January 30, 2019 / 7:25 AM / 8 months ago

コラム:迷走始めた米FRBのバランスシート縮小=井上哲也氏

[東京 30日] - 昨年末にかけて米国を中心に金融市場が不安定化した際に、米中貿易摩擦と並んで金融政策も犯人扱いされたことは記憶に新しい。

1月30日、昨年末にかけて米国を中心に金融市場が不安定化した際に、米中貿易摩擦と並んで金融政策も犯人扱いされたことは記憶に新しい。写真はワシントンの米FRB本部。2018年7月撮影(2019年 ロイター/Leah Millis)

しかも、金融市場では、米連邦準備理事会(FRB)が利上げだけでなく、保有資産の削減を通じたバランスシート縮小を続けていることにも懸念が強まった。量的緩和(QE)の反対語として「量的引締め(Quantitative Tightening:QT)」という表現まで登場したほどだ。

これに対し、FRBのパウエル議長は4日のアメリカ経済学会において、今後の政策運営について、これまでのように特に問題がなければ粛々と「正常化」を進めるのではなく、今後は経済の動向に即してより柔軟に対応する考えを示した。しかも利上げのペースだけでなく、バランスシート縮小についても必要に応じて見直す考えを示唆した。

株価が年初から大きく反転上昇したことからも、パウエル議長の発言を金融市場が強く歓迎したことは明らかだ。同時に、これまでバランスシート縮小は技術的な問題にすぎず、機械的に進めることが可能だと説明してきたFRBが、大きく方針を転換したとも受け止められた。

<資産縮小が株価に影響するメカニズムの謎>

しかし、FRB保有資産の規模縮小が、株式市場にマイナスの影響を与えるメカニズムには判然としない面も少なくない。

例えば、FRBが保有国債の規模を縮小して国債需給が悪化し、結果として長期金利が上昇したために株価が下押しされるというのであれば、合理的なメカニズムだ。しかし、長期金利上昇が顕著だったのは昨年の春であり、その際には株価はむしろ堅調に推移していた。

また、FRBのデータによれば、保有国債の満期構成は再投資の縮小以降に徐々に短期化しており、その意味では、イールドカーブの長期債部分におけるタームプレミアム(期間に伴う上乗せ利回り)の抑制効果も衰えていると推察することもできる。しかし、上記のように長期金利の上昇が目立った昨年春を除けば、金融市場で実際に観察されたのはイールドカーブのフラット化であった。

FRBは2017年10月から保有資産の削減を続けてきたのに、なぜ急に懸念が強まったのかという問題もある。

この点に関しては、バランスシートの縮小が3カ月ごとにペースを加速するよう設計されていたことも理由の1つにあるようだ。つまり、2018年10月以降、縮小規模が国債と住宅ローン担保証券(MBS)を合わせて3カ月で500億ドル(約5兆4600億円)と、これまでで最速ペースになったからである。しかし、株式市場への影響が非直線的に現れる理由は判然としない。

<すれ違う思惑>

こうした議論の迷走についてはFRB側にも問題がある。

実は、昨年秋以降に金融市場が不安定化する以前から、FRB自身もバランスシート縮小の方針変更について検討を進めていた。そのことは金融政策を決定する場である連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨にも度々記載されている。具体的には、バランスシート規模の最終的な着地点が、当初想定していたよりも大きくなる可能性についてである。

ただし、FRBがそうした方針変更を検討した理由は、金融市場を安定化させるためではなく、議事要旨に明記されているように、FRBの当座預金に対する金融機関の需要が想定以上に強いからである。実際、政策金利であるフェデラルファンド(FF)レートに対しては強い上昇圧力がかかり続けており、FRBは政策決定通りにFFレートの誘導に苦労している。当初、こうした上昇圧力は財務省短期証券(TB)の大量発行による一時的現象との見方も強かったが、それがなかなか解消されない中で、当座預金需要の根強さに焦点がシフトしているようだ。

つまり、バランスシート縮小を想定よりも早く止めるべきという結論においてはFRBと金融市場は同じ考えだが、FRBは負債に対する需要に着目した議論であり、金融市場は資産側の政策効果に着目した議論であるという点で、すれ違いが生じている。

<FRBが解くべき誤解>

理由はともかく、FRBがバランスシート縮小を見直し、それによって金融市場が安定するのであれば、「結果オーライ」という判断もあり得る。さらに言えば、メカニズムはともかく、FRBによる「量的引締め」が金融市場にマイナス影響を与えるのであれば、「量的緩和」は逆にプラス影響をもたらすはずであり、次の景気後退への対応という点でFRBには心強いことだと考えることもできる。

しかし、FRBと金融市場とのコミュニケーションのすれ違いがいつまで続くか分からない。また、それが続いたとしても、政策手段が利上げとバランスシート縮小に複線化することで、FRBにとって市場との対話は一層複雑になる。例えば、FRBが今年のどこかで利上げ休止を決めた場合、バランスシート縮小も減速したり、停止するのかという議論を引き起こすことになる。FRBはそうした事態が厄介だと予見していたからこそ、金融政策は政策金利の上げ下げで行い、バランスシート縮小は機械的に行う方針で臨んできた訳である。

いずれにしても、FRBはバランスシートの縮小方針をより具体化し、再度明示すべき段階に来ている。その際には、当座預金への需要や金融経済に対する影響を含め、どのような要素に基づいて決めるのかという考え方や、縮小規模の最終的な着地点のめど、政策運営における政策金利との役割分担などについても説明されることが望まれる。

井上哲也氏

*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融イノベーション研究部主席研究員。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。  

(編集:山口香子)

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