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コラム:ドル/円の天井決める米利上げのゴール、155円も視野に=佐々木融氏

[東京 17日] - ドル/円相場はついに148円台まで上昇し、1990年8月以来32年ぶりの水準まで上がった。日米の物価上昇率の違いを考慮した実質的な水準では、すでに1970年代の1ドル=360円当時よりも円安水準となっている。

 ドル/円相場はついに148円台まで上昇し、1990年8月以来32年ぶりの水準まで上がった(2022年 ロイター/Florence Lo/Illustration)

しかし、経済合理性に基づいて行動する主体が少なくなっている現状では、購買力平価が持つアンカー機能は影響が小さくなっている可能性があり、ドル/円相場がどこまで上昇するかを見通すのは難しくなっている。

<ドル高と円安が併存>

2021年初からの2年弱でドル/円相場は102円台から46円も急騰している。この間の主要通貨の騰落率をみると、米ドルが最強通貨、円が最弱通貨となっており、ドル/円相場のこの2年弱の急騰は、「米ドル高」と「円安」双方が影響していると言える。

そして、これまで何度か指摘している通り、「円安」の背景はかなり構造的に根深い要因となっている。円の実質実効レートは1971年以来の円安水準である。

しかし、10月5日以降、ドル/円相場の143円台からの上昇基調の背景は「米ドル高」主導になっている。この間の主要通貨のパフォーマンスを見ると、ドル独歩高となっており、円は3番目に弱い通貨に止まっている。

<FFレート5%まで織り込んだ市場>

ドルは引き続き米連邦準備理事会(FRB)の利上げ期待の高まりに押し上げられる展開が続いている。FF金利先物市場は相変わらず2023年第1四半期が利上げのピークとの織り込みを維持しながら、そのピーク水準は上方シフトを続けており、先週はFF金利ターゲットの上限が5%まで引き上げられることを織り込んだ。

8月以降の相関関係でみると、FRBの利上げ織り込みが25bp変化するとドル名目実効レートが1%変化する関係となっている。ドル/円相場との関係でみると、FRBの利上げ織り込みが25bp変化すると、ドル/円が2円弱動く関係となっている。

つまり、今後市場がどこまでFRBの利上げを織り込むかが、ドルの全体的な動きにとって重要であり、それはもちろんドル/円相場にも影響することになる。

FRBがどこまで利上げを続けるのかについて、過去の経験則で1つ興味深いものがある。それは、1970年代以降のFRBの利上げ局面で、FF金利の水準が米コアCPI(エネルギーと食品を除く消費者物価指数)前年比より下の水準で利上げが終了したことはない、というものである。

9月の米コアCPI前年比はプラス6.6%だった。つまり、過去の経験則に照らしてみると、FRBの利上げが6%台、もしくは7%台まで続いてもおかしくはないことになる。J.P.モルガンの予想はFRBが来年1四半期までにFF金利のターゲットを4.50─4.75%まで引き上げたところで、利上げ終了となっている。

従って、あくまでも計算上・仮定の上での話で、当社のメインビューではないが、仮に現在のFF金利先物市場とドル/円相場の相関関係が続くと仮定し、市場が6%までの利上げを織り込むとドル/円相場は155円を超え、7%までの利上げを織り込むとドル/円相場は163円台まで上昇するという計算になる。

<注視すべき米3カ月─10年のスプレッド>

そこまでの利上げが本当に実現するかどうかはもちろん定かではないが、利上げ継続の可能性を測るうえで、市場のリセッション懸念との関係を見ておくことは重要だろう。つまり、市場がリセッションを本格的に織り込むほどまでの利上げが進めば、その後、利上げ期待は後退して結局、ドルの全体的な上昇も止まることになる。

そうした意味では、3カ月─10年の米イールド・カーブはドル全体の今後の動きにとって重要となってくるかもしれない。3カ月─10年の米イールド・カーブはこれまでも逆イールドとなると、その後、比較的すぐに米経済がリセッション入りする傾向があったが、現在はまだ逆イールドとはなっていない。

単純に言えば、FRBの利上げに伴って上昇する3カ月金利から10年金利が逃げている(上昇している)状態が続いている。従って、今後FRBの利上げが進み、3カ月金利が上昇しても、10年金利が逃げ切れず(上昇し切れず)、3カ月金利が10年金利を上回るようなことになると、リセッション懸念が急速に高まり、最終的に利上げは終了し、ドルの全体的な上昇も止まることになると考えられる。

そうなれば、円の構造的な弱さは続いても、ドル/円相場の上昇基調はいったん収まるだろう。

<漸減する介入の効果>

もちろん、日本の財務省によるドル売り・円買い介入が一時的にドル/円の上昇を抑える可能性はあるだろう。しかし、「ドル高」の流れの中では、介入の効果はさらに限定的なものとなるし「投機的な動きをけん制するため」という理由で介入を正当化するのも難しいかもしれない。

1997─98年の円買い介入と同様、やはり今回も散発的・限定的な介入にならざるを得ないだろう。また、介入は回数を重ねるほど、1回1回のインパクトが小さくなってくる。次の介入の局面でドル/円が下がったところで、ドルを買いたいと待っている市場参加者は多いであろう。

さらに、バイデン米大統領は週末にアイスクリームを食べながら「ドル高は懸念していない。他国の経済を懸念している。問題は我々の政策ではなく、他国の健全な政策や経済成長が足りないことである」と、ドル高を問題視しない姿勢を示した。

イエレン米財務長官も14日に「市場が決定する為替レートがドルにとって最善の仕組みであり、我々はそれを支持している」、「物価上昇の抑制に向けてやるべき仕事はまだ残されている」と発言している。

日本側も日銀の金融政策との整合性が取れておらず、国際間の協調もない中でのドル売り・円買い介入は効果を発揮しないだろう。

米ドルの実質実効レートは1985年11月以来、37年ぶりの水準まで上昇している。1985年9月のプラザ合意前の同年3月につけたピークまであと10%程度のところまで上昇している。

しかし、1985年の米国のインフレ率は全体が前年比3%台、コアが同4%台と現在よりはるかに低い水準で推移していた。米国のインフレ率が落ち着くまで、米当局がドル高懸念を他国と共有する可能性は低いとみられる。

従って、今後もドル高の動きがドル/円相場を少なくとも155円程度まで押し上げる可能性は高そうだ。円の要因をみると、相変わらずファンダメンタルズから来る円売りは続いている。

海外からの訪日客が急増し、極端に安くなった円を買って、日本でショッピングを楽しんでくれるのにもまだ、もう少し時間がかかりそうだ。水際対策以外の日本側の政策変更がなければ、しばらくはドル/円相場の天井が見えてこないだろう。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

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