December 30, 2019 / 11:08 PM / a month ago

コラム:2020年もドル/円レンジ内、構造変化が強く作用=佐々木融氏

[東京 31日] - 2019年の市場にとって最もサプライズだったことは、米連邦準備理事会(FRB)を筆頭に各国の中央銀行が一気にハト派化し、それまでの金融引き締めモードから緩和モードに転換していったことであろう。例えば、JPモルガンは世界で31の中央銀行の金融政策について予想を行っているが、2018年末の時点では世界31の中央銀行のうち、FRBを含む24行の中央銀行が2019年中に利上げを行うと予想していたが、結局、逆に18の中央銀行が利下げを行った。

ドル/円の値動きが狭くなってきている背景には構造的な変化があると考えられ、その構造は来年も大きくは変わらないとJPモルガンの佐々木氏はみる。写真は2017年6月、シンガポールで撮影(2019年 ロイター/Thomas White)

また、やや楽観的な見方が広がり始めていた米中通商摩擦についても、5月には2000億ドル分の中国からの輸入品に対し、米国は関税を25%に引き上げ、さらに9月には1200億ドル分の輸入品にも15%の関税を賦課するなど、特に年後半は米中関係に振り回される結果となった。英国の欧州連合(EU)離脱に向けた動きも加えて、こうした国際政治の混乱が世界のセンチメントに影響を与え、グローバル製造業PMIは2018年以降の下落トレンドを続け、5月には節目である50を割り込んだ。

この結果、2019年の世界の経済成長率は前年比プラス2.7%と2018年の同3.3%から大きく減速したが、前述の通り、世界の中央銀行が一斉にハト派化し、政策金利を下げたお陰もあってか、世界の主要国株価指数は軒並み2─3割程度上昇している。

2020年も世界の経済成長率は前年比プラス2.5%と2019年よりもやや鈍化すると予想しているが、それでも引き続き31の中央銀行中、FRBを含む16の中央銀行が利下げを行うと予想しており、株価は下支えされるだろう。グローバル製造業PMIは7月でボトムを打ち、11月には50を上回るところまで回復している。新年早々、米国と中国が正式に第1段階の通商合意に達すれば、世界の企業のセンチメントは一段と改善するかもしれない。

こうした中、ドル/円JPY=相場に関しては、2019年も10%以下の狭いレンジにとどまることがほぼ確実とななっている。これで3年連続で10%以下のレンジ内の動きとなり、しかもレンジは毎年小さくなってきている。

2020年も引き続き狭いレンジ内での取引となる可能性が高いと予想している。なぜなら、近年、ドル/円相場のレンジが狭くなってきている背景には、構造的な変化があると考えられており、そうした構造が来年も大きくは変わらないと見ているからである。

ドル/円相場を狭いレンジ内での動きにさせている構造変化とは、1)日米インフレ率格差の縮小、2)海外投機筋により円がファンディング通貨として利用されなくなっていること、3)本邦企業・投資家による活発な対外投資──と考えている。

まず、長期的な為替相場の水準は、両国の物価上昇率の差が大きく影響する。だが、2000年─2012年は平均して3%ポイント弱だった日米の消費者物価上昇率の差が、アベノミクスが始まった2013年以降は平均して約1.0%ポイントまで低下している。

日米間のインフレ率の差が縮小していることは、中長期的にみてドル/円相場のレンジを狭くする。

次に、ドルと円は、投資家のリスクテイク志向が強まると売られ、センチメントが悪化すると買い戻されるというファンディング通貨であるが、近年、円がこのファンディング通貨としての機能を以前ほどのようには果たさなくなってきていることが、ドル/円相場を狭いレンジにしている背景として考えられる。

円は「安全通貨」と呼ばれるような動きをするが、これは、そもそも、先行き見通しが明るい、いわゆる「リスクオン」の時に、世界の投資家が低金利である円を売って、高金利通貨を買うキャリートレードを行う一方、逆に先行き見通しが暗くなる「リスクオフ」の時に、こうしたポジションを巻き戻す、つまり高金利通貨を売って、円を買い戻す動きをするために生じている。

しかし、最近はそもそも海外投資家が「リスクオン」の環境下でも円を売らなくなった。それには、2016年以降の欧州中銀(ECB)の金利引き下げに伴って、円よりもユーロの金利の方が明確に低くなり、ファンディング通貨として適任となったことや、世界的な低金利により、そもそも全体的に金利差が無くなってきていること、また、円が実質的には歴史的低水準にあることが背景として考えられる。

つまり、海外投資家が「リスクオン」の時に円を売らなくなったので、余計な円安にならない一方、「リスクオフ」の時に買い戻す円もないので、余計な円高にもならず、ドル/円相場のレンジが狭くなっているのである。

もう1つ、ドル/円相場のレンジが狭くなっている背景としては、本邦企業・投資家による活発な対外投資がある。200兆円以上の現金・預金を抱える本邦企業は、国内での投資機会が限られる中で、対外投資を膨らまさざるを得ない状況にある。また、日本の長期金利のほとんどがマイナス圏での推移を続け、本邦投資家は為替リスクを取って対外証券投資を膨らまさざるを得ない。

以上3つの要因は構造的なものであり、2020年も大きく変化はしないと考えられる。2019年中に相関が強かった日米金利差やFF金利先物市場におけるFRB金融政策織り込み度合いからみても、レンジを大幅に抜けるためのハードルは高そうだ。

また、相関は高くても、金利に対するセンシティビティは低いままで、多少、想定外に米金利が低下してもドル/円の下落は限定的となり、米債券価格の上昇による利益でドル/円の下落による損失を相殺できる状況となっている。

したがって日米金融政策や日米金利差の予想からは、ドル/円に大きな動きは期待できず、前述の通り3年連続の狭いレンジ内での動きが構造的要因によるものであるならば、2020年も2019年と同程度の狭いレンジ内での推移となっても不思議ではない。

当社の日米マクロ経済・金利のメインシナリオに基づけば、ドル/円相場が2020年中に過去3年間のレンジの105─115円をどちらかに大きく抜けると予想するのは難しい。

この他、11月の米大統領選挙やそれに向けた米中通商摩擦の展開、ブレグジッドの行方なども引き続き円相場にとって重要となるだろうが、過去2年間、円は地政学的リスクに対する懸念を背景に強い通貨となっており、市場参加者も円高方向への備えができていると考えられることから、大きく動くリスクは逆に円安方向にやや傾いていると考える。

引き続きコアレンジを107─112円と見ており、予想はほぼその中間を通って横ばいとし、目先は引き続きレンジの上限に向けた動きが続くと予想している。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

佐々木融氏

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

(編集:田巻一彦)

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