January 9, 2019 / 4:01 AM / in 8 months

コラム:トルコリラ/円の反発は本物か=植野大作氏

[東京 9日] - 日本の個人投資家に人気の通貨ペア、トルコリラ/円の一方的な下落に歯止めがかかりつつある。昨年8月の暴落局面では一時15円台前半まで売り込まれたが、その後は断続的に下値を切り上げ、11月末には一時22円00銭台と約3カ月半で4割以上も反発する場面があった。

 1月9日、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作氏は、トルコリラ/円は一方的な下落に歯止めがかかりつつあるものの、右肩下がりの長期トレンドを底入れに誘うには、短期的な自律反発では不十分だと指摘。写真は100リラと50リラ紙幣。2018年8月にイスタンブールで撮影(2019年 ロイター/Murad Sezer/Illustration)

その後はさすがに反落に転じ、1月3日の早朝に起きたドル/円、クロス円の瞬間的な暴落に巻き込まれると一時18円台前半まで急落する一幕もあった。しかし、すぐに買い戻されて心理的節目の20円前後に回復した。

昨年の夏場まで続いたリラの一方的かつ大幅な下落に苛まれていた日本のリラ/円ファンにとっては、ひとまず安堵感が漂う新春相場のスタートだ。ただ、これで本当にリラ安が止まったのか、疑心暗鬼は拭えない。リラは急落するたびに、高金利好きで逆張り志向の強い個人投資家の資金を引き寄せながら、何年間も下がり続けた経緯がある。

右肩下がりの長期トレンドを底入れに誘うには、短期的な自律反発では不十分だ。この先、リラ/円が節目の20円前後を維持し続けたとしても、前年割れの差し込み傷が癒えて代表的な長期トレンドラインである52週移動平均線が上向きに転じるまで、少なくともあと8カ月は下げ止まる実績を積む必要がある。

2015年から18年まで、リラ/円は4年連続で陰線を記録して下がり続けた。今年は5年ぶりの陽線引けで大晦日を迎えることができるのだろうか。以下、リラの安定回復に必要な短期、および中長期の課題を挙げておく。

<米軍シリア撤退の影響>

短期的には、昨年ごろから改善し始めた対米関係を持続させることが必要だ。過去のリラ安局面では、米国との関係悪化が下落の一因とみられていただけに、今後もその維持、改善を図ることが通貨安定の必要条件となる。

昨年10月、トルコ司法当局は2016年に起きたクーデター未遂に関与した疑いで軟禁していた米国人牧師を解放。11月には両国政府が互いに課していた政府高官への制裁を解除し合うなど、冷え切っていた関係に雪解けの兆しがみられる。

昨年末の20カ国・地域首脳会合(G20サミット)では、エルドアン大統領とトランプ大統領が50分間にわたり会談した。両国間に横たわる懸案事項である貿易関税やイラン産原油の輸入に関する協議のほか、サウジアラビア人記者殺害事件について情報交換などを行ったとみられている。

現在、米国はトルコに対し、シリアからの米軍撤退に際してクルド人勢力を攻撃しないことを求めている。この問題で再び両国関係が悪化しないことを願っているリラ/円ファンは多いだろう。

<カギを握るインフレ沈静化>

ただ、外交面の必要条件を満たしただけでは、リラ安定の十分条件は整わない。米国とトルコの関係は通貨価値を損なわない程度まで改善したとみられるため、今後中長期的には「中央銀行の信認確保」と「高インフレ体質の克服」が必須になるだろう。

トルコ中銀は昨年9月、政策金利を一気に6.25%ポイント、24%まで引き上げた。その後も同水準を維持することで、政府から独立した「通貨の番人」としての誇りを国内外にアピールしている。以来、それまで弱気一辺倒に傾いていたリラに対する市場心理は徐々に好転、現在に至る失地回復のもう一つの背景となっている。

リラの一方的な下落に歯止めがかかったことによる好影響は国内物価に波及、昨年12月の消費者物価上昇率は前年比プラス20.3%と、10月に記録したプラス25.2%を頂点にようやくピークアウトし始めた。

当面は、この状態をしばらく維持することが肝要だ。モノの値段の上昇率は通貨価値の下落率にほかならない。リーマン危機前に一時99円台で取引されていたリラが、派手に上下しつつも値下がりし続けた根本的な要因は、通常で年7%前後、悪化すると20%を超えることもある同国のインフレ体質にある。

トルコのインフレ率がある程度まで鎮静化しない限り、リラ/円相場の購買力平価は右肩下がりのきつい傾斜が緩んでこない。経済が発展途上で、先進国並みの所得水準を追う新興国の賃金や物価の伸びが高いのは自然ではあるが、近年のトルコは通貨安とインフレが相互に増幅し合う悪循環に陥り、国内外の市場関係者が許容できないほどの熱病に感染していた。通貨の番人であるトルコ中銀が、十分な解熱作業を進めて市場の信認を確保する必要がある。

トルコのインフレ率は最近ようやく低下し始めたとはいえ、前年比20%を超えており、先進国の投資家の目から見るとまだ高い。「トルコの平熱」として市場が許容する水準は不明だが、最低でも前年比10%未満に下げる必要があるだろう。現在、トルコの政策金利は24%と十分に高いため、今後は追加利上げをせずともインフレ率が1ケタに下がるだけで実質金利は上昇、極端なリラ安を防ぐ力は増してくる。

通貨安ショックに見舞われた新興国の先行事例を見ると、まずは通貨防衛に必要な大幅利上げに踏み切り、インフレ懸念が収束。その後、十分な実質金利を海外の投資家に提供しながら、利下げに転じることができるようになると、名目為替レートの減価率が購買力平価の傾きよりも穏やかになり、実質通貨高になるケースが多い。

<経済の外部環境は好転>

あくまで現時点での判断だが、トルコの実体経済が、8月に起きた通貨安パニックを正当化できるほど悪化していると思えない。昨年秋からの原油価格の大幅安は、原油の輸入国であるトルコにとって「対外収支の改善」、「実質所得の増加」、「インフレの抑制」という三重のメリットをもたらしており、トルコ経済を取り巻く環境は好転している。

約8000万人のトルコの人口構成は、日本と真逆の若々しいピラミッド型だ。地政学的にも数千年前から西洋と東洋を結ぶ交通の要衝に位置し、歴史や文化の魅力に満ちた観光業など競争力の高い産業もある。適時適切に経済政策を運営できれば、中長期的に高い成長力を秘めているのではないだろうか。

潜在的な成長力に海外投資家の目を再び向けさせるためにも、トルコはまず昨年夏の暴落ショックで激しく傷んだ通貨価値の信認回復に努めなければならない。今後、トルコのインフレ率が十分に下がり、実質金利に十分な引き下げ余地が生まれるまで、時期尚早な利下げを我慢することが必要だ。トルコ中銀には、政治的なノイズに左右されない毅然とした金融政策の運営が期待されている。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:久保信博)

植野大作氏 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト(写真は筆者提供)

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below