for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up

コラム:直近の円安は短命か、国内投資家が円売りをためらう構図=佐々木融氏

[東京 29日] - ドル/円相場は年初からの12週間で103円台から109円台後半まで6%以上上昇した。12週間のでこれだけ上昇率は、2018年半ばや2016年末にかけての急上昇以来の動きだ。

 ドル/円相場は年初からの12週間で103円台から109円台後半まで6%以上上昇した。12週間のでこれだけ上昇率は、2018年半ばや2016年末にかけての急上昇以来の動きだ。佐々木融氏のコラム。写真は2017年6月撮影(2021年 ロイター/Thomas White)

過去12週間の主要10通貨のパフォーマンスをみると、円は最弱通貨となっており、米ドルは加ドル、英ポンド、ノルウェー・クローネに次いで4番目に強い通貨となった。つまり、ドル/円相場上昇の背景としては、米ドルの強さもあるが、円が弱い通貨となっていることが主因となっている。過去12週間で円は名目実効レートベースで4.5%下落し、約2年ぶりの低水準を記録した。

12週間で4.5%の円安はそれほどまれな動きではないが、こうした円の弱さは各国の長期金利の動きでも概ね説明できる。

例えば、過去12週間のパフォーマンスが上位6通貨の10年国債金利は全て50bp以上上昇しており、日本を含む下位4通貨の10年国債金利(ユーロ圏は独国債金利)は最大でも30bp程度しか上昇していない。日本国債の上昇幅は6bpと最も小さい。

ドル/円相場と日米10年国債金利の相関関係もかなり強くなっており、3カ月間の相関関係は約4年ぶりの強さとなっている。

また、金利以外に短期的なポジションの動きも、円安に影響している。1月初めのジョージア州の上院決選投票の結果を受け、米国の追加経済対策が民主党の主張に沿って大規模になるとの期待が浮上。円やスイスを売って、コモディティ通貨を買う「リフレトレード」の動きが強まり、昨年末までに積み上げられていた円ロング・ポジションが手仕舞いを余儀なくされ、今では円ショート・ポジションの積み上げが進んでいる。

シカゴマーカンタイル取引所(CME)の国際通貨先物市場(IMM)を通じた円の投機的ポジションの変化をみると、今月に入って円ロングポジションから円ショートポジションに大きく転換している。3月23日までの5週間のポジションの変化幅は、2016年12月までの5週間以来の大きさとなっている。円ショートポジションの大きさは、昨年2月以来の規模に膨らんだ。

足元のドル/円相場の上昇圧力の強さは予想外だった。筆者は引き続きドル/円相場は中長期的には下落すると予想しているが、短期的な上昇トレンドがもうしばらく続くことは否定できない。

ドル/円相場は、ここからさらにどの程度上昇余力があるだろうか──。金利差からみると J.P.モルガンの米金利ストラテジストは今年末までに米10年国債金利が1.95%まで上昇すると予想している。仮に現在の日米10年国債金利差との相関関係が維持されたとすると、ドル/円相場は111円台まで上昇する計算となる。

IMMを通じた円の投機的ショート・ポジションも2017年から2018年の間には現在の2倍以上の規模、円キャリートレードが活発化しピークを迎えた2007年には現在の3倍以上になっていたこともあった。IMMを通じた投機的ポジションは氷山の一角でしかなく、全体を表してはいないが、マーケット全体としても円ショートポジションの拡大余地はまだあるとみて良いだろう。

そうは言っても、こうした円安の動きが今後さらに数カ月間も続くとは見ていない。金利差との相関関係は通常長くは続かない。実際、昨年後半は日米金利差が拡大しながらドル/円相場が下落するという逆相関関係だった。今年に入ってからは米長期金利と米ドルの正の相関関係、米長期金利と円の負の相関関係がともに強くなる比較的珍しいパターンとなっているが、米ドルとの正の相関関係は既にかなり弱くなってきている。

円ショートポジションも、2004年から2007年頃の円キャリートレード活発化時のようには拡大しないだろう。当時は日本と先進国の政策金利加重平均値との金利差は150bpから400bp程度まで拡大したため、金利差を稼ぐことができたが、現在は10bp程度しか差がなく、動きがない。

2004─2007年ほどではないが、円ショートポジションが現在の2倍程度の規模まで拡大した2017─2018年でも日本と先進国の政策金利差は130bp程度まで拡大していく過程だった。現状の短期金利差では円ショートポジションから意味のある程度のキャリーは稼げないため、規模、持続期間ともに限界があると考えられる。

また、長期金利については、2017─2018年当時の水準までは及ばないものの、米国、カナダ、オーストラリアなどで比較的大きく上昇している。しかし、今回の長期金利の上昇は短期金利の上昇を伴っていないため、イールドカーブが大きくスティープ化している。このため、日本の投資家は外債投資のために円を売るインセンティブがほとんどない。

例えば、現在、日本の投資家は為替リスクをヘッジして米10年国債に投資しても130bp程度のキャリーが稼げる。これは日本の20年国債金利の3倍近くのリターンだ。円ショートポジションが今より大きかった2004年から2007年や、2017年から2018年は、いずれも短期金利の上昇局面でイールドカーブが急速にフラット化している局面だった。つまり、為替リスクをヘッジしながら外債投資を行うことが難しい局面であった。

現在の投機的な円ショートポジションは、以前とは異なり、本邦投資家からの証券投資に伴う円売りというサポートを得られていない。年初来のドル/円相場の上昇は円安の動きに支えられており、この円安の動きもまだもう少し続く可能性は否定できないが、ファンダメンタルズからみて、現在積み上げられている投機的な円ショートポジションが、長期間維持されるような環境にはないと考えられる。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

編集:田巻一彦

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up