May 27, 2020 / 7:05 AM / a month ago

コラム:米マイナス金利はありうるか、第1波は強烈なドル高=内田稔氏

[27日 ロイター] - 今年5月以降、市場では米連邦準備理事会(FRB)によるマイナス金利政策の導入が意識されている。そこで、本稿ではその可能性に関し、主に銀行への悪影響(副作用)の観点から検討し、導入された場合のドル/円JPY=EBSへのインパクトを考察する。

5月27日、今月以降、市場では米連邦準備理事会(FRB)によるマイナス金利政策の導入が意識されている。写真は米ドル紙幣。3月撮影(2020年 ロイター/Dado Ruvic)

結論を先に言えば、マイナス金利政策導入の可能性は低く、仮に導入された場合、米国の株式相場の下落を招くだろう。ドル/円は下落するとみられるが、直後の第1波は強烈なドル高となるおそれがある。

<曖昧なFRBの権限>

FRBのマイナス金利政策導入は、現時点で市場のコンセンサスには至っていない。これは、主に以下の2点の要因による。

まず、MMF(マネーマネージメントファンド)が機能不全に陥るとみられている。現預金残高をはるかにしのぐMMFは、換金性に優れた運用商品として米国では家計にも定着しており、米ドル資金の供給源としての重要な役割も担う。

しかし、MMFの運用先である米財務省短期証券(Tビル)やレポ取引の利回りがマイナスとなれば、こうしたものを運用先としていたMMFから資金が流出するなど、カネ回りがかえって滞りかねない。

また、FRBの権限も曖昧だ。FRBは銀行から預かる準備預金に対し、利息を支払うことは規定されているが徴収することは想定外であり、どこにも明記されていない。有権者が直接選んだわけでもない中央銀行に、銀行からの徴税にも近い行為を認められるのか明確ではない。

ただし、マイナス金利政策に関しては、金融仲介機能、すなわち預金取扱機関である銀行への悪影響(副作用)の程度が重要だ。ひと口にマイナス金利と言っても欧州中央銀行(ECB)が預金ファシリティ金利をマイナス0.5%まで徐々に掘り下げた一方、日銀は政策金利残高への適用金利を4年以上もマイナス0.1%で据え置いている。

まだ、導入していない英米もそれぞれ姿勢が異なり、現時点でマイナス金利政策の可能性を明確に否定するパウエルFRB議長に対し、英イングランド銀行のベイリー総裁は、導入の可能性を排除しないと明言した。

この違いを理解する上で、銀行の預貸率が一助となる。預貸率は、預金残高に占める貸出(融資)残高の割合を示す銀行の経営指標の1つだ。融資金利は社会通念上ゼロ%が下限であり、預貸率が100%以上なら銀行からみた負債(預金)の全てをゼロ%以上の貸出に回すことができる。

一方、100%を下回っている場合、貸出に回らなかった預金をマイナス金利で中央銀行に預けなければならない(または、過度なリスクを取る運用)。そこで被る逆ざやが時間の経過とともに蓄積し、次第に金融仲介機能を阻害する構図だ。

日銀公表のデータによれば、昨年3月末のユーロ圏の預貸率が100%であるのに対し、日本は82%と低い。ちなみに英国の預貸率は約95%であるのに対し、米国は86%。ECBと日銀のマイナス金利の水準や、パウエル議長とベイリー総裁のトーンの違いに合点がいく。マイナス金利政策は、預貸率が低い米国の銀行にも強い副作用をもたらす可能性が高い。

<株式市場に逆風>

銀行に対する副作用の観点では、金利水準と並び利回り曲線(イールドカーブ)の傾きも重要だ。銀行は基本的に短期で調達(預金)し、それより長い期間で運用(貸出)する構造だからだ。極論を言うと、全期間の金利水準がマイナスでも、イールドカーブが右肩上がりとなっていれば、銀行は金融仲介機能を保つことができる。

日銀は2016年9月、マイナス金利導入の決定から約8カ月後に長短金利操作付き量的・質的金融緩和(いわゆるYCC)を導入。マイナス0.3%付近まで沈んだ10年物の国債利回りをゼロ近辺まで引き上げ、イールドカーブに傾斜を設けたのも、このためだ。

従って、米国もマイナス金利政策導入に合わせ、長期ゾーンの資産買い入れの抑制といった工夫が必要だろう。もっとも、短期金利を引き下げる一方、長期金利の上昇を容認すれば金融緩和効果は削がれ、株式相場への逆風となりやすい。国債増発が見込まれる中、需給悪化といった悪い長期金利上昇を招く危険性も伴う。

結局、マイナス金利が導入されれば、逆ざやとイールドカーブのフラット化により、銀行には強い副作用が生じるおそれが強い。

米国は日本に比べれば、間接金融の比率は低い。それでもS&P500株価指数.SPXの全11セクターのうち、ここまでの金利低下を受けて金融セクターは年初来25%も下落。35%も下落したエネルギーセクターに次いで弱く、銀行に限れば下落率36%とエネルギーセクターを超える(26日現在)。

日本でもマイナス金利導入後の約5カ月間で銀行株は約3割も下落し、TOPIX株価指数.TOPIXも約15%下落した。マイナス金利政策の導入が余程のマインド好転をもたらさない限り、米国の預貸率に照らし、日本に近い株式相場の反応が見られそうだ。

しかも、家計金融資産に占める株式等の比率は、米国が約34%と日本(約10%)やユーロ圏(約19%)より高いため、逆資産効果にも警戒を要する。

以上を踏まえると、現時点では米国のマイナス金利政策導入の可能性は低いだろう。

<リスク回避でドル円拮抗>

最後にドル/円への影響を見ておこう。考慮すべき波及経路は、株安に伴うリスク回避、米ドル金利の低下、そしてドル資金の需給だろう。

まず、米国がマイナス金利政策を導入する場合、おそらくコロナ禍の長期化によりあらゆる手を尽くした後と考えられる。そうした場面でのマイナス金利政策導入に伴う株安は、かなり強いリスク回避を招くとみられる。為替市場では有事のドル高とリスク回避の円高が拮抗し、ドル/円の方向感は出にくいかもしれない(クロス円は急落)。

それでもドル金利の低下が、次第にドル安に作用しそうだ。米国は経常赤字を賄うために、本来なら一定の金利水準によって対内証券投資を安定的に誘引し、ドルの価値を維持しなければならないからだ。長期ゾーンにまで及ぶ金利低下は、ドル建て資産への投資に対するリスクを高めよう。

もっとも、ドル安トレンドに入る前の第1波は、ドル急騰となる可能性が相応にある。前述したMMFの機能不全により、ドル資金の供給が一時的に絶たれるからだ。

最近の例を挙げれば、2016年11月にMMFの規制改革を受けたドル供給の減少にトランプラリーにわき立つドル高が加わり、ドル/円は約1カ月間で101円台から118円台まで17円もの急騰劇を演じた。今年の3月もドル/円はいったん101円台まで沈んだ後の約2週間で、111円台後半まで急騰する場面がみられた。もっとも、どちらも四半期末の手前で失速し、その後、ドル安に転じた動きがこれまでの経験則でもある。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

内田氏

*内田稔氏は、三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。一貫して外国為替業務に携わり、2012年より現職。J-money誌の東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では2013年から19年まで個人ランキング1位。

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編集:田巻一彦

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