[ワシントン 3日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米紙ニューヨーク・タイムズ紙は大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏が1995年に約9億1600万ドルの損失を申告し、長期間にわたり所得税を支払っていなかった可能性があると報じた。米国の税法ではあり得ることだが、1年分の資料では裏付けに不十分だ。ただトランプ候補は、自ら「特別な利益団体」と批判したグループに属しているようではある。
先に行われた第1回テレビ討論会で民主党候補のクリントン氏は、トランプ氏が税金を払っていないと攻撃した。これに対してトランプ氏は「自分が賢いからだ」と反論した。トランプ氏が所得税の支払いを免れたのだとしたら、損失による将来の課税所得の相殺を認めた「繰り越し損(NOL)」規定の活用が一つの道だ。米国の税法は有限責任会社、パートナーシップ、いわゆる「S法人」に対して不動産の減価償却や営業損失について個人としての所得申告を認めている。
トランプ氏は事業経営で過去に4回破産申請している。最初の申請は1991年で、アトランティックシティーのカジノ「タージマハル」が破綻し、個人的に保証していた8億3200万ドルを負債として抱え込んだ。タージマハルは連邦破産法11条の適用を申請し、トランプ氏も自己破産の申請に追い込まれかねなかった。トランプ氏は債権者に債務の再編を許されたが、ヨットの「トランプ・プリンセス」を売却せえざるを得なかった。
以来トランプ氏は、富裕層が納税負担を最小化している手段を用い、事業の損失と自分自身を遮断する取り組みを強めた。選挙活動費に関する公開情報によると、トランプ氏が関わっている有限責任会社、法人、パートナーシップは564社に上る。
トランプ氏は大統領候補としては「特別な利益団体の抜け穴をふさぐ」との公約を掲げ、法人税税率を35%から15%に引き下げると主張している。こうした改革は、事業における所得や損失の一部を個人として申告可能な人々にも適用されるだろう。
トランプ氏が事実上、過去20年間にわたり税金を納めていなかったのであれば一部の有権者は離反するかもしれないが、トランプ氏の行いは完全に法に適っているようだ。トランプ氏の掲げる税制改革が自分自身にとって得になるようなものであれば、支持も得られないだろう。
問題は、国民が判断を下すための納税申告書の公開をトランプ氏が拒んでいることだ。これまで40年間、大統領候補は納税申告書を明らかにしてきた。トランプ氏という候補そのものが公開が不可欠だということを示している。
●背景となるニュース
*ニューヨーク・タイムズ紙は、トランプ氏が1995年に約9億1600万ドルの損失を申告し、18年間にわたり所得税の支払いを免れた可能性があると報じた。
*米税法の繰り越し損(NOL)規定は有限責任会社といわゆる「S法人」について、控除や不動産の原価償却、営業損失の申告を認めている。
*過去40年ほど米大統領選の主要候補はいずれも納税申告書を開示してきたが、トランプ氏は開示を拒んでいる。民主党候補のクリントン氏は2007─15年分の納税申告書を開示している。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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