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コラム:急速に変化するドル/円の外的環境、円高促す3つの要因=佐々木融氏

[東京 28日] - ドル/円相場は昨年3月に111円台まで上昇した後、反落基調をたどり、今年初には102円台まで下落した。そして、そこから今年3月末までに再び111円ちょうど近辺まで反発した。ちょうど約1年間で111円台から102円台までの概ね10%を往復したことになる。

 4月28日、ドル/円相場は昨年3月に111円台まで上昇した後、反落基調をたどり、今年初には102円台まで下落した。そして、そこから今年3月末までに再び111円ちょうど近辺まで反発した。ちょうど約1年間で111円台から102円台までの概ね10%を往復したことになる。写真は2017年6月、シンガポールで撮影(2021年 ロイター/Thomas White)

ドル/円相場の動きを分析する際には、ドルと円のどちらの動きが主導しているのかを分析する必要がある。そうしないとドル/円相場変動の背後にあるものが見えてこない。

昨年3月の111円台から今年初の102円台までの下落は、ドルの下落が主導した。主要通貨のパフォーマンスをみると、この間のドルは最弱通貨で、円は2番目に弱い通貨となっている。つまり、円高ではなく、完全にドル安主導でドル/円相場は下落した。

逆に今年初の102円から3月末の111円近辺までの反発は、円の下落が主導している。この間の円は最弱通貨であったが、ドルは3番目に強かっただけで目立ってドル高だったわけではない。米長期金利が上昇し、日米長期金利差が拡大するとともにドル/円相場が上昇したため、ドル高とみられがちだが、実際は、米長期金利と円の逆相関関係が強くなって、ドル/円相場が上昇した。 ドル/円相場は4月以降、再び107─108円程度まで下落トレンドをたどっている。これを主導しているのもドル安だ。4月入り後、ドルは主要通貨の中で最弱、円は主要通貨の中で中程度のパフォーマンスで強くも弱くもない。

つまり、昨年3月以降、現在までのドル/円相場の上下動の背景にあるドライバーは、下落局面では2回とも「ドル安」主導、上昇している時には「円安」主導だったことがわかる。要するに昨年3月以降、ドルは基調として弱い状態が続いている。

<ドルは昨年3月から11%下落>

実際、ドルを名目実効レートベースでみると、昨年3月から今年1月まで11%下落し、その後に年初からの3カ月間で3%反発した程度で終わった。そして4月に入ってから既に2%反落している。

ドル/円相場の動きをなぞった際と異なる印象を受けると思うが、それはドル安時に円もそれなりに弱いからで、ドル全体としてみると、昨年3月からの下落トレンドは続いており、もう少しで今年1月初のボトムを下抜ける。

名目実効レートが分かりづらければ、豪ドル、NZドル、ノルウェー・クローネ、加ドル、英ポンドなどの対ドル相場をみて欲しい。ドルは昨年3月からこれらの通貨に対して下落トレンドを続けている。

筆者はドルを取り巻くファンダメンタルズが昨年以降の新型コロナウイルス感染拡大を受けて、極めて悪化しているとみており、昨年3月に始まったドルの下落トレンドは今後も長期的に続く可能性が高いと考えている。そして、結果的に緩やかながらもドル/円相場の下落圧力につながると考えている。

<膨らむ米経常赤字>

ドルを取り巻くファンダメンタルズの悪化は、主に3点挙げられる。1つ目は財の貿易赤字が金額ベースで既に過去最大まで急拡大し、経常赤字の対国内生産(GDP)比は2008年以来13年ぶりに3%台半ばまで拡大。来年は4%に迫ると予想されている。

ちなみに米連邦準備理事会(FRB)の利上げ期待が高まるようであれば、ドルは買われると多くの市場参加者が考えているし、筆者もその可能性は高いと今は考えている。なぜなら、前回の利上げ局面がそうだったからだ。

もっとも、前々回の利上げ局面、つまり2004年から06年の利上げ局面では、ドルが下落トレンドをたどった。前回と前々回のFRBの利上げ局面の違いは経常赤字の大きさだ。前回の利上げ局面の経常赤字対GDP比は2%前後で安定していた。しかし、前々回は4─6%台で拡大基調だった。

今後の赤字拡大ペースによっては、FRBが利上げに動く時には赤字がさらに拡大していて、前々回の利上げ局面のように、利上げをしてもドルが下落トレンドを続ける可能性もある。

<急速に増加した米M2>

ドルを取り巻くファンダメンタルズ悪化の2つ目は、マネーストックの伸びだ。コロナ禍に対処するための経済対策による歳出が相当な規模に上ったため、米国のマネーストック(M2)の伸びは前年比27%も増加している。日本を含むその他主要国は概ね前年比10%前後の増加であるため、3倍近くの伸びになっている。

また、米国のマネーストックは過去最大の前年比を記録した1970年代でも前年比13%台であり、現在はその倍の伸びとなっている。中央銀行がこれまで進めてきた量的緩和政策はベースマネーを増やしてきたが、今度は財政でマネーストック、つまり非金融部門が保有するマネーを直接増やしている。人間が製造できる製品やサービスには物理的限界があるが、紙切れはいくらでも刷ることができる。物理的なバランスから言っても、これだけ大量に放出されたドルという名前の紙幣の価値は、減価が避けられないのではないかと思う。

<日米実質金利差のマイナス化>

ドルを取り巻くファンダメンタルズ悪化の3つ目は、マイナスの実質金利だ。今年の2月から3月に実質金利はやや反発したが、それでもまだマイナス圏だ。一方、日本の実質金利はプラスなので、日米実質金利差はドル/円相場が80円台で推移していた時と同程度のマイナス幅となっている。

このように、ドルを取り巻くファンダメンタルズは昨年以降急速に悪化している。また、米国の経済対策はこれまでのようにばらまくだけという形は終わり、増税とセットになる。JPモルガンは米国経済のピークは今年4─6月期となり、その後は徐々にスローダウンすると予想している。そうした中、市場の目は増税の方に向くだろう。その結果、FRBが利上げに向かうハードルは高くなるだろう。

<テーパリングは決め手にならず>

FRBがテーパリング(債券購入の段階的縮小)を行うから米長期金利が上昇して、日米金利差が拡大し、ドル/円が上昇すると予想する向きもある。もちろんその可能性は否定できない。しかし、前回FRBが実際にテーパリングを実行した2014年は米長期金利は一貫して低下基調をたどった。

また、日米金利差とドル/円の関係に関して言えば、昨年後半は日米金利差が拡大しながらドル/円は下落基調が続いた。つまり、日米金利差とドル/円の関係は常に安定しているわけではない。相関関係が強い時には注目されて、弱くなると無視されるので、日米金利差とドル/円の相関関係が常に強いという誤解を生む。

さらに6カ月間の平均でみた日米のインフレ率格差も、8年ぶりの大きさに開いている。つまり、ドル/円相場の均衡レートは徐々に円高方向にシフトしている。

現在のドル/円相場を取り巻くファンダメンタルズは、これまでにないほどドル安・円高方向へ傾いている。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

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