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コラム:大幅マイナスの日米実質金利差、縮小時が円高転換のサインか=佐々木融氏

[東京 28日] - 今、世界規模で起きている現象と言えば、もちろん新型コロナウィルスの感染拡大だが、同じように世界規模で広範に起きている経済的な現象と言えば、実質金利のマイナス幅急拡大だ。

 9月28日、今、世界規模で起きている現象と言えば、もちろん新型コロナウィルスの感染拡大だが、同じように世界規模で広範に起きている経済的な現象と言えば、実質金利のマイナス幅急拡大だ。写真は日本円と米ドル紙幣2017年6月撮影(2021年 ロイター/Thomas White)

<過去最低の実質金利>

実質金利は一般的には名目金利から期待インフレ率を引いた値として求められるが、長期的な動きを見るため、シンプルにJ.P.モルガンが算出する先進国の政策金利加重平均値から先進国の消費者物価指数前年比を引いた値でみると、実質政策金利の加重平均値はマイナス3.5%まで落ち込んでいる。この数値は1970年代まで遡ってみても、文句なく過去最低水準だ。

新型コロナ感染拡大前の最低水準は、世界金融危機(リーマンショック)後のマイナス2.1%だったので、そこからさらに1%ポイントも低い水準まで落ちこんでいる。

ちなみに新興国も含めた世界全体でみても、実質政策金利はマイナス2.1%となっており、データを確認できる1990年代半ばからみても圧倒的に過去最低水準だ。

<株・商品にマネー流入>

前代未聞の超実質低金利は、すでに株価やコモディティ・エネルギー価格の上昇につながっていると考えられる。個人も含めた投資家は単純に預金や債券だけを保有していると、資産は実質的に目減りしてしまうので、価格が大きく上昇を続けていて、今後も上昇すると期待される株式やコモディティ・エネルギーといった資産に投資をする。暗号資産に対する投資もそうした動きの1つと考えられる。

世界の投資家はこれまでの世界的なディスインフレ傾向の中で、インフレに対するヘッジができていないため、今でも、今後もさらに、インフレヘッジのために株式やコモディティ・エネルギー投資を進めるだろう。

その結果、本来一過性と思われたインフレ率上昇はなかなか収まらず、一方で中央銀行はコロナ禍の影響も残るため、積極的な利上げには踏み切れないという状態がしばらく続くかもしれない。

そのため実質金利は大幅なマイナス状態が続き、もし、インフレ率がさらに上がるようなことがあれば、実質金利のマイナス幅は大きく拡大することになるだろう。

<大幅なマイナスの日米実質金利差>

世界的な実質金利のマイナス幅拡大は、本来、ドル/円相場に影響していても良いはずだ。なぜなら、米国の実質金利は世界のトレンドの先頭をいくように大幅にマイナスだが、日本の実質金利は逆にプラスだからだ。

これまで長期的にみて、ドル/円相場との相関が比較的強かった日米実質金利差(政策金利から、除く食料・エネルギーで見た消費者物価指数前年比を引いた値)は、現在、マイナス440bpと1980年以来、41年ぶりの大幅なマイナス金利差となっている。米国の実質政策金利がマイナス3.8%で、日本の実質金利がプラス0.6%だ。

円を売って米ドルに交換して、そのままキャッシュで保有し続けると、実質的には4%以上の損失ということになる。米30年国債に投資して利子を受け取っても実質的には2%以上の損失になる。

市場参加者からは「実質金利差を見ながらトレードはしない」という声をよく聞くが、短期的な為替相場の変動には名目金利差の方が影響を与えるため、そうした声はもっともだと思う。

しかし、経済的な合理性を考えると、実質金利差の方が為替に影響を与える度合いが強いのではないかと思われる。実際、過去も長期的にみれば、実質金利差はドル/円相場の動きに対する説明力がそれなりに高かった。

<ドル/円が110円で安定している理由>

では、なぜ今は、歴史的なマイナスの実質金利差にもかかわらず、ドル/円相場は110円前後で安定しているのだろうか──。

それは恐らく、株価などの米国の資産価格が上昇を続けているからだろう。米国の実質金利は長期金利でみても大幅にマイナスなので、単純に米国債を保有しているだけでは、実質的に資金が目減りしていく。

しかし、米国株に投資していれば、株価が上昇しているうちは、マイナスの実質金利とは無関係に資金が増えていく。だからドルは、一定程度下支えされていると考えられる。

筆者は、ドル建てで取引されている暗号資産への日本人による投資のフローも、結果的にドル/円相場を下支えしているのではないかと見ている。

従って、米国株や、暗号資産の価格上昇が止まった時、米国の大幅にマイナスとなっている実質金利が意識され始める可能性がある。なぜなら、価格が上昇する資産が無くなったら、ドルに投資する意味はないからだ。ドルをキャッシュや債券で保有しているだけでは、実質的な損失を被ってしまう。

<円高に反転するタイミング>

ドル/円相場にも、同じことが言える。ドル/円相場が上昇基調をたどっているうちは、実質的な損失につながるトレードでも行う意味がある。実質金利差による損失以上にドル/円相場が上昇すれば良いのだ。

だが、ドル/円相場がこれ以上上昇しないと思われ始めたら、円をドルに替えるという行為は実質的に損失をもたらすだけになるので、行われなくなるだろう。

どのようなタイミングで、米国株やエネルギー・コモディティ価格、暗号資産、ドル/円相場の上昇が止まり、投資家が米国の大幅なマイナスの実質金利を意識せざるを得ない時が来るだろうか。それは名目金利が明確な上昇トレンドを示し、実質金利のマイナス幅が明確に縮小を始める時かもしれない。

その時、資産価格は崩れ、米ドルのキャッシュ・債券だけを保有することを避けるために、米ドルは売られる可能性がある。

逆説的だが、日米実質金利差のマイナス幅が拡大しているうちは、ドル/円相場は下支えされ、逆にマイナス幅が急速に反転縮小し始める時に、大幅なマイナスとなっている実質金利が存在感を示し始め、ドル/円相場の下落につながるのかもしれない。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

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