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コラム:日本の国際金融都市実現を阻む3つの障害=佐々木融氏

[東京 19日] - 菅義偉新政権下でまた、国際金融都市構想に関する議論が盛り上がっている。香港の混乱もあり、外国金融人材を日本に呼び込み、日本のどこかの都市を世界の金融ハブとするというもくろみだ。

10月19日、菅義偉新政権下でまた、国際金融都市構想に関する議論が盛り上がっている。都内で3月撮影(2020年 ロイター/Stoyan Nenov)

為替市場だけをみても、日本の国際金融市場としての地位低下は著しい。約10年前の国際決済銀行(BIS)による調査では、日本の外国為替取引高が世界全体に占めるシェアは6.2%で、英国、米国に次いで3位の規模だった。それが2019年4月の調査ではシェアは4.5%まで低下し、シンガポール、香港に抜かれて5位に後退している。

<掛け声倒れの現実>

外国金融人材を呼び込み、日本を国際金融都市にしようという掛け声は、何度か聞いたことがある。直近では東京都の試みだ。東京都は数年前から金融系外国企業が都内に新たな拠点を設立する際に補助金を出したりして、実際に何社かの拠点設立は実現している。だが、期待するような大きな動きにはつながっていない。

なぜだろうか。海外の金融機関は、日本にとても興味を持っている。それは日本人が巨額の金融資産を抱えているからだ。そこに東京都が旗を振り「皆さん東京に来てください。設立時の費用は多少補助しますよ」と言えば、日本の金融資産にアクセスするきっかけを探している海外の金融機関は多少は興味を持つ。

だから東京都の取り組みで誘致された企業のほとんどは営業・販売拠点、リサーチ拠点となっていて、運用拠点ではない。このまま旗を振っているだけだと、結局は日本の金融資産にアクセスできない結果をみて、最後は東京都の拠点をクローズして出ていくことになるだろう。

この手の話になると、必ず出てくるのが税率の話だ。もちろん税率は低い方が良い。特に相続税などは海外の富裕層が日本に住むことを妨げないようにすべきだ。ただし、よく話題になる所得税や法人税の税率は、実はあまり重要な問題ではない。

日本のどこかの都市を国際金融都市にするための税率引き下げは、最初にやらなければならないことではない。逆に税率を香港・シンガポール並みに引き下げるだけでは、日本に国際金融都市は誕生しないだろう。

<税率から資産規模に焦点シフト>

それでは日本を国際金融都市にするためには、どういう施策が必要だろう。筆者の同僚・知人の意見も参考に、以下の3点にまとめてみた。

1つ目は税率に焦点を当てるのではなく、日本が優位な資産規模を活用することだ。例えば、ある海外のファンドマネージャーが自分は毎年5%のリターンを生み出せると自信を持っているとする。このファンドマネージャーが現在運用を任されている資産が100億円ならリターンは5億円。このファンドマネージャーが税金の掛からない国に住んでいると仮定すれば税引き後のリターンも5億円になる。

一方、このファンドマネージャーが日本にやってきて1000億円の運用資産を任されればリターンは50億円になる。日本で50%の税金を取られても、税引き後のリターンは25億円が残る。

こうした例からもわかるように、トラックレコードもある優秀なファンドマネージャーにとって重要なのは税率ではなく、任される運用資産の規模なのだ。国が数兆円の運用資産を提供し、そこに民間機関投資家も出資するような形にすれば、海外の優秀なファンドマネージャーは運用資産の規模にひきつけられて日本に集まってくるだろう。

もちろん、しっかりとしたゲートキーパーと全体のプロジェクトをきちんと取り仕切る運用経験のある責任者を付けて、われわれの資産が増えていくように管理する必要もある。運用拠点が日本に来るとそれを支える法律や財務の専門家、ミドルオフィス、バックオフィスの人材も必要となるため、雇用も大幅に増加することになる。

<英語環境の劇的な改善>

2つ目は、英語でのビジネス・生活環境を飛躍的に向上させることだ。上記のように資産規模で海外の優秀なファンドマネージャーと運用拠点を日本に移すことに成功しても、ビジネスや生活環境が不便であれば、結局は再び日本から出て行ってしまうであろう。

会社の設立に関する契約、オフィスや自宅を借りる際の相談や契約・諸手続き、日々の買い物、旅行、医療、子供の学校(インターナショナル・スクール)等、全てにおいて英語しか理解しない人でも、不自由を感じない程度まで日本の英語環境を引き上げる必要がある。日本では外国人がクレジットカードを作るのが実質的にかなり難しい。日本語が分からないと銀行口座を開くのも困難だと言う。

また、なんとか口座を開設できても、日本には個人を相手にする国際的な銀行がないので、海外にある自分の口座との間での資金のやりとりが非常に面倒だったり手数料が異常に高かったりする。このような現状は、そもそも国際金融都市になることを検討する前に改善すべきであろう。  本当に外国金融人材をもっと呼び込みたいのであれば、既に日本にいる外国金融人材の声に耳を傾けて、早急に改善する必要がある。既に日本にいる外国金融人材は、海外にいる同僚に日本で生活する場合の実情を話していることは間違いない。金融関係者にかかわらず、外国人の多くが旅行で来日するだけではなく、長く住んでみたいと思うような国にしなければならない。

<金融への悪印象を捨てる>

3つ目は金融やマーケットに関し、肯定的かつポジティブ思考になることだ。日本は株式会社の社長が「株式投資はわからないし、危ないからやらない」という国だ。28年間金融機関で働いてきて思うのは、日本は金融リテラシーが低いというより、金融に対するアレルギーが強過ぎる。ニュース番組の司会者が、金融やマーケットの動きを理解できないことを自慢しているように見える時もある。

この1年間でドル/円JPY=EBS相場は円高方向に振れているが、東証マザーズ指数.MTHERは過去1年間で50%以上も上昇し、米国のナスダック指数.IXICさえアウトパフォームしている。しかも、日銀は東証マザーズ指数の構成銘柄を1社も買っていない。こうした明るく強気な側面はあまり注目されず、今後さらに円高が進んだり、日銀がETF(上場投資信託)購入を止めたら、日経平均株価.N225が下落してしまうことを心配する声が強い。

また、「富裕層優遇」という言葉が、日本の金融市場を活性化させる様々な制度改正の試みをつぶしてしまう。海外の金融機関に働く人材が来日して活発なマーケットで取引を行い、利益を上げることにポジティブな評価をできる国にする必要がある。

日本が国際金融都市になるためには、税率引き下げを検討する前に、こうした点をまず、検討し改善するべきだろう。ただ、そうは言っても筆者は本当の意味で日本が国際金融都市になるのは簡単ではないと思う。上記で挙げた2番目、3番目は、そう簡単に変えることはできそうにないからだ。

香港やシンガポール、ロンドンが世界の金融のハブになっているのは、英語が通じるからという単純かつ重要な側面が強い。そう考えた時、日本が国際金融都市の一角として競うべきなのは、香港やシンガポールではなく、アジアの経済大国の市場という観点から、上海なのではないかという気もする。そう考えると、税率はますます重要ではなくなってくる。  

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

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編集:田巻一彦

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