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コラム:15年と似てきたドル円相場、今回も米利上げ半年前から円買い戻しへ=佐々木融氏

[東京 26日] - フェデラル・ファンドレート(FF金利)先物市場は、10月に入ってから来年の米連邦準備理事会(FRB)による利上げ期待を積極に織込み始めている。月初の時点では来年中に1回の利上げを織込む程度だったが、その後の3週間程度で利上げ予想が前倒しとなり、現在は来年6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)までの1回の利上げは相当程度織込み、来年末までに2回の利上げは完全に織り込んでいる。そして、10月21日以降は来年末までの3回めの利上げも織込み始めるようになった。

フェデラル・ファンドレート(FF金利)先物市場は、10月に入ってから来年の米連邦準備理事会(FRB)による利上げ期待を積極に織込み始めている。佐々木融氏のコラム。写真は2013年2月、都内で撮影(2021年 ロイター/Shohei Miyano)

<最初の米利上げ開始まで半年程度、市場は見始めた>

J.P.モルガンは最初の米利上げを2023年初と予想しているが、市場は来年5月3─4日のFOMCでの利上げを半分弱織り込み、6月14─15日のFOMCでの利上げを相当程度織り込んでいる。

仮に5月のFOMCでの利上げ開始ということになれば、もう最初の利上げまで半年、6月のFOMCでの利上げ開始でも、あと7カ月半程度ということになる。

10月に入りFRBの利上げ期待が高まり始めると、それまで日米10年金利差と比較的強い相関関係を維持していたドル/円相場は、10年金利差の動きに連動しなくなり、日米2年金利差との相関を強めた。しかし、10月21日以降は日米2年金利差が拡大したにもかかわらずドル/円相場は下落した。

こうした動きの背景は、FF金利先物市場との比較で見ると分かりやすい。10月に入ってから、来年末までの利上げ織込みを1回から2回に増やす過程でドル/円相場は利上げ期待の高まりに沿う形で上昇してきたが、21日以降に3回目の利上げを織り込み始めたところでドル/円相場は利上げ期待の織込みについて行かなくなった。

円相場を取り巻く環境は、2015年12月からのFRBによる前回の利上げ開始半年前に似てきたように思える。

<黒田発言でドル円急落となった15年6月>

まず、円相場は対米ドルでみても、実質実効レートでみても、前回の利上げ開始半年前、つまり2015年6月が円のボトムだった。当時のドル/円相場は125円と今より円安水準だったが、実質実効レートでみると現在のレベルはほぼ当時と同水準の歴史的な円安水準だ。

ちなみに当時、円安の流れを止めた要因の1つと考えられているのが、黒田東彦日銀総裁の発言だった。黒田総裁は6月10日に「実質実効レートベースでみて、かなり円安になっているのは事実」、「実質実効レートがさらに円安になるのは、普通に考えると、なかなかありそうにない」、「これまで円安が(日本)経済にプラスだったから、さらなる円安でさらにプラスということではない」と発言し、ドル/円相場は124円台から122円台まで約2円下落した。

その後、7月─8月に再び124円台に戻すこともあったが、結局、黒田総裁発言前の6月5日の125円台後半が最高値となり、FRBは利上げを開始したものの、その後、約1年でドル/円相場は100円を割り込む所まで急落した。

当時の黒田総裁の発言は衆院財務金融委員会での質問への答弁であり、自ら積極的に発信した形式ではない。日本の為替政策は財務省の管轄であるため、そもそも日銀が為替相場の水準に自ら積極的に発信することはないだろう。

<15年より悪影響が大きい今の円安>

しかし、コモディティ価格の水準や、賃金格差の開きなどから、実質的に同水準の円安でも、2015年6月当時よりも現在の方が日本経済に悪影響を与えている可能性は高い。今後もさらに円安が進むような展開となれば、何らかの形で財務省・日銀等の当局者から円安懸念が発せられる可能性は低くはないだろう。

前回のFRBの利上げ開始前も、2014年夏以降に利上げ期待が高まっていく中で、ドル/円相場は日米10年金利差よりも日米2年金利差との相関を強め、利上げ期待が高まる中でドル/円相場も上昇していった。

しかし、2015年12月にFRBが利上げを開始する前から、さらなる利上げ期待が強まり、日米2年金利差が拡大してもドル/円相場の上値は重く、前述の通り、結局、ドル/円相場は日米2年金利差とも10年金利差とも相関がなくなり、下落基調をたどった。

恐らく、FRBの利上げ期待が高まる中で、投機筋が日米金利差に着目し、円ショートポジションを膨らませ、実際に利上げ開始が視野に入ってきたところで利食うために円を買い戻し始めたことも、こうした動きの一因となっていたと考えられる。

前回の利上げ開始6カ月前の2015年6月頃の国際通貨市場(IMM)を通じた投機的円ポジションは、現在とほぼ同水準の大幅円ショートとなっている。そして、当時は利上げ開始に向けて徐々に円ショートポジションが巻き戻され、利上げ開始後には円ロングポジションに転じている。

ドル/円相場が日米2年金利差拡大でも上昇しなくなったということは、今回も円ショートポジションが既に大きく積み上がっており、巻き戻しの動きが始まり出したのかもしれない。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

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