July 18, 2018 / 9:25 AM / 3 months ago

コラム:好況支える米FRB、「ドリームチーム」の力量=鈴木敏之氏

[東京 18日] - 米国経済は着実に成長し、ゴルディロックス(適温)状態を「快走」している。雇用の拡大基調は続き、インフレ率も2%の目標に到達。米中の関税引き上げの応酬によって貿易戦争に対する懸念が高まっているにもかかわらず、株価は上昇し、ドルも強い。

 7月18日、三菱UFJ銀行・シニアマーケットエコノミストの鈴木敏之氏は、他の主要国中銀をしのぐ米FRBのドリームチームの力量を考えると、今後米国にさらに多くの資金が集まっても不思議ではないと指摘。写真中央の人物はパウエルFRB議長。ワシントンで3月撮影(2018年 ロイター/Yuri Gripas)

このように市場が米国経済の先行きにコンフィデンスを抱いていることは、パウエル議長率いる米連邦準備理事会(FRB)の政策運営に対する評価が高いことを物語っていると言えよう。

実際、パウエル議長は2月の就任以来、市場の信頼に値する「ドリームチーム」とも言えるFRB指導部を構築してきた。

金融規制・監督システムは、同分野に精通する元財務次官のクオールズ副議長とともに見直しを進め、金融政策は、著名な金融エコノミストであるクラリダ副議長指名(上院承認待ち)と物価水準目標(プライスレベル・ターゲット)の理論的支柱であるウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁を両脇に置いて、正常化に挑み、次の景気後退期に備える。

今回は、この米FRBドリームチームの実力を検証したい。

<とにかく早い規制見直しの動き>

まず前回6月12―13日の米連邦公開市場委員会(FOMC)を振り返ってみよう。同会合後の記者会見では、パウエル議長に対して、金融機関の自己勘定取引などを制限する「ボルカールール」の見直しに関する質問も飛び出した。就任5カ月余りで、金融政策そのものにとどまらず、規制面での課題が注目されるということは、それだけ同分野の見直しが急ピッチで進められていることの裏返しである。

実際、FRBは5月末に「ボルカールール」の修正案を提案した。金融機関がリスクの高い取引に傾斜しないようにするという当初の基本は維持しつつも、ルールの簡素化と透明化を進め、金融機関の事務負担を減らすとともに、一定範囲内で裁量を認めるというものだ。

そもそもパウエル議長は、自身が構築に携わったこともあって、リーマン・ショック後の金融規制を評価する立場での発言を繰り返している。ただ、非効率な規制を改変することには前向きであり、ボルカールールやストレステストの見直しなど、とにかく動きは早い。

また、パウエル議長は、議員や弁護士との面談が多いことで知られる。成果を得るためにワシントンでどう行動すればよいか知っているということだ。学者出身のバーナンキ元議長はその部分が相対的に弱かったというのがもっぱらの評判であり、イエレン前議長は「ロビーイング」にあまり熱心ではなかったといわれる。

パウエル議長は、リーマン・ショック後に構築された金融規制・監督システムが、次の危機や変事を防ぐのに有効であることを強調した上で、改変すべきところを見極め、クオールズ副議長を先頭に立てて実に迅速に仕事を進めている。

<次の景気後退への準備も万端か>

では、金融政策運営についてはどうか。まずパウエル議長は、米国経済は良好で、当面は心配ないと述べている。貿易戦争や財政発動の影響が懸念されるが、それは金融政策で対応可能な範囲ということだろう。

貿易戦争が経済活動を鈍らせるならば、利上げを弱め、財政発動の効果が強まって持続的に景気を過熱させるようであれば、利上げを強めて対応するだろう。

とはいえ、次の金融緩和が必要とされる局面で、FRBの弾薬庫に弾丸がない事態にはどう対応するのだろうか。

この点に関する回答はウィリアムズ総裁の登用だろう。同氏は6月18日、サンフランシスコ地区連銀総裁からニューヨーク連銀総裁に転じた。ニューヨーク連銀総裁は、FOMCで毎回投票権を持ち、伝統的にFOMC副議長を務める要職だ。

また、ニューヨーク連銀は市場オペレーションの実行部隊でもある。リーマン・ショックの際に金融機関のトップが集められて、危機対応が協議された舞台もニューヨーク連銀だ。

ウィリアムズ総裁は、金融政策の現場で起きている事柄について、たちどころに経済学の論文として通用する学術的分析に仕上げる能力を持っている。昨今では、同氏による自然利子率の計算が広く参照されている。そのウィリアムズ総裁が特に熱心に取り組んでいるのが、物価水準目標(プライスレベル・ターゲット)による金融政策である。

これは、例えば年2%の物価上昇を目指す考え方こそ従来のインフレ目標政策と同じだが、目標に一時的に到達しなかった場合、その後の目標に未達分を加えていくアイデアである。未達であれば、インフレ率の目標が大きくなり、金融政策ルールで設定される政策金利は低くなる。

量的緩和については、10年前の金融危機のような異例の事態でなければ発動されるべきではないというのが、今日的な理解だろう。そのため、中銀のバランスシートを触らない物価水準ターゲットには、強い関心が寄せられている。

なお、クラリダ副議長指名は、その金融政策ルール研究の第一人者だ。財務次官補として、政策策定の実務にも当たった経験がある。すなわち、仮に金融緩和が今後必要になった場合、ゼロ金利までフェデラルファンド(FF)金利を引き下げ、それでも足りないときに備えた布陣と言える。金融政策を所管する副議長にクラリダ氏を配し、実務部隊の理論的支柱にウィリアムズ氏を充てて、物価水準目標政策の導入を準備している様子がうかがえる。

日欧は、金融緩和の出口に進めるかどうかも判然としない状態だが、米国はすでに7回の利上げを行い、バランスシート縮小も特段の摩擦を起こすことなく着実に進んでいる。そして、過剰規制の弊害を徐々に除去し、かつ次に金融緩和が必要になった場合の備えも構築しつつあると言えよう。

<金融政策の守備範囲外でも効果的な対応>

FRB指導部は、さらに金融政策の守備範囲外にも目配せをしている。例えば、パウエル議長は、貿易政策は守備範囲外だが、ビジネスにどのような影響が出ているかについて情報は得ていると述べている。貿易の恩恵を得られない人々が存在することへの配慮にも言及し、財政運営についても今のスタンスが維持できないことが課題だと指摘している。

前述した通り、パウエル議長は、危機対応の金融規制の成功を強調する立場をとりながら、非効率な規制については緩和を進めてきた。同様に経済の課題についても、金融政策の守備範囲外と言いながら、問題点を指摘する形で政府の対応を促している。

他の主要国中銀をしのぐ米FRBのドリームチームの力量を考えると、今後米国にさらに多くの資金が集まるようになったとしても不思議ではない。

鈴木敏之 三菱UFJ銀行 シニアマーケットエコノミスト(写真は筆者提供)

*鈴木敏之氏は、三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのシニアマーケットエコノミスト。1979年、三和銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。バブル崩壊前夜より市場・経済分析に従事。英米駐在通算13年を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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