[東京 12日 ロイター] - 世界の株式市場が、11日夜(日本時間12日午前)のトランプ米大統領のコロナ対策演説後に総崩れとなった。最後の「切り札」として市場が注目していた大規模な財政出動への言及がなく、市場は底が抜けたような「トランプショック」に直面した。「移動制限」が必須手段の新型コロナウイルス対応は、経済への毒性が極めて強いという特徴を持つ。
トランプ大統領は米連邦準備理事会(FRB)に大幅な金融緩和を求めているが、すでにマーケットはコロナ対応に「金利は効かない」と織り込み始めている。リーマンショック時に顕現した「取引相手を信用できない」というカウンターパーティーリスクが鎌首をもたげており、先進各国の金融当局はクレジット物の買い入れ強化にカジを切るのではないか。日銀もそこに含まれるだろう。
<移動制限という強い毒性>
トランプ大統領の演説では、1)コロナで影響を受けた企業への資本・流動性・低利融資の提供を支持、2)コロナの影響で体調不良になった労働者への金融的支援、3)欧州からの米国への入国を30日間停止──などを訴えた。
コロナ感染で直接影響を受けた企業や個人へのサポートなどが中心で、市場の期待を大きく裏切った。市場はトランプ大統領よりも的確にコロナ禍の深刻さを理解していたかもしれない。
今回の新型ウイルスは感染力が強く、「移動制限」という強権を行使しないと感染拡大を食い止めることができない。これは長期化すると、経済の息の根を止めかねない「毒性」があることを意味する。
その結果、リーマンショック時のように銀行・証券を起点にタイムラグを伴って実体経済に「悪さ」が波及するのではなく、製造業や非製造業を問わず、ほぼ同時に打撃が発生する。
中でも飲食店やその他のサービス業など消費者に最も近い分野では、売り上げが「蒸発」し、従業員の給与を支払えないケースが続発している。需要の急速な減少という恐ろしい毒素をまき散らしていることになる。
<利下げ効かない「コロナ症状」>
この害を最小化するには、消失した需要を少しでも埋めるための財政出動が不可欠だ。中でも最大の経済大国である米国による財政出動を市場は期待していた。
ところが、肝心の部分がすっぽりと抜け落ちてしまった。なぜ、そうなったのかは今後の米国からの報道を待ちたいが、類推すると、財政拡張には赤字国債の発行が必須であり、巨額の国債発行に対し、財政均衡派の多い共和党幹部が「ノー」と言ったのではないか。
とすれば、当面の市場は「底が抜けた」ままで、トランプ大統領の「次の一手」を待つほかないだろう。
さらに悲観的にならざるを得ないのは、この期に及んで、トランプ大統領がFRBに圧力をかけ続けていることだ。米紙ワシントン・ポストは11日、FRBのパウエル議長に追加措置を実施するよう、ムニューシン米財務長官に働きかけていたと報道した。
だが、3日のFRBによる0.5%の緊急利下げ後も、米株価の動揺は収まる気配を見せず、マーケットでは「コロナ症状に利下げは効かない」との見方が広がってきた。
どうしてかと言えば、需要の蒸発を起点にした経済の悪化局面では、金利を下げても乗り越えることが難しい問題が発生してくるからだ。それは「取引相手を信用できない」という最も恐ろしい「症状」だ。
リーマンショック後に広く発生したこのカウンターパーティーリスクは、最終的に金融機関による企業への貸しはがしに発展。金融機関同士でも信用が低下して、金融取引が停滞するという事態にまで発展した。
<日米欧はクレジット重視へ>
幸いに日本国内では、そこまでの症状進展はみられていないものの、世界の金融・資本市場ではその兆候が、そこかしこに見え始めてきた。
12日に開かれる欧州中銀(ECB)理事会では、社債やCPなどのクレジット物を大胆に買い進める方向性が打ち出されると予想する。
17─18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後のパウエル議長会見でも、企業金融の円滑化に関し、踏み込んだ方向性を表明するのではないか。
18─19日の日銀金融政策決定会合では、ETF(上場投資信託)買入枠の拡大が議論されるとみられるが、社債やCP、その他のクレジット物の買い入れ強化による市場心理の沈静化についても意見が交わされるに違いない。
日本国内では、4月に緊急経済対策が打ち出されるとの報道があるが、こうした財政政策と日銀が19日に公表する「追加緩和策」によって、当面は株式市場の急落と円高を阻止していくことになるだろう。
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編集:内田慎一
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