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コラム:日銀ショックで円独歩高、その後に表面化しそうな円売りの構図=佐々木融氏

[東京 21日] - 予想外の日銀による20日の金融政策修正を受けて、円はほとんどの主要通貨・主要EM(エマージング)通貨に対して3─4%程度上昇し、まさに「円独歩高」の様相を呈した。

 予想外の日銀による20日の金融政策修正を受けて、円はほとんどの主要通貨・主要EM(エマージング)通貨に対して3─4%程度上昇し、まさに「円独歩高」の様相を呈した。佐々木融氏のコラム。写真は東京都内の日銀本店。2020年5月撮影(2022年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

ドル/円相場は一時5%程度急落し、8月初め以来約4カ月半ぶりの水準まで下落した。ドル/円相場は年初から10月までの上昇分の半分以上を失った。

<市場が予測できなかった緩和修正>

J.P.モルガンのエコノミストは来年3月の黒田東彦総裁最後の会合で、イールドカーブ・コントロール政策(YCC)の上限引き上げを予想していた。当社の予想は市場の中で最も早期修正予想であったと考えられるため、その当社の予想よりも早い、市場にとってはかなり予想外の動きだったと言える。

為替予想はそうしたエコノミストの予想も含めて、2023年末に133円までの円高・ドル安を予想していた。だが、早くも130円まで下落してしまった。11月に作成した2023年の見通しが、ある意味、1カ月間で早期達成されてしまったような形となり、改めて来年の見通しを考える必要に迫られている。

その際、重要となるポイントの1つは、日銀の声明文、黒田総裁のコメントを額面通り受け取って良いのか、ということだろう。

日銀の声明文や黒田総裁の会見では、20日に実施した修正は「利上げでもなければ、金融引き締めでもなく、安定的な2%の物価上昇目標の達成はまだ見通せず、金融政策の枠組みや出口戦略について論じるのは時期尚早」としている。

そして、今回の措置は、ゆがんだイールドカーブが市場機能を低下させているため、市場機能の改善を通じて金融緩和効果を円滑に波及させるための措置だと強調している。

もし、これを額面通りに受け取って良いのであれば、さらなる長期金利の上限引き上げの時期はそれほど近くではなさそうであるし、中長期的な円相場見通しにとって重要な、政策金利がマイナスから脱却することも来年にはなさそうだ、と解釈できる。

そうだとすれば、今回の円高の動きは一時的なものに終わる可能性も高そうだ。ただ、額面通りに受け取って良いのかが分からない。

<日米金利差とかい離した円高の動き>

日米の長期金利差に関して言えば、日銀の金融政策修正を受けて日本の10年国債利回りが前日の0.25%から0.40%まで15bp急上昇したが、米国の10年国債利回りも10bp程度上昇したので、これまでドル/円相場との相関が強かった日米10年国債金利差は5bp程度しか縮小しなかった。16日と比較すると、金利差はむしろ5bp 程度拡大してしまっている。

一方、ドル/円相場は過去1カ月半程度の相関関係からは5円程度下方にシフトしている。つまり、日銀の金融政策修正による日本の国債金利上昇が、日米金利差の縮小につながって円高になったわけではない。

日銀の突然の政策修正に驚いた短期的な円買いによる円急騰だった可能性も高い。そうだとすると、日米短期金利差が16年ぶりの水準まで拡大している状況下で、休暇前に造成した円ロングポジションを長く保有し続けるのはコストが高く付くため、早々に巻き戻され、元の相関関係に戻る可能性もある。

<貿易赤字膨張と円売り>

そもそも、今年の円安の最も大きな背景の1つは、貿易赤字の拡大である。国際収支ベースの貿易収支は、昨年の1.8兆円の黒字から、今年は18兆円の赤字(対GDP比3%程度)に大きく悪化することが見込まれる。過去最大の年間赤字額(2014年の10.5兆円)の1.7倍の赤字額だ。来年はさらに26兆円、対GDP比4.5%程度まで赤字額が膨らむことが予想される。

毎月コンスタントに2兆円以上の円売りが日本の輸入業者から行われるわけであり、それを相殺するほどの円買い需要をコンスタントに期待するのは難しくなってきている。

また、日米の3カ月金利差は16年ぶりの440bp程度まで拡大している。こうした状態で長期間円ロング・ドルショートポジションを保有するのはコストがかかる。

これからクリスマス、年末年始休暇に入るが、円ロング・ドルショートポジションを維持しながら休暇に入ると、毎日金利差分を払いながら休暇を過ごすことになるため、ポジションは休暇前に手仕舞いたいと考えるのが普通かもしれない。そうだとすると、意外に早く円は売り戻されてしまうかもしれない。

こうしたファンダメンタルズを考えると、実は日銀と黒田東彦総裁のコメントを額面通りに受け取らなくても、円高基調が続くことを予想するのは難しい。

YCCの修正がさらに進んで日本の長期金利が上昇しても、20日の動きでもみられたように、日本の投資家がヘッジ付き外債の売却に動くとの思惑から米国の長期金利も上昇してしまうので、結局、長期金利差は縮小しそうにない。

「米国が利下げに動く中でも日銀が利上げに踏み切る」というほとんどあり得ない予想でもしない限り、日米短期金利差はさほど縮まない。また、日本の貿易赤字は金融政策で変えられるものではない。

<日銀の国債購入増の行きつく先>

最後に、円の価値を考える上で、もう1つ心配な動きが20日の日銀の政策修正の中にあった。それは、国債の買い入れ額の大幅増額と10年以外の年限でも指し値オペを実施するという発表だ。つまり、今回の措置は市場介入の手を緩めるように見えて、実は強化しているのではないかとさえ思える。

国債買い入れ額増額によって、来年予想される国債のネット増加額の全額を通常輪番オペだけで吸収することができる。防衛費増額を国債発行で賄おうという声は、ますます強くなるかもしれない。

また、YCCはそもそもマイナス金利政策導入後に長期金利が低下し過ぎたことに対応するための政策だったが、いつの間にか金利を一定程度の水準で固定するための政策になり、それが10年以外の年限にも使われることが正当化され始めている。

30年後に歴史を振り返った時、孫から「こんなことをしていたら、円という通貨が紙くずになってしまうことに誰も気が付かなかったの」と問われていることになるような気がしてならない。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

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