February 26, 2020 / 5:28 AM / a month ago

コラム:新型肺炎、ショックを最小化する政策対応とは=井上哲也氏

[東京 26日] - 新型コロナウイルスによる肺炎に関し、現時点での最優先課題は感染の拡大に歯止めをかけ、罹患(りかん)された方々に対する医療面での対応を進めることだ。その上で、次の段階では経済活動をどのように回復させるかが焦点になる。

 新型コロナウイルスによる肺炎に関し、現時点での最優先課題は感染の拡大に歯止めをかけ、罹患(りかん)された方々に対する医療面での対応を進めることだ。写真は2019年10月、都内で撮影(2020年 ロイター/Peter Cziborra)

<経済が受ける打撃の経路>

新型肺炎の流行による日本経済への影響を整理しておくと、まず、中国を中心とする海外からの旅行者減少に伴う国内での消費支出の減少である。この部分は輸出にカウントされるが、宿泊施設や小売店、観光業などに従事する人々の所得の減少を通じて消費にも影響しうるし、設備投資の先送りにつながりうる。

併せて、感染防止を目的とした各種のイベントの中止や延期、あるいは旅行と飲食会合の自粛に伴う消費支出の減少である。これらの主たる影響は、国内総生産(GDP)統計で個人消費の減少として現れる点を除けば、上記と同様な形で現れる。

次に、中国を中心とするサプライチェーンの機能低下に伴う国内生産活動の停滞である。直接的には国内外での販売の減少を通じて企業収益を押し下げるので、主として製造業に従事する人々の所得の減少を通じて消費にも影響しうるし、設備投資の先送りの可能性も出てくる。

さらに、中国を中心とするアジア諸国の経済成長が減速することに伴う日本からの輸出の停滞である。この点はサプライチェーンを通じた影響とは別であり、アジア諸国の消費に対応する現地での売上げへの影響を指しているが、日本国内への影響は同様な形で現れる。

<短期終息のケース>

こうした点がどの程度の量的インパクトをもたらすかについても、様々な推計がなされているが、政策対応を考える上で重要なことは、どの程度続くのかである。

新型肺炎がこれ以上地理的に拡散せず、気候の温暖化とともに感染が抑制されるという前提に立てば、サプライチェーンの問題が最初に解消に向かうことが期待される。自然災害とは異なり、生産設備も人的資源も維持されているだけに、生産活動の復帰に向けた障害は相対的に少ない。

中国を含むアジア諸国への輸出や現地での売り上げも、同様に回復に向かうであろう。中国以外のアジア諸国での影響は経済活動自粛の解消に伴って抑制されるであろうし、中国では減税や中小企業対策を中心とする政策対応が内需を支えるとみられる。

国内では、イベントや旅行と飲食会合などが徐々に復活すると予想される。海外からの旅行者の来訪やそれに伴う消費支出も回復していくだろう。日本訪問の魅力には変化がないし、既存のインフラによって対応できるからである。中国からの旅行者も、上記の経済対策によって所得が下支えされれば、日本訪問に対する指向自体に変化が出るとは考えにくい。

<注意が必要な地方の中小企業>

日本政府と日本銀行も、こうした展望を共有しているとみられる。だからこそ、現在の経済対策や金融緩和を粛々として実行するという考えを示唆しているのであろう。この点は先般の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議後の公式会見で示されている通りである。

ただし、この会議に関しては、共同声明で政策対応の動員をアピールしながら、日本に限らず主要国が様子見を示唆したことに加え、肝心の中国が次官クラスの出席に止めたため、本質的な情報交換にも支障が生じたといった点で、会議の意味あいに疑義を生じた面も否めない。この点も週明け以降の国際金融市場の不安定化の一因となっているように見える。

その上で、国内経済への影響に関しては、海外旅行者やサプライチェーンといった側面は、特に地方の中小企業という、ショックに対する相対的に頑健性の低いセクターへ集中的に現れる面には注意を向ける必要がある。

タイミングの意味でも、昨年第4四半期の実質GDP成長率が、消費や設備投資を中心に既に大幅に減少していた点に注意する必要がある。本年第1四半期も、一時的ではあれ上記の理由で下押しされた場合、2期連続マイナス成長という技術的な意味で景気後退になる。

このような点を考慮すると、新型肺炎の影響が沈静化するに伴って、回復のメカニズムが働き始めるとしても、それら国内の消費や投資につながる際のモメンタムやペースを考える上では、相応の慎重さが求められる。

<観光業の資金繰り支援などが短期的課題>

筆者も、だからといって大規模な財政刺激や、強力な追加緩和が必要と主張するわけではない。既に実施に移されている経済対策は、来年度以降にかけても経済成長を下支えするし、日銀によるフォワードガイダンスは緩和的な金融環境を維持しうるからである。

その上で、これまで見てきたような問題の所在を考えれば、よりきめ細かいミクロ面での対策に活用の余地があるように見える。

例えば、打撃を受けている宿泊施設や小売店、観光業などに対する時限的な運転資金の支援や税制面での措置、民間金融機関による貸出への監督面からの配慮といった対応が考えられる。その際には、日本銀行も、現行の被災地支援ないし貸出支援基金の応用など、貢献しうる余地がある。

また、一時的であっても財政面の負担が増加する地方自治体に対しては、医療面の負担軽減なども含めて、時限的な財政支援を行うことも考えられる。

同時に、新型肺炎だけでなく技術的な景気後退によるマインドの委縮を防止するためにも、感染の抑制が確認できた段階では、政府自らが様々なイベントを積極的に開催することも含めて、旅行や飲食会合などの回復を促す努力も重要となる。

その際には、例えば、現在のキャッシュレスに対する還元措置を、使途や期間を限定した形で延長することも有用となろう。

新型肺炎の経済面への影響は、確かに長期にわたって続くものでないとしても、経済見通しのシナリオに変更がないという考えを強調するだけでなく、経済のウイークスポットに配慮した対応が適切に発動できることも、丁寧に説明していくことが必要であると思われる。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

井上哲也氏

*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融イノベーション研究部主席研究員。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。

(編集:田巻一彦)

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