July 15, 2020 / 1:24 AM / 24 days ago

コラム:日銀のETF購入、円売り介入の経験則から導かれる効果=佐々木融氏

[東京 15日] - 日本は2011年11月4日を最後に為替介入していない。第2次安倍晋三政権が発足して以降、ドル円相場は84円台から125円台まで上昇し、2016年にごく短期間100円を割り込むことがあったが、この間、日本政府は一度も円売り介入を行っていない。

7月15日、日本は2011年11月4日を最後に為替介入していない。都内の日銀本店前で5月撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

ちなみに、時々誤解されることがあるが、日本の為替政策は財務省が担っている。手足を動かすのは日銀だが、日銀は財務省の指示に従って介入を行うだけだ。つまり日本の為替介入は政府の判断で行っている。

それ以前の日本では、円売り介入は日常茶飯事だった。特に1993年4月から1995年9月、1999年6月から2000年4月、2003年1月から2004年3月、2011年8月から11月は集中的に多額の円売り介入が行われた。

1993年4月から1995年9月の円売り介入額は約2年半で9.6兆円に上った。これは同じ期間の経常黒字の3割を吸収したことになる。1999年6月から2000年4月の11カ月間では10兆円の円売り介入が行われ、同期間の経常黒字の8割を吸収した。

データがさかのぼれる1991年以降で最も集中的に多額の円売り介入が行われたのは、2003年1月から2004年3月の15カ月間であろう。この期間中、全く介入がなかったのは1カ月だけで、合計35兆円もの円売り介入が行われた。円売り額は同時期の経常黒字合計の1.6倍の規模に及ぶ。

最後の2011年8月から11月の集中度合いも特筆すべきものがあり、4カ月間で14兆円の介入が行われた。これは同時期の経常黒字額の5倍の規模に上った。

<円売り介入停止後、円安になる理由>

そして、こうした大量の円売り介入が行われている期間のドル円相場の動き方には、ある程度共通した特徴がある。端的に言えば、円売り介入が行われている間は円高トレンドが終わらないという共通点だ。

直感的に違和感があるかもしれないが、ほぼ共通して円売り介入が行われている間は円高トレンドが続くか、またはドル円相場のレンジが極端に狭い状態が続き、円高阻止を諦めるような形で円売り介入を止めると、しばらくして円安方向に反転を始めるという特徴がある。つまり、円売り介入に効果が無いとは言わないが、効果は介入を止めないと顕現化しないということだ。

例えば、ドル円は1995年4月19日に79.75円まで下落し、円は戦後の最高値を付けた。当時、筆者は日本銀行で実際に円売り介入を行っていた。

現在でも守秘義務があるため、詳細を記すことはできないが、公表されているデータによれば、円売り介入は4月18日、つまり79.75円という円の戦後最高値を付ける前日で、いったん止まっている。その後、しばらく円売り介入は行われなかったが、ドル円は自律反発を始め、89円台に戻ってから介入が再開されている。

2004年3月までの大量介入時も、大規模な円売り介入が続く中でじわじわと円高圧力が強まり、2月後半から3月初めにかけてやや円安方向に戻すが、再び円高トレンドが始まると、3月16日を最後に円売り介入は行われなくなった。

ドル円は3月31日に103円台まで急落し、この局面の円の最高値を付ける。それでも介入は一切行われなかったが、その後の2カ月半で10円以上円安方向に反発した。

なぜ、こうしたことが起こるのだろう。筆者は2つほど理由があるのではないかと考えている。1つは、分かりやすい不自然な動きをするため、投機的な動きを仕掛けやすいことが考えられる

マーケットは実体経済を写す鏡だ。実体経済が変わらなければマーケットのトレンドは変えられない。それにもかかわらず、政府が不自然に、しかし、分かりやすくトレンドとは逆方向にマーケットを動かすので、それに対して反対の動き、つまり円売り・ドル買い介入に対しては、円買い・ドル売りを仕掛ければ利益が出るとの期待が高まりやすくなる。

2つ目は、流動性を政府・日銀が提供してくれるため、ポジションを大きく傾けやすいということが考えられる。つまり、ドルを売りたい市場参加者はどうにかしてドルから逃げようとするが、ドルの代わりにユーロやポンドを買いたいと考えてもユーロやポンドを安定供給してくれる市場参加者はそうはいない。

しかし、円売り介入が行われている時の市場は、喜んでドルを高い水準で買ってくれて、その代わりに円を供給してくれる人(政府・日銀)がいる。だから、ドルを売りたい人達が、ドル円市場に集まってくるので、円に対するドル売り額が異常に膨んでしまうのである。

従って、逆に政府・日銀が円売りを諦めるころには、投機筋も加わって巨大な円ロング・ドルショートポジションが出来上がっている。そして、政府・日銀が円売りを諦めているような様子が感じられているにもかかわらず円高方向に相場が動かなくなると、市場参加者もこの巨大な円ロング・ドルショートポジションの存在に気がつき、慌ててポジションを巻き戻すため、円売り介入など行わなくても、一気に円安方向への反転が始まると考えられる。

<欧米株に対してアウトパフォームしない日本株>

ここまで為替市場における介入の思惑と現実のずれについて論じてきたが、日銀によるETF(上場投資信託)を通じた株式の購入にも、同じ図式が当てはまるのではないだろうか。

日銀がETFを通じて株式を購入し始めたのは2011年からだが、2013年4月には購入額を倍増させ、2014年10月には3倍増、2016年7月にはさらに倍と増やしてきた。そして、今年3月にはさらに倍を上限に購入する方針を示している。

しかし、日銀が株式購入の倍増ゲームを始めて以降、日本株が欧米株に対して明確にアウトパフォームしている訳ではない。日銀はETFを通じて約33兆円の株式を購入し、現在保有株の時価総額は約36兆円で、東証一部の時価総額の約6%にも上る。それでも、特に購入額が3倍増になってからは、むしろ欧米株にアンダーパフォムしているようにも見える。

また、日銀がETF購入を開始した後、あるいは購入額を増額した後でも、それによって日本株のP/E(株価収益率)が押し上げられた(リスクプレミアムが押し下げられた)こん跡は見られない。

政府・日銀が買っている間は上がらないという為替市場の経験則は、株式市場にも当てはまるのかもしれない。そうだとすると、日本の株価は日銀がETFを通じた購入を止めれば、これまでの日銀の購入を反映して、欧米諸国の株価をアウトパフォームして上昇を始めるのかもしれない。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

佐々木氏

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

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編集:田巻一彦

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