March 20, 2018 / 3:36 AM / 6 months ago

コラム:習氏の中国、見えてきた異質性の正体=西濱徹氏

[東京 20日] - 中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が20日閉幕した。今年の全人代は、昨年秋の共産党大会において党総書記の再選を果たした習近平氏にとって、政権2期目の道筋をつける重要な会議である。

習氏を巡っては、一昨年の第18期中央委員会第6回全体会議(6中全会)において党の「核心」と位置付けられ、前述した党大会では党規約に「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」と自らの名前を冠した思想体系が組み込まれるなど、党内の権力基盤強化が進められてきた。

さらに、全人代に先立つ形で開催された第19期中央委員会第2回全体会議(2中全会)では憲法改正が議論されたほか、慣例では全人代後に開催される第19期中央委員会第3回全体会議(3中全会)が全人代直前に政府の機構改革や主要人事を討議する場として開催されるなど、習氏が主導する形で党運営が行われている。そうしたことも、今回の全人代に対する国内外からの注目につながった。

<量より質の成長へ転換が具体化>

例年、全人代の開催期間は10日程度とされるが、今年は5日の開幕から16日間と異例の長期間に及んだ。この背景には、憲法改正案に加えて、政府の機構改革や主要人事など、期間中に討議される議題が多岐にわたっており、その調整に時間を要することが影響したと考えられる。

初日に発表された「政府活動報告」では、今年の経済成長率目標が「6.5%前後」、インフレ目標が「3%前後」と昨年から据え置かれたほか、積極的な財政政策と穏健中立な金融政策を通じて景気を下支えする姿勢も維持された。

しかし、今年は多くの経済指標に関する目標の具体的数値は示されない一方、今年度予算では財政赤字の対国内総生産(GDP)比目標が2.6%と昨年実績(同3.0%)を下回る水準に抑えられた。こうした姿勢は、共産党内で昨年末以降、経済成長の「量から質」への転換が具体化したものと捉えることができる。

なお、財政赤字幅の圧縮に関連して、共産党は「歳出削減を意味するものではない」との見解を示しているが、今年はここ数年に比べて財政出動による景気下支えの動きは弱まると見込まれる。

<「国家監察委員会」設置の真意>

今回の全人代で最も注目を集めた事柄の1つが、上述した2中全会において議論された憲法改正だろう。今回の憲法改正では、前文に胡錦濤前国家主席が掲げた「科学的発展観」とともに、「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」が、国家の指導思想に格上げされた。現職の最高指導者が自らの名を冠する思想体系を加えるのは毛沢東氏以来となる。

また、前文には、習氏の党総書記就任時の演説で述べたスローガンである「社会主義現代化強国」の建設、並びに「中華民族の偉大なる復興」も加えられ、さながら「習近平憲法」の様相を呈している。第1条には「共産党の領導は中国の特色ある社会主義の最も本質的な特徴」との文言が入り、党による支配が一段と強まると見込まれる。

さらに、国家主席と副主席の任期について、連続での3選禁止を記した規定が撤廃され、習政権の「終身化」が事実上可能となった。中国では鄧小平氏以降、長年にわたって集団指導体制による政権運営が行われてきたが、今回の憲法改正を経て習氏による「一強体制」が確実なものになったと判断できる。

加えて、全人代で決定した政府機構改革では、習政権1期目の成果である「反汚職・反腐敗」を支える国家機関として「国家監察委員会」が新たに設置され、そのトップの主任には楊暁渡氏が就任した。楊氏は、習氏の上海市トップ(党上海市委書記)時代に部下として仕えるなど側近の1人とされ、昨年秋の共産党大会では党の反汚職・反腐敗組織である党中央規律検査委員会の副書記に就任した。

国家監察委員会は憲法改正を受けて、国家の最高監察機関に位置付けられており、習政権下ではこれまで「反汚職・反腐敗」の名の下に党内の政敵が駆逐されてきたが、今後はその対象が全ての公務員に広がることとなる。

<欧米との大きな軋轢は必至か>

足元の中国経済を巡っては、過剰債務に伴う金融システムリスクの表面化が懸念材料となっており、これまで銀行と保険でバラバラだった監督機関を統合して「銀行保険監督管理委員会」が設置される。ただし、証券監督管理委員会(証監会)は統合できず、金融行政を巡る意見集約が難しいことをうかがわせる。

また、習政権が進める対外政策である「一帯一路」を担う機関として「国家国際発展協力署」が新設される。これは、外交を担う外交部には依然、江沢民元国家主席の影響力が残る中、別働隊として一帯一路を推進する狙いがうかがえる一方、単に屋上屋を架す組織となる可能性もあろう。

そして、習政権2期目を担う主要人事では、政権1期目に「反汚職・反腐敗」を担ってきた王岐山氏が国家副主席に就任した。王氏は昨年秋の共産党大会で慣例に従って党要職を離れたものの、政府要職に復帰して事実上の「政権ナンバー2」となる。

上述したように、憲法改正によって国家主席と副主席は任期の上限が撤廃されており、今回の人事は習氏と王氏の「二人三脚」の色合いが強まることを意味する。王氏はかつて経済閣僚として対米交渉に携わった経歴があり、米中貿易摩擦がクローズアップされる中、その交渉役となる可能性が高まっている。

経済担当の副首相には習氏の「経済ブレーン」として政権1期目の経済政策に重要な役割を果たしてきた劉鶴氏が就任した。また、長年にわたり中国人民銀行(中央銀行)総裁を務め、国際金融市場では「ミスター人民元」と知られた周小川氏の後任には、副総裁を務めた易鋼氏が昇格し、劉氏とともに金融システムリスクの抑制に取り組むこととなる。

なお、李克強氏は首相に再任されたが、習政権発足当初は習氏と李氏による「二人三脚」的な役割が期待されたものの、実際には習氏に権力が集中する中で政権内での存在感は霞(かす)んでいる。政権2期目は経済政策のみならず外交面などでも習氏の側近の存在感が高まり、李氏の影響力のさらなる低下は避けられそうにない。

習政権2期目は、習氏自身やその側近に権限が集中する形で始動しており、今後もそうした色合いは一段と強まっていく方向にある。習政権は国内のみならず、対外的にも「中国の特色ある社会主義」を前面に主張するとみられ、欧米を中心とする既存秩序との間で大きな軋轢が生まれる可能性は高い。その意味では、日本をはじめとする国際社会はその「異質性」といかに対峙するのか、真剣に考える必要に迫られていると言えよう。

*西濱徹氏は、第一生命経済研究所の主席エコノミスト。2001年に国際協力銀行に入行し、円借款案件業務やソブリンリスク審査業務などに従事。2008年に第一生命経済研究所に入社し、2015年4月より現職。現在は、アジアを中心とする新興国のマクロ経済及び政治情勢分析を担当。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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