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コラム:米金融正常化によるドル高は不発、年末は105円か=内田稔氏

[28日 ロイター] - 米国の景気回復に伴い、金融政策の正常化が意識されている。世界金融危機後の例に倣えば、量的緩和の縮小(テーパリング)、ゼロ金利解除(利上げ)、バランスシートの正常化(緩和マネーの吸収)といった手順を踏むだろう。これまでの景気回復や株式相場の上昇に照らせば、2022年の前半にもテーパリングが始まる可能性が高い。このため、市場の関心もそれに先立ち、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長がテーパリングの議論開始に言及する時期に集まっている。

 5月28日、米国の景気回復に伴い、金融政策の正常化が意識されている。ワシントンのFRB本部で2019年3月撮影(2021年 ロイター/Leah Millis)

<既に失速・反落したドル>

金融政策の正常化は、米国経済の相対的な強さを表し、ドル金利の上昇も見込まれ、外為市場ではドル高要因と受け止められている。実際、今年に入り、ドルの名目実効相場(BISのBroadベース)は、長期金利の上昇とともに最大で約3.3%上昇した。

しかし、4月に入り、長期金利の上昇が一服するとドルは失速し、年初の水準まで反落した。この間、長期金利は上昇こそ一服したが、それでも年初より0.7%程度も高い。このことから、ドルの反落は、金融政策が正常化へ進んでも、実際にはそれほどドル高が進まないばかりか、緩やかながらも下落トレンドに入る可能性を示唆していると指摘したい。

<ドル安生む米国の貿易赤字>

好況を反映した輸入の伸びを受け、3月の米貿易赤字(モノとサービス)は、744億ドルと過去最大を記録した。この傾向は足元でも続いているとみられ、経常赤字の拡大とともに、ドル安圧力も強まるだろう。これに対し、十分な対米国債投資があれば、ドル高が進むことも可能だ。  

ただ、年初来のドルの動向を見る限り、1%台の長期金利では、赤字が拡大したドルを押し上げることは難しいようだ。加えて、潤沢なドル資金の流動性を踏まえ、為替ヘッジコストも安い。対米国債投資の過半は、スポット市場でのドル買いを伴わない為替ヘッジ付きとみられ、投資が活発化してもドル高は進みにくい状況だ。

<高い長期金利「2%」のハードル>

長期金利が2%を超えて上昇すれば、ドル高が進むかと言えば、それも容易ではないだろう。現在、米国のS&P500指数の予想株価収益率(予想PER)は、約22.6倍。この逆数である益回り(約4.4%)と長期金利の差はイールドスプレッドと呼ばれ、債券と比較した株式投資の妙味(期待超過収益率)を表す。長期金利が2%に迫るとイールドスプレッドは250bpを割り込んで縮小する。これは、株式相場が2割程度も下落し、当時のFRBが利上げ継続路線の撤回を迫られた2018年第4四半期と同じ水準であり、株価の割高感が意識されやすい。

株式相場が動揺すれば、再び債券買いが促され、金利には低下圧力が加わるだろう。無論、企業業績の改善につれ、同じ株価でもPERは低下(益回りは上昇)する。株式相場が許容できる長期金利の水準も時間をかけて上昇していくだろう。

ただし、経済活動の正常化をかなり織り込んだ後だけに、企業業績の改善ペースも落ち着いてくるとみられる。長期金利の2%超えには、まだかなりの時間を要するだろう。

<すう勢的に低下するアメリカの金利>

それでも、テーパリングが進展し、利上げ局面へ向えば、長期金利にもさらなる上昇余地が生じるかも知れない。しかし、米国では過去40年間、政策金利も長期金利もそのピークが徐々に切り下がってきた。

例えば、前回の利上げ局面でも政策金利のピークは2018年の2.25%─2.50%、長期金利も3.25%程度にとどまり、どちらもその前のピーク(いずれも2007年の5%台)を大きく下回った。

米経済の期待潜在成長率の伸び悩みにより、この傾向は今後も続く可能性が高い。次の利上げ局面の政策金利のピークが2%程度にとどまるなら、長期金利も3%台には届かない公算が大きいだろう。

逆に、長期金利が3%に達する場合、先のイールドスプレッドが250bpを維持するためには、予想PERが18.2倍まで低下する必要がある。これには、現在の株価で計算しても、今より25%程度も高い1株当り予想純利益(予想EPS)が必要だ。株価が上昇するなら、さらに高い伸びが求められる。米国の企業業績が、改善し続けるにせよ、そう簡単なことではないだろう。

<経常赤字の意味>

一方、海外投資家が米国債投資に求める期待収益率(利回り)は今後、上昇していくはずだ。米国では、経常赤字に加え、財政赤字も拡大傾向をたどっている。米国債投資に求めるリスクプレミアムも上昇するためで、ドル買いを伴うオープン外債ともなればなおさらだ。

国際通貨基金(IMF)によれば、今年末における米国の公的債務残高は、対名目国内総生産(GDP)比で約133%(グロス)に達する。G7の中では日本(約256%)やイタリア(約157%)よりも低い。ただ、今後のインフラ投資(米国雇用計画法)といった成長戦略に見合う増税の道筋を描けなければ、赤字幅はさらに膨らむ。    

また、日本とイタリアはどちらも経常黒字国であり、政府の資金不足を国内の民間資金で賄うことが可能だ。これに対し、経常赤字国である米国は、政府部門の資金不足を国内資金では賄い切れない。その分、海外投資家の資金に依存せざるを得ず、その際、米国債の利回りが海外投資家からみて魅力的でなければならない。

仮に、米国債の利回りが投資対象としての魅力に乏しければ、経常赤字のファイナンスにはドル安が必要となる。これは、利回りが低くてもドル建資産が割安と映れば、対米国債投資を呼び込むことができるようになるためだ。

<年末に105円か>

こうしてみると、米国の金融政策の正常化が進む場合でも、ここまで上昇した株式相場と共存できる長期金利の水準は、あまり高くないようだ。それだけに経常赤字と財政赤字が拡大しつつあるドルが持続的に上昇するシナリオも描きにくく、緩やかな下落が見込まれる。もう少し利上げを織り込み、2年債といった利回りが上昇すれば、多少はドルも強含むだろう。

ただ、利上げのピークがすう勢的に低下してきた点を考慮すれば、それもあまり大きな動きとはならないだろう。米国の金利があまり上昇しなければ、少なくとも年内はある程度のリスク選好地合いが続くとみることができる。

ドル安と円安により、クロス円ではもう少し円安が進むかも知れない。もっとも、ドル安相場であればドル/円は下落することの方が多い。今年に関して言えば、緩やかなドル安相場を見込む以上、ドル/円も年末に向けて105円程度までは想定しておく必要がありそうだ。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

*内田稔氏は、三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。慶應義塾大学卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。2012年より現職。J-money誌の東京外国為替市場調査で2013年より8年連続個人ランキング1位、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会認定アナリスト、日本テクニカルアナリスト協会認定アナリスト、経済学修士(京都産業大学)、証券アナリストジャーナル編集委員。

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