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コラム:ポストコロナ、日米物価格差広がれば円高か=佐々木融氏

[東京 21日] - 米国では新型コロナウィルス感染拡大のペースがかなり早かったものの、ペースの鈍化も早く訪れてきた可能性もありそうだ。ニューヨーク州のクオモ知事は週末に感染拡大の最悪期は過ぎた可能性があるとの認識を示した。

 4月21日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融市場調査本部長は、中央銀行のバランスシートの規模そのものではなく、中央銀行のバランスシートの変化が金利に影響し、それが為替相場に影響を与えると考えていると指摘。写真は2017年6月、シンガポールで撮影(2020年 ロイター/Thomas White)

新型コロナウィルスに対する米国政府の対応は素早く、日本では1人に付き10万円配布の方針がやっと示されたところだが、米国では既に中所得家庭の8000万人に対して給付金が支払われ、3500億ドル分の中小企業向け支援ローンも既に実行され、増額が決まろうとしている。

<膨張するFRBのバランスシート>

米連邦準備理事会(FRB)の動きも早く、バランスシートは既に前年比で60%以上膨んでおり、9%程度しか膨んでいない日銀と大きな差がついている。しかも日銀のバランスシート増加のほとんどはドルの流動性供給である。世界的金融危機(GFC=リーマンショック)直前のバランスシートの規模(2008年1月時点)と比較すると、日銀はGFC直前の5.4倍程度となっているが、FRBは7倍を超えた。

実額ベースでみたバランスシートの規模も、日銀が609兆円、FRBが6.4兆ドルとなり、3年ぶりに再びFRBの規模が大きくなった。

<ソロスチャートは参考にならない公算大>

日米の中央銀行のバランスシートの相対的な大きさや変化をドル/円JPY=EBS相場と比較した、いわゆるソロス・チャート的なものを描くと、目先はかなりの円高となることを示唆している状況となる。

もっとも筆者は今回、日米中央銀行のバランスシートの比較は、ドル/円相場の先行きを占う上で、あまり役に立たないのではないかと考えている。

そもそも筆者は、中央銀行のバランスシートの規模そのものではなく、中央銀行のバランスシートの変化が金利に影響し、それが為替相場に影響を与えると考えている。既に米国の金利がかなり低いところまで低下している中、ここからFRBが積極的な米国債購入を続けても米金利の低下余地は限定されているため、為替に与える影響も限定的であると考えられる。

<FRBの社債購入増、ドル上値重くする要因>

もっとも、やや長期的な別の2つの観点からドル/円相場に与える影響を見ていく必要はあると考えている。

1つはFRBの資産買入がドルに与える影響だ。2008年から2009年にかけてFRBがバランスシートを拡大させた後、ドルは下落基調をたどったが、2013年から2014年にかけて拡大させた時には、その後にドル高が始まっており、FRBのバランスシートとドルの間に明確な関係があるようには見えない。

中央銀行が民間銀行から国債を買い入れるだけであれば、ドルは実際には市中に出ていく訳ではない。しかし、今回FRBは比較的大規模にプライマリー市場でも社債を買い入れたり、低格付けの社債も購入しようとしている。こうした動きがドル安につながるようであれば、ドル/円の上値を抑えることになろう。

<日米インフレ格差、短期的には縮小へ>

もう1つはインフレ率を通じた影響だ。今回の新型コロナウィルス感染拡大を受けて、日本経済はデフレに逆戻りする可能性がある。しかし、米国のインフレ率も同様に低下することが予想されているため、当社の日米エコノミストの予想によれば、日米のインフレ率格差はいったん縮小することが予想される。

近年、ドル/円相場のレンジが狭くなっている理由について、以前も本欄で解説したことがあったが、そのうちの1つが日米のインフレ率格差の縮小だった。従って、その観点からは目先のドル/円相場が狭いレンジ内で動き続ける状況が続くことを意味するかもしれない。

<中期的な行方、ドル/円を左右>

しかし、仮に米国政府の積極的かつ迅速な財政支出や、FRBの積極的なバランスシート拡張が結果的に米国のインフレ率を再び押上げ、他方で日本では再びデフレ状態が続くことになると、長期的にはドル/円相場が円高方向に動き始める可能性が出てくる。

ここ数年は米国でもインフレ率や金利が長期的に低下トレンドをたどり、日本との金利差やインフレ率格差が以前に比べると小さくなってくる中で、ドル/円相場のレンジは比較的小さくなる傾向が強くなってきた。

だが、今回の新型コロナウィルス感染拡大の影響とそれに対する政策対応が、再びドル/円相場の動きを大きくするようなマクロ経済環境を創りだすかもしれない。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

(編集:田巻一彦)

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