May 25, 2018 / 2:43 AM / a month ago

コラム:北朝鮮の核放棄にこだわるトランプ大統領の「盲点」

Kent Harrington

 5月23日、北朝鮮の金正恩(写真)氏は、トランプ米大統領に対して、ホワイトハウスがドラマの主役ではなく、ましてや朝鮮半島に平和をもたらしてノーベル平和賞を受賞することなどない、と示すことにしたようだ。平壌で2月撮影。KCNA提供(2018年 ロイター)

[23日 ロイター] - 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)氏は、トランプ米大統領に対して、ホワイトハウスがドラマの主役ではなく、ましてや朝鮮半島に平和をもたらしてノーベル平和賞を受賞することなどない、と示すことにしたようだ。

大言壮語を並べた後に突然態度を一変させることで知られる北朝鮮の指導者として、米朝首脳会談の中止をちらつかせて脅す金朝鮮労働党委員長のやり口は、同国との外交においてはよくあることだ。

だが金委員長は同時に、メッセージを送っている。それは、米朝会談においては、彼らのアジェンダが、同国の核・ミサイル問題を超越する必要がある、ということだ。(編集注:このコラムは、6月12日にシンガポールで予定していた米朝会談の中止をトランプ大統領が発表する前に書かれたものです)

金氏が求めているものは明らかだ。北朝鮮は、自国の核兵器開発について、米国による攻撃を阻止するためだとずっと主張してきた。その言葉通りに受け止めたほうが賢明だろう。

北朝鮮のミサイル開発放棄が米朝首脳会談の必須議題だとトランプ大統領が主張する一方で、北朝鮮は今月、他にもゴールがあると明言した。核放棄と引き換えに経済制裁の停止または西側からの投資を得るという推測を暗に批判した。

「われわれは事を進めている。どうなるかそのうち分かる」とトランプ大統領は22日語った。「(6月に)開催されなければ、その後に開催されるかもしれない」

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領との会談前にホワイトハウスで行った会見で、トランプ氏は、北朝鮮の非核化は「実現しなければならない」と改めて強調した。「この件に関して非常に意思が固い」

しかし、交渉テーブルに米軍問題を持ち出すことに乗り気だと見せかけて、核兵器に焦点を絞るトランプ大統領のやり方は、韓国首都ソウルを容易に攻撃可能な距離に何十万もの兵士や武器を配備している北朝鮮の本当の影響力を無視している。

金委員長は、自身の政権を脅かす駐留米軍の縮小を望んでいる。韓国だけでなく、日本や朝鮮半島の周辺に駐留している米軍のことだ。

アジアにおける米国のプレゼンスに影響を及ぼすチャンスを狙っているのは、北朝鮮だけではない。

疎遠になっていた中国の習近平国家主席との和解は、中国も同じ機会をうかがっていることを示す十分な証拠だ。米国のアジア戦略に対する代償を高めようと、中国軍は海洋進出を拡大している。米国が朝鮮半島から手を引けば、その目的にかなうだろう。

金委員長は長期戦の構えだ。協議が6月以降も続けば、朝鮮半島の非核化を巡る見解の相違が1日で解消しないことは明らかだろう。トランプ大統領は、兵器開発をやめるよう求め、金委員長が従わない限り、制裁は解除されないと警告している。

一方、北朝鮮は、互恵的かつ段階的なアプローチを求めており、安全の保証、そして朝鮮戦争を終わらせる協定を望んでいる。

金委員長は、朝鮮半島の非核化の条件として、米軍撤退を求めていないと述べている。同氏にとって、その必要はない。トランプ氏がここ数年、選挙遊説で行った海外駐留米軍に関する発言は、もし北朝鮮の論点を用いていたなら、撤退への扉が開くことはなかっただろう。

トランプ氏は同盟諸国に対し、通商合意の見直しや米軍駐留費の負担増がなければ、駐留米軍を撤退させるか、基地を閉鎖すると脅しているが、こうした脅しがいまだに同氏の支持基盤を喜ばせていることは言うまでもない。

だがアジアの人たちにとっては、そのようなトランプ大統領への称賛は、米国への信認を損ねるものだ。彼らにしてみれば、北朝鮮との核合意に向けた取り組みによって、朝鮮半島のリスクが変化するわけではない。

その理由は、北朝鮮の通常戦力がどのように配備されているか、また朝鮮半島の地形に隠されている。

北朝鮮はソウルから約100キロ以内に、総勢100万人規模の兵力の3分の2を配置している。このほか、非武装地帯の北方に約4000カ所あるとされる地下発射場には、大砲8000門と戦車4000台を配備。こうした前線には、機甲化された大砲や装甲車両が控えている。このような通常兵器に加え、短距離・中距離ミサイルも多数保有しており、さらに化学兵器や生物兵器もある。

北朝鮮の大砲や戦車はもちろん、どんな攻撃にも耐えられるというわけではない。同盟諸国の作戦を支援する米軍の輸送能力のように、精密誘導兵器と空軍力によって、北朝鮮は大きな打撃を被るだろう。だが、いくら北朝鮮の兵器が時代遅れで、軍が自国の悲惨な経済状況に苦しんでいるとはいえ、米軍司令官は、北朝鮮軍の射撃能力の制圧にかかる損失と戦闘による被害を過小評価してはいけない。

また、軍事的な計算だけでは戦略的なポイントを見落としてしまう。核兵器を抜きにしても、北朝鮮軍はソウルを人質にしている。約1万4000門の長距離砲とロケットの大半が非武装地帯近くに配備されており、ソウル大都市圏はそうした前方展開兵力の攻撃距離内にある。米韓の専門家は、北朝鮮の司令官が通知せずに攻撃を仕掛けてくる可能性を指摘する。民間防衛組織のリーダーや軍司令官は態勢を整える時間がわずか数分しかなくなり、不利な立場に立たされるという。

ソウルには韓国国民の約半数が暮らしており、2500万人の住民を守ることが課題となるのは必至だ。経済へのリスクも同様だ。ソウルの経済規模は国内総生産(GDP)の55%を占め、ここには一流大学やシンクタンク、ハイテク企業が存在し、輸出企業トップ10のうち7社が拠点としている。

ソウルのぜい弱性が及ぼす影響は、朝鮮半島以外にも波及し得る。例を挙げれば、韓国は液晶ディスプレーの世界シェアが40%、半導体では17%、メモリーチップでは64%だ。サムスン電子やSKホールディングスなどの生産工場が被害を受ければ、世界市場への影響は想像に難くない。

米朝会談で、金委員長が韓国に駐留する2万8500人規模の米軍について協議したいと考えるなら、トランプ大統領が糸口とすべきは、米軍や韓国軍の兵士が直面する通常兵器による脅威だろう。

欧州通常戦力条約は、北大西洋条約機構(NATO)とワルシャワ条約機構の両軍事同盟による核兵器以外の通常兵器による戦争リスクを減らす具体的なステップを示していた。

金委員長の核開発プログラムに焦点を当てることによって、そうしたモデルを適用する障害となってはならない。欧州では、通常兵器削減を巡る協議は、戦略兵器交渉と平行して行われた。

トランプ大統領は、北朝鮮の通常兵器による脅威を議題にするチャンスだ。会談が実現するなら、その良いスタートが切れるだろう。

*筆者は米中央情報局(CIA)の元上級アナリスト。東アジア担当国家情報責任者や、アジア拠点主任、CIA広報部長を歴任。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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 5月23日、北朝鮮の金正恩氏は、トランプ米大統領に対して、ホワイトハウスがドラマの主役ではなく、ましてや朝鮮半島に平和をもたらしてノーベル平和賞を受賞することなどない、と示すことにしたようだ。平壌で2015年10月撮影(2018年 ロイター/Damir Sagolj)

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