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コラム:日銀がYCC撤廃を決めても、大幅円高にならない3つの理由=佐々木融氏

[東京 25日] - 10年ぶりに総裁が交代した日銀の最初の会合が、27─28日に開催される。市場では今回の会合での政策変更に対する期待はやや後退しつつあるが、引き続き6月会合でイールドカーブ・コントロール政策(YCC)の変更を行うとの期待は強い。

 10年ぶりに総裁が交代した日銀の最初の会合が、4月27─28日に開催される。市場では今回の会合での政策変更に対する期待はやや後退しつつあるが、引き続き6月会合でイールドカーブ・コントロール政策(YCC)の変更を行うとの期待は強い。写真は13日、ワシントンで記者会見する植田日銀総裁(2023年 ロイター/Elizabeth Frantz)

<海外勢に根強いYCC撤廃観測>

市場の環境を踏まえると、日本の消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)が予想を上回る伸びを見せ、国内の景気が堅調さを維持する中、日本の10年最長期国債の金利がYCC上限の0.5%に張り付いていないという環境は、YCCのバンド拡大、あるいは撤廃を行うには好環境と言えるかもしれない。

4月第1週にシンガポール、シドニー、メルボルンの投資家を訪問したが、YCCのバンド拡大より撤廃を予想する投資家も多かった。

植田和男総裁は就任会見で「急に政策を正常化するとなると、非常に大きな調整をしないといけないし、市場・経済も大きな調整を迫られるので、なるべくそういうことがないように、前もって的確な判断ができるようにしていかないといけない」とも発言している。比較的早期の金融修正を期待させる発言でもあった。

<市場とのコミュニケーション重視する植田総裁>

一方、そもそも就任して間もないことや、28日の会合が大型連休直前であることから、日本国内では今回の会合では変更なしとの見方が主流だっただろう。先週から週末に向けて流れた報道はいずれも、今回の会合では過去の金融政策の点検・検証にとどめる可能性を示唆する内容だった。

植田新総裁は黒田東彦前総裁とは異なり、市場とのコミュニケーションを重視するとみられ、こうした報道はこれまで以上に重要視する必要があると考えられる。

オプション市場では28日にドル/円相場が1.4円程度動くことを織り込んでいる。元々は2円程度動くことを織り込んでいたので、かなり期待は後退している。6月16日は1.7円程度動くことを織り込んでいる。

筆者は日銀によるYCCバンドの拡大ないしは撤廃による日本国債10年金利の上昇が、持続的な円高につながるとは考えていない。また、一時的に円が上昇しても、短期間で元に戻ってしまう可能性が高いと考えている。そう考える理由は、以下の3つに要約される。

<長期金利差との相関は頻繁にシフトする >

日米10年国債金利差とドル/円相場の相関関係は、短期的には参考になるが、長期的には頻繁に上下にシフトしてしまうため、参考にならない。

昨年初から全体を俯瞰すれば強い相関が続いているように見えるが、詳細にみると、現在と同じ310bp程度の金利差の時に、ドル/円が144円台(昨年9月)だったこともあれば、130円ちょうど近辺(今年1月)だったこともある。

<日本の長期金利上昇時、日米金利差は縮小しない可能性>

日本国債の金利が上昇すると、日本の投資家がリパトリエーション(資金の本国還流)を行うとの思惑から米長期金利も上昇してしまうため、昨年12月20日のYCCバンド幅変更時と同様、結局、数日後には日米金利差は元に戻ってしまう可能性が高い。

実際、昨年12月20日に日銀がYCCバンド幅を拡大した後、円高は進んだが、米金利が上昇したので、年末までには金利差は拡大した。そして、先週末までをみると、日米金利差は30bp以上縮小しているが、ドル/円は3円超上昇している。

<本邦投資家の外債売り、円買いにつながらない理由>

例えば、日本の10年最長期国債利回りが2%を上回るほどの上昇となれば事情は異なるかもしれないが、50─100bp程度の上昇、かつ米長期金利も同程度上昇してしまう状況であれば、ヘッジ付き外債のリパトリが主な動きとなるだろう。従って、円買いにはつながらない。

日銀によるYCCバンド再拡大は市場でも大きく注目されているが、実際のマーケットに与えるインパクトは小さい。

それよりも、日本の巨額の貿易・サービス赤字(今年も昨年と同程度かそれ以上の赤字が見込まれる)と、22年ぶりの大きさとなっている日米短期金利差を考えると、円のファンダメンタルズはこれまでになく弱くなっており、日銀の金融政策正常化に向けた最初の一歩が、持続的な円高につながるとは考えにくい。

実際、これだけ欧米の金融不安や先行きのリセッション懸念、日銀の金融政策正常化の動きに注目が集まっているにも関わらず、今年に入って円は既に主要10通貨のうちノルウェークローネ、NZドルに次いで3番目に弱い通貨となっている。

円は対ユーロで8年4カ月ぶりの安値、対スイスフランでは20年以上ぶりの安値となっている。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

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