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コラム:トランプ大統領、自身の「恩赦」は可能か
2017年7月24日 / 07:27 / 5ヶ月前

コラム:トランプ大統領、自身の「恩赦」は可能か

Alison Frankel

 7月21日、トランプ米大統領(写真)が、側近や家族、ひいては自分自身にさえ恩赦を与える可能性について、弁護団と検討しているとワシントン・ポスト紙の報道は、いくつか興味深い問題を提起している。ワシントンで20日撮影(2017年 ロイター/Carlos Barria)

[ニューヨーク 21日 ロイター] - ワシントン・ポスト紙は20日、モラー特別検察官による「ロシア疑惑」捜査の拡大を阻止するため、トランプ米大統領が、側近や家族、ひいては自分自身にさえ恩赦を与える可能性について、弁護団と検討していると報じた。

同大統領の外部弁護士ジョン・ダウド氏は、ロイターのカレン・フレイフェルド記者に対し、ポスト紙の「恩赦に関する報道はナンセンスだ」と一蹴。「大統領に対する中傷にすぎない。真実ではない」と語った。

とはいえ、ポスト紙の報道はいくつか興味深い問題を提起している。米国大統領は、あらかじめ自身に対して恩赦を与えることができるのか。また、憲法がもしそれを可能とするなら、大統領の行為を巡って現在進行中の捜査にとって何を意味するのか、ということだ。

モラー特別検察官は、昨年の米大統領選挙におけるトランプ陣営とロシアによる共謀の可能性を捜査している。ロシアは同選挙に対する干渉を否定しており、トランプ大統領も自身の選挙陣営は共謀していなかったと主張している。

不正行為で正式に訴追される前であれば、米国憲法は、大統領が自身に恩赦を与えることを明確に禁じてはいない(恩赦を受けるために訴追される必要はない)。

故に、不正に関与していないとするトランプ大統領が、今後いかなる訴追に対して自身に「フリーパス」を与えると決断しても、憲法違反にはならないだろう。

しかしトランプ氏は、これまで前例がないため、大統領権限を拡大解釈する可能性がある。さらに重要なのは、複数の法律専門家が筆者に語ったところによれば、同氏は、自身と捜査対象とされる側近らを恩赦にするだけでは、司法省と議会による捜査を止めることは恐らくできないということだ。

それどころか、特別検察官による捜査を阻止するために恩赦を利用するという試みは裏目に出る可能性があると、クリントン政権下の司法省で訟務長官代行を務め、1995年に大統領恩赦の可能性について記しているウォルター・デリンジャー氏は指摘する。

恩赦それ自体が、司法妨害に関する問題を提起する可能性があるとデリンジャー氏は指摘する。恩赦の可能性はまた、恩赦を受ける人から、議会証言の障害となる黙秘権の行使を認める米国憲法修正第5条を剥奪することになる。刑事的責任に直面しないのであれば、自身を有罪にしないようにするための権利は主張できなくなるからだ。

米国の裁判所は、これまで自身に恩赦を与えた大統領がいないため、大統領にそのような権限があるかどうかについて判断を下す必要がなかった。

<ニクソン・メモ>

トランプ大統領より以前に、自身に恩赦を与えることを検討したとされる唯一の大統領は、ウォーターゲート事件を捜査する特別検察官から司法妨害の容疑に直面したリチャード・ニクソン元大統領だ。

ニクソン氏は自身の恩赦が合法かどうか、司法省に尋ねた。同省の弁護士らは1974年、それは合法ではないとする略式意見を出した。同メモは、自身の裁判の判事には誰もなれないという昔からの法諺(ほうげん)の下では、たとえ米国大統領であっても自身に恩赦を与えることはできないとするものだった。

このメモは、米大統領が自身に恩赦を与える権限に関する最初で最後の、そして唯一の公的文書であると、ミシガン州立大学ロースクールのブライアン・カルト教授は指摘する。同教授はイエール大学ロースクールの学生だった1990年代から、大統領自身の恩赦について研究しているという。この問題はこれまで、わずかに触れられる程度にさえ、米裁判所の判断をあおぐことは全くなかったという。

むしろ、大統領自身の恩赦を巡る合法性について単に議論することは、現職大統領が刑事・民事で起訴され得るかどうかといった、答えのない仮説のドツボにはまることになると、テキサス大学の法律学教授であるサンフォード・レビンソン氏は警鐘を鳴らす。

レビンソン教授によると、特別検察官は大統領を現職中に訴追できなかった場合、大統領自身の恩赦に異議を唱えるため裁判所に持ち込めるかどうかは不明だという。「難題だ」と同教授は語った。

トランプ大統領自身の恩赦を巡る報道が出て以降、ちょっとした有名人となったカルト教授は、大統領自身の恩赦を違法とする主張の方が勝っていると考えているという。同教授によると、大統領自身の恩赦は可能だとする根本的な主張は、憲法がそれを不可能とは言及していないという上に成り立っている。

しかし、3つの要因が検討されるべきだとカルト教授は指摘する。1つ目は、1人が与え、別の1人が受けるという含意のある恩赦という言葉がもつ従来の意味。2つ目は、「ニクソン・メモ」で引用されていたように、自分自身の判事にはなれないという法律原理。そして3つ目は、米国憲法である。

米国憲法第2条は、「弾劾の場合を除き、米国に対する犯罪に対して刑執行の延期または恩赦を認める」権限を大統領に与えている。

この条項によって、大統領には計り知れない権限が与えられていると、カルト教授は指摘する。例えば、歴代大統領はいかなる犯罪によっても起訴されない人たちに恩赦を与えてきた。なかでも最も有名なのは、ニクソン氏が司法妨害で訴追される前にフォード大統領(当時)が同氏に恩赦を与えたことだ。

カーター元大統領がベトナム戦争の兵役拒否者全員に恩赦を与えたように、不特定多数に恩赦を与える権限も大統領は有している。

だが、米国憲法が大統領に無限の恩赦権限を与えているわけではない。カルト教授は、1787年の憲法制定会議でマディソン大統領が記したメモにさかのぼり、大統領が反逆者であった場合は、大統領の恩赦権限から反逆罪は除外されるべきと憲法の起草者らが議論していたことを発見した。

カルト教授によると、もし大統領が反逆者であった場合、自分たちが採用した文言にのっとり、「大統領は弾劾または訴追され得る」と起草者らは結論づけたという。

同教授はまた「フォーリン・ポリシー」誌(2017年5月号)の中で、そのようなコンテクストを除いては、大統領自身の恩赦は「決して取り上げられなかった。このことは、恩赦権限を乱用する犯罪的な大統領に関する議論において明らかな手落ちだと分析。「文字通り、大統領自身の恩赦は可能ではないということは言うまでもないようだ」と記している。

<「耐えられない」圧力>

憲法の文言は、2つ目のポイントに気づかせてくれる。

恩赦条項は、お気づきかもしれないが、「弾劾の場合」大統領は恩赦を与えることはできないと言明している。

クリントン政権下で訟務長官代行を務めたデリンジャー氏によれば、たとえトランプ大統領が自身のほか、連邦刑事法違反容疑で捜査対象となっている人物らに恩赦を与える権限を法的に有していたとしても、この条項は、モラー特別検察官にトランプ陣営の捜査を続けるお墨付きを与えかねないという。

デリンジャー氏は、ホワイトウォーター疑惑でクリントン大統領(当時)を訴追しなかったものの、同大統領に対する弾劾条項の基礎となった報告書を用意していたケネス・スター独立検察官との類似点を挙げた。

「恩赦条項が弾劾に適用されないのは明白だ」とデリンジャー氏。「同様の理由から、スター独立検察官は前進し続けた」と同氏は指摘する。(トランプ氏のチームが、デリンジャー氏の指摘するポイントに対抗するため、大陪審は政治ではなく犯罪を捜査するため開かれるべきだと主張するのは想像に難くない。もし大統領が先行して一人残らず対象者に恩赦を与えるなら、大陪審は解任されるに違いない。)

もしトランプ大統領が前もって自身に恩赦を与える場合、とりわけモラー特別検察官の捜査を早期に終わらせる論拠として自身の恩赦を利用しようとする場合、米連邦捜査局(FBI)と議会は、大統領の動機と、大統領の命令を実行した司法省当局者の動機が適切であったかどうかの捜査で終わってしまう可能性がある。

ただし、「当局者が不適切な目的への捜査終了を命じることは司法妨害となる」とみるデリンジャー氏は、モラー特別検察官による捜査といったFBIの捜査は勢いに乗っており、終了させるのは極めて困難だと指摘する。

さらに、前述のレビンソン教授は、大統領自身の恩赦は議会の調査官には「無関係」だと指摘。上院情報委員会は、2016年の米大統領選にロシアが影響を及ぼしたかどうかについて、真剣に突き止めようとしているように見えるとし、同委員会にはモラー特別検察官が調べているのと同じ記録を要求できる権利があると、同教授は述べた。

そして、もし大統領が自身を含む包括的な恩赦をあらかじめ実行するのであれば、「政治的圧力は耐えられないものになるだろう」とレビンソン教授は言う。

大統領による恩赦に罪の意味合いはない。恩赦を受けているにもかかわらず、断固として自分の無罪を主張する人々を大統領は解放する。トランプ大統領は自身に恩赦を与えても、ロシア疑惑を巡る捜査で、自身の刑事責任について何も譲歩することにはならない。

だが、そうした戦略の疑わしい合法性と、捜査が今後も続き、拡大する可能性を考えれば、大統領自身の恩赦が功を奏するのは難しいと言える。

トランプ氏が目もくらむような勢いで政治規範を破壊しているのは明白だ。自身に恩赦を与えない慣例こそ手を付けるべきではないことを、よくよく考えるべきだろう。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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