーシップが不可欠だったが、金融政策の「正常化」を円滑に進める上では多様な情報や識見を総合した議論の重要性が再び高まるはずである。

筆者は、日銀の現在の審議委員が個々にどのような政策思想を有しているのか詳細に理解しているわけではないし、仮に同様な政策思想を持っている委員が複数存在したとしても、日本の経済政策を巡る官民での議論のバランスに沿ったものである限り、それ自体を問題にすべきだとは思わない。それでも、政策委員会における意見の多様性を担保する仕組みに課題が明らかになりつつあることは、長い目で見て気になる面がある。

審議委員の任命の枠組みを維持しつつ多様性を確保していく上では、職務経験や専門分野に関する要件をより具体化することが考えられる。もちろん、それは旧日銀法にあった「業界の代表」のような考え方を復活させようというわけではない。現在あるいは将来の政策課題を考えた場合、審議委員に、例えば国際金融の専門家や金融機関経営の経験者、金融規制の専門家や金融ITの起業家が含まれることはむしろ望ましいはずである。

実際、この点に関して現在の日銀法は、「経済又は金融に関して高い識見を有する者その他の学識経験のある者」(第23条2)とだけ規定しており、柔軟に対応し得る面が確保されている。審議委員の任期と同じく、実践的な知恵としてこうした工夫を定着させていくことも一案であると思われる。

*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融ITイノベーション研究部長。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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