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コラム

コラム:トランプ政権、銃器巡る新政策の「危ない賭け」

[5日 ロイター] - トランプ政権は、米国の外交政策において、まだ気づかれていない、大きな過ちを犯す危険がある。ロイターが最近報じたように、ホワイトハウスは、米国で製造された小型武器販売の監督を、入念な審査で知られる国務省から、企業に優しい商務省に移行する準備をしている。

 10月5日、トランプ政権は、米国の外交政策において、まだ気づかれていない、大きな過ちを犯す危険がある。写真は、過激派組織「イスラム国」との戦いの最前線にいるリビアの戦闘員。同国のスルトで昨年11月撮影(2017年 ロイター/Ismail Zitouny)

世界市場におけるアメリカ製品のシェア向上のため、省庁間のガイドラインを緩和することによって、トランプ政権は、世界各地で大勢の人に悲劇をもたらしている内戦を激化させる危険を冒している。

この方針転換の狙いは、非軍事用の武器や弾薬の輸出に関する官僚主義的な手続きを簡素化することで、米国の武器製造業者が海外で製品を売りやすくすることだ。ロイターによると、商業用の武器輸出は、議会承認を必要とすることの多いミサイルや戦闘機の売却と同レベルの審査を受ける必要がなくなる。

また、自動小銃や拳銃のような武器の管理は、国務省が厳格に規制する武器弾薬リストから外され、外国向け販売許可がより合理化されている商務省規制品リスト(CCL)に移行する。

こうした新しい手続きについて、トランプ政権は、ビジネスを強固に後押しする大統領の考えの延長線上にあると説明するが、国務省からの権限移行は、外交政策において、意図しない有害な影響をもたらすだろう。

過去半世紀にわたり、著しく減少している従来型の大規模戦争とは対照的に、シリアで現在起きているような主権国家の領土内での非従来型の戦闘が常態化している。カラシニコフ自動小銃AK‐47や狙撃銃、低性能爆薬のような小型武器は、こうした内戦で頻繁に使用されている。軍事訓練を受けたことがない戦闘員でも、半自動火器を戦場で使える手軽さは、このような武器の強みの1つである。

小型武器は、ゲリラ部隊にとって多くの利点がある。自動小銃AK‐47は戦車やミサイル防衛システム、戦闘機よりもはるかに安価で、抜け穴だらけの国境から密輸することができる。

米上院議員のベン・カーディン、パトリック・リーヒ、ダイアン・ファインスタインの3氏が、ティラーソン国務長官に送った新規制に反対する書簡のなかで指摘しているように、現在起きている内戦や反乱は、多くの米国民がスポーツライフルやハンティング用具の部類と考える武器の違法販売によって拍車がかかっている。

小型武器の輸出に関する規制緩和は、このような戦闘拡大を抑えるという米国の目的にとって、逆効果だ。南スーダンやウクライナ、コロンビアなど、さまざまな国の紛争解決に向けた平和的アプローチを促すため、米国政府が奨励している包括的な外交プロセスを台無しにしてしまう恐れがある。

米国製の武器によって維持されている戦闘を終わりにしたいと国務省が考える一方で、実際には複数の省庁が互いに足を引っ張り合うことになるだろう。

米国政府が意図的に内戦下の戦闘員に武器提供しているわけではないが、米武器メーカーが自由市場で販売した拳銃や自動小銃が、密輸や転用によって紛争地帯に流れることもある。

汚職にまみれたヨルダンの諜報部員らが、闇市場で携行式ロケット弾やカラシニコフ銃を武器商人に売却していたというニュースが昨年、大きく報道された。これらの武器は穏健なシリア反体制派の手に渡るはずのものだった。武器の1つは、同年にヨルダンで発生した米国人2人の殺害に使われた可能性が高いとの見方を、米連邦捜査局(FBI)は示している。

リビア内戦は、武器の横流しを阻止するのに役立つ必要な監視や安全対策を講じることなしに、政府が紛争地帯に武器を送ったことによって生じる危険を物語っている。

リビア最高指導者だったカダフィ大佐に対する2011年の武装闘争では、当時のオバマ米政権からひそかに後押しを受けた米同盟国のアラブ諸国は、カダフィ政権転覆を狙う反体制派への軍事支援を行った。

8カ月に及ぶ戦闘の末、軍事支援がカダフィ大佐を権力の座から引きずりおろすことに寄与した一方、まさにその支援によって供与された武器が結局、今なおリビアを破壊し続けている内戦をあおっている。カダフィ転覆に関わった反体制派は、その後に起きる内部の権力争いで政治的影響力を拡大しようと武器を備蓄し始めた。

リビアの武器供給力が圧倒的なあまり、国連の専門家は同国を地域の武器市場と見なしている。反体制派を支援するためリビアに送り込まれた武器は、警備の甘い国境や違法取引を通じて、他の地域紛争に流出している。こうした武器の一部が、ナイジェリア軍に追い込まれ、支配地域を大きく失ったイスラム過激派ボコ・ハラムの勢力挽回に一役買ったと、アフリカ諸国の当局者らは指摘している。

スイスの調査機関「スモール・アームズ・サーベイ」によると、米国はすでに世界最大の小型武器輸出国となっており、2014年には計11億ドル(約1240億円)に達している。米国の軍需企業が毎年結んでいるばく大な通常兵器契約と比べると、この数字は小さいが、商業用武器がわずかでも紛争地帯に流出することによって、もたらされる悪影響は大きいだろう。

問題は、米政権の新規制から得られるであろう金銭的利益が、世界中で販売され入手可能となる小型武器の増加によって高まるであろう世界の不安定化と暴力のリスクを相殺するのに十分かどうか、ということだ。

自社製品を容易に輸出できるというのは、米武器メーカーにとっては素晴らしいことかもしれない。だが、世界の平和や安全保障の観点からすれば、新たな政策は、ホワイトハウスにとって危険な賭けと言えるだろう。

*筆者はニューヨーク市に拠点を置く外交政策の専門家。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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