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コラム:2016年は円高へ、ドル110円も=佐々木融氏

[東京 8日 ロイター] - ドルは米連邦準備理事会(FRB)の金融政策正常化への期待から今年も上昇を続け、昨年に続き主要通貨の中で最強の通貨となっている。

 12月8日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・市場調査本部長は、円を取り巻くファンダメンタルズは円高を示唆しており、ドル円は来年末には110円程度まで下落している可能性があると予想。提供写真(2015年 ロイター)

一方、円は主要通貨に対して2012年から昨年までの3年間、弱い通貨となった後、今年は対ドル以外のほとんどの通貨ペアに対して上昇。この結果、円の名目実効為替レートは今年緩やかに上昇している。

つまり、ドル円相場だけを見ていると分かりにくいが、円は昨年までの3年間と異なり、今年は強い通貨となっているのだ。理由は、他でもない、円を取り巻くファンダメンタルズが劇的に変化しているからである。

まず、日本の経常黒字の大幅な増加だ。昨年の黒字はわずか2.6兆円だったが、今年は9月までで、すでに13.1兆円に達している。

昨年までの経常黒字の大幅な減少は、11年頃から始まった貿易収支の急速な悪化が主因だった。日本の貿易収支は11年に赤字となり、その後赤字は昨年に10.4兆円まで膨らんだ。貿易赤字拡大の主な原因は、エネルギー価格の急騰とアジアからの輸入の増加だった。

筆者は、12年末から昨年末にかけての大幅な円安の主因は貿易収支・経常収支の急激な悪化だったと見ている。アベノミクスや日銀による量的・質的金融緩和が心理的な影響を与えたのは事実だろうが、円相場を取り巻くファンダメンタルズも円を押し下げる方向に大きく変化していたのだ。

しかし、エネルギー価格下落を背景に、日本の貿易収支は今年著しく改善し、経常黒字の大幅増加につながった。今年の経常黒字は16.7兆円となり、来年は18.5兆円にさらに拡大すると当社は予想している。

日本の経常収支は1年程度のラグ(時間差)をもって円相場に影響を与える傾向がある。経常収支と日米10年金利差を用いたモデルは、来年中に日米10年金利差が250ベーシスポイント(bp)まで拡大したとしても、ドル円相場が105円まで下落する可能性を示唆している。

円を取り巻くファンダメンタルズの2つ目の重要な変化は金利差である。特に昨年後半以降、日本以外の各国中銀が金利を引き下げたため、多くの国々と日本の金利差が著しく縮小している。中でも、ユーロの短期金利が円の短期金利を下回ったため、資金調達通貨として円よりユーロが魅力的になっている。これは円を取り巻く環境の変化として、非常に重要な要素になっていると考えられる。

また、円が実質ベースで極端に過小評価されていることにも注意したい。近年はドルが継続的に上昇したことから、特にドルに対する円の過小評価が目立っている。当社算出のドルの実質実効レートは現在、01年初頭に付けた直近の高値までわずか数パーセントに迫っている。さらに上昇すれば、「プラザ合意」以来のドル高となる。一方、円の実質実効レートは歴史的な低水準まで下落しており、この結果、ドルと円の実質実効レートの差は過去最大に拡大している。

こうした経済的なファンダメンタルズの変化に加え、政治も円の支援材料となっている。ドル円が125円台を付けて以降、日本政府はさらなる円安を警戒し始めたようである。賃金が十分に上昇しない中で食料品価格が上昇し始めており、さらなる円安がインフレ率を押し上げれば、消費にとってマイナスとなるのは明らかだ。

また、最近合意に至った環太平洋連携協定(TPP)が米議会で承認されるためにも、ここからのドル円の上昇加速は日米両国政府にとって好ましくないだろう。

<ドルを含む主要10通貨の大半に対し円高進行も>

今年は、日米金利差拡大を背景としたドル円の上昇継続と、国内勢による大規模な海外直接投資・証券投資に伴う円売りが、円の上値を限定した。しかし筆者は、来年にはこの状況が変化して、円高圧力が強まると見ている。

日米金融政策のかい離を受け、来年も日米金利差は拡大を続けると予想している。しかし筆者は、来年予想される日米金利差拡大は、ドル円のさらなる上昇につながらないと考える。これは、米国で大統領選挙、日本で参院選が行われる来年は、為替市場に対する政治の影響が強まる可能性が高いという見通しに基づいている。

日米貿易摩擦がドル円の主要なドライバーだった1990年代初頭には、日米金利差とドル円には全く相関が無かったが、これと同様のパターンが来年は見られるかもしれない。また、日米金利差とドル円相場の関係を長期的に見ると、金利差に比べて明らかにドル高に行き過ぎている。

日本の経常収支の著しい改善が今年、円を支えた要因であると指摘したが、国際収支に反映されるフローの為替に対する影響を評価する際には、経常収支に加え、金融収支からのフローも考慮する必要があることは言うまでもない。

今年は、国内勢による大規模な海外直接投資・証券投資に伴う円売りが、経常黒字の増加から生じる円買いを大部分相殺したと思われる。昨年半ば以降、年金基金を含む日本の投資家は、海外証券投資を大幅に増やした。

しかし筆者は、こうしたフローの持続性に対して懐疑的だ。国内勢による海外証券投資が急増した主な理由の1つは、年金基金のポートフォリオ・アロケーションの変更だが、年金基金は必要とされるポートフォリオのリバランスをすでに大方終了していると考えられる。したがって、年金基金の海外証券投資のペースは今後減速するだろう。

また、近年では、日本企業による積極的な海外直接投資も主要な円売りのソースとなっている。もっとも、新興国経済の鈍化が引き続き懸念される中、今後も同じペースで海外直接投資が続くとは考えにくい。

以上のことから、来年は、経常黒字に起因する円買いが増加する一方で、海外直接投資・証券投資に関連する円売りは減少する見通しだ。つまり、日本の国際収支に反映される各種フローに起因する円高圧力は、来年さらに強まる可能性が高いと考えられる。

結論を言えば、筆者は来年、円がドルを含むほとんどのG10通貨に対して上昇すると予想しており、これは名目実効レートベースでの円の上昇ペースが加速することを意味している。来年末までにドル円相場は110円程度までドル安・円高が進行すると見ている。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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