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コラム:EU離脱とポンド下落、その先に円高の影=内田稔氏

[27日 ロイター] - 市場は、米大統領選挙の話題で持ちきりだが、中長期的な為替相場を展望するなら、英ポンドに注目すべきだろう。これは、英国が2020年末をもって、名実ともに欧州連合(EU)から離脱する結果、国際金融市場におけるポンドの地位が低下し、為替市場も影響を受ける可能性が高いからだ。

10月27日、市場は、米大統領選挙の話題で持ちきりだが、中長期的な為替相場を展望するなら、英ポンドに注目すべきだろう。写真はポンド紙幣。1月撮影(2020年 ロイター/Dado Ruvic)

<ポンド需要は徐々に減衰か>

はじめにポンドのプロフィールを確認しておこう。言うまでもなく、ポンドはかつての基軸通貨だが、その座をドルに明け渡した後も国際金融センター、シティを抱える英国の通貨として存在感が失われたわけではない。国際通貨基金(IMF)のデータによれば、世界の中央銀行が保有する外貨準備(Allocated Reserves)のうち、ポンドは6月末時点で4.46%を占めている。一見、低いと映るがそれでもドル(61.26%)、ユーロ(20.27%)、円(5.75%)に次ぐ4番目だ。

また、昨年の国際決済銀行(BIS)データによれば、外国為替市場での実際の取扱高では、ポンドは6.4%とドル(44.2%)、ユーロ(16.1%)、円(8.4%)に続いてやはり4番手に位置している。

今年の英国の名目国内総生産(GDP)は、インドを抜き返して5番手に浮上する見込みであり、それに照らせばこうしたポンドの地位は当然とも言える。しかし、以下でみていく通り、EU離脱によってポンドに対する需要は徐々に衰えていく公算が大きい。

<外貨準備の英ポンド比率も低下へ>

外国通貨に対する需要は3つに集約される。1つ目は投機的需要であり、これは値上がり益を期待するものだ。2つ目は取引需要と呼ばれ、相場の変動に関係なく、取引や決済手段としての需要だ。そして3つ目が予備的需要だ。これは、不測の事態への備えであり、中央銀行の外貨準備はその代表例だろう。

このうち、英国のEU離脱によって落ち込むとみられるのは、取引需要と予備的需要だ。例えば、EUとの経済的な結びつきが薄れる結果、多くの非居住者は、英国ビジネスの見直しを迫られる。実際、対内直接投資は、EU離脱の是非を問う国民投票が実施された2016年の約3248億ポンド(約44兆3352億円)をピークに減少し続け、今年の上半期はわずか32億ポンドにとどまった。いずれ流出に転じる懸念がある上、配当や利益の授受も減少し、ポンドに絡む取引需要は衰えよう。

また、世界の中央銀行がポンドの保有比率を徐々に引き下げる可能性も高く、予備的需要も後退しそうだ。同じく主要通貨ではあるもののEU加盟国ではないスイスフランが外貨準備に占める割合は、わずか0.15%に過ぎない。さすがにポンドがすぐにそこまで凋落するわけではないにせよ、その他の公的機関や民間企業もこの流れに追随すれば、ポンドの地位低下は必至だ。

しかも、保有比率1%の低下は、現在の外貨準備の規模に照らせば、約1200億ドル相当のポンド売りを意味し、相場への影響も大きい。さらにイングランド銀行がマイナス金利の導入に踏み切れば、投機的需要の観点でもさらなるポンド離れとポンド安が進むだろう。

<SDR、バスケット比重見直しへ>

その点、特別引き出し権(SDR)の通貨バスケットの比重が重要だ。現在、ポンドは8.09%とドル(41.73%)、ユーロ(30.93%)、人民元(10.92%)、円(8.33%)と並び構成通貨の一角を占めている。ただ、今年はIMF理事会が5年ごとに構成通貨と比重を見直すタイミングにあたる。

英国は、この通貨バスケットへの採用基準の1つである「輸出額が世界で5本の指に入ること」を2007年を最後に満たせておらず、昨年は8番手まで順位を下げている(ユーロ圏を1つの国として計算)。さすがに構成通貨から除外されることはないだろうが、前回の見直し時点(2015年11月)では予想されていなかったEU離脱という現実を踏まえると、輸出額の順位後退をあまり大目には見てもらえないはずだ。ポンドの比重引き下げは不可避と予想する。

SDRは、IMFなど国際機関の会計通貨となっているほか、加盟国の外貨準備高を補完する重要な役割も担う。金融危機時の2009年にはIMFに対する出資額に応じて加盟国に合計1826億SDRが配分され、危機の深刻化を回避するのに大いに役立った。

そのSDRにおける比重の見直しは、世界の中央銀行に保有する外貨準備の通貨別アロケーションの再考を促す「号砲」となり得る。実際、前回の見直しにより、初めて通貨バスケットに組み入れられた人民元は、外貨準備の2.05%を占めるに至った。決して高くはないが、この5年間でほぼ倍増。加ドル、豪ドルを抜き去り、円に続く5番手の地位を確実なものにした。

<英ポンド売りの行く先はどこか>

為替市場にとって重要なのは、ポンドから流出する資金の行先となる通貨だ。既にドルは外貨準備の6割程度を占めており、近年その水準を概ね維持している。金融危機の教訓を踏まえ、ドル一極集中の是正を求めた中国人民銀行の周小川総裁(当時)の論文が投じた一石の余韻は消えていない。ドルがポンド売りの主たる受け皿となるわけではないだろう。

おそらく同じ欧州通貨としてユーロへと相応に流れ込むほか、地域分散を念頭に円や人民元といったアジア通貨も選好されよう。中でも、中国は世界第2位の経済規模に見合った国際金融市場での役割を望んでいると思われる。徐々にではあるが、今後も市場の規制緩和や自由化を進め、保有者からみた人民元の有用性も高めるはずだ。外貨準備として保有する人民元を寝かせておくために必要なオンショア債券市場の整備も着実に進んでいる。

こうした諸点を考慮するなら、ポンド売りの対価の筆頭に人民元が挙げられよう。とは言え、中国もその過程で生じる人民元高を見て、指をくわえて静観するわけではなかろう。人民元売り・ドル買いの為替介入を時折行うはずで、外貨準備は拡大すると見込まれる。と同時に、米大統領選の結果に関係なく、米中間の緊張が続くことを想定し、中国は外貨準備の多様化も進めるはずだ。即ち、ドル買い介入と並行してドル売り・円買いやドル売り・ユーロ買いも行い、保有外貨を分散することが中国にとって合理的だ。

日英両政府は日英経済連携協定(EPA)に署名しており、両国議会の承認を経て2021年1月に発効する見通しだ。基本的に日英EPAは日欧EPAの優遇関税を踏襲しており、英国のEU離脱に伴う日本への直接的な影響は最小限に抑えられよう。しかし、為替市場におけるポンドの地位低下が、潜在的な円高圧力となる可能性も忘れてはなるまい。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

*内田稔氏は、三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。2012年より現職。J-money誌の東京外国為替市場調査におけるリサーチ部門で2013年より8年連続個人別ランキング第1位、国際公認投資アナリスト。

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