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コラム:ドル円予想レンジを下方修正、消えた鉄板のサポート=植野大作氏

[東京 19日」 - 秋口以降に観測されたドル円相場の啓示を踏まえ、向こう1年程度の予想レンジを改めた。

 秋口以降に観測されたドル円相場の啓示を踏まえ、向こう1年程度の予想レンジを改めた。従来、2021年末までの予想レンジは1ドル=102円台─112円台だったが、これを100円台─110円台に引き下げるのが無難だと判断を変えた。植野氏の今後の見通し。(2020年 ロイター/Shohei Miyano)

従来、2021年末までの予想レンジは1ドル=102円台─112円台だったが、これを100円台─110円台に引き下げるのが無難だと判断を変えた。理由は2つだ。

第1に、10月21日に現われた日足の大陰線を境に、チャートの見た目が悪くなった。それ以前にも幾度か105円割れは起きていたが、9月中旬に進んだ104円00銭までの下落には日本企業による海外企業売却報道に刺激された需給の思惑が絡んでおり、10月初旬に一瞬あった104円90銭台への差し込みにも「米大統領のコロナ感染」という明確な背景があった。

10月21日に観測された大陰線は、それらの動きと一線を画していた。これといった背景が見当たらないのに、「ドル人民元の下落」、「ポンドドルの急騰」などをにらみながら突然1円以上も急落したのがショックだった。他通貨市場の動きを眺めてドル円が上下することはよくあるが、ドル円直撃系のネタが見当たらないのにそんなに大きく動くことは滅多にない。

いわゆる「材料砂漠」の時間帯に突然現われる大陰線は、その背景がよく分からないだけに不気味であり、市場参加者に地合いの悪さを印象づける力が強い。実際、10月21日を境に、105円割れ水準を見る頻度や滞空時間が一気に増した。

第2に、そのような状況だったにも関わらず、政府の対応が後手に回った。かつて安倍晋三内閣の時代には、心理的節目の105円割れを試しそうになるとすかさず当局からのけん制発言が飛んできたが、今の内閣発足後、政策運営の重点が携帯料金の値下げ、役所のハンコ廃止、日本学術会議の人事など、国内分野に偏り過ぎて、「円高アラート」の空白地帯が出来てしまった。

10月21日の大陰線出現後、105円割れでの下値を探る動きが進み、11月6日に103円台前半を見てから菅首相がようやくけん制コメントを発信したが、時機を逸した印象が強い。一塁走者が二盗を決めた後になって一塁に牽制球を投げても手遅れだ。

結果的に、105円付近の水準はもはや「鉄板のサポート」ではなくなった。今後、何かの拍子に勢いづいた場合、モメンタム重視の短期筋などを中心に、「心理的節目の100円を試してみないと気が済まない」という雰囲気が強まる可能性も否定できない。当面は円高警戒色の強い日々が続きそうだ。

<このままなら5年連続の陰線>

ただ、さすがにその辺りまでくると、一段の下値余地は狭くなりそうだ。普段はドル円売買に興味のないプレーヤーにとっても「絶対的な値頃感」が刺激される100円割れは多分ないし、あっても深く差し込まないだろう。なぜそう考えているのか、理由は3つある。

第1に、最近は為替市場のテーマ選びがドル安一辺倒のネタに偏り過ぎている。米国の「双子の赤字」、「歴史的低金利」、「中銀保有資産の膨張」などに依拠したドル安論がこのところ流行っているが、現在、米国の双子の赤字は戦後最悪、政策金利は過去最低、量的緩和の規模もリーマン危機時を超えているのに、貿易額加重平均のドル指数は歴史的高値圏で少し調整しているだけだ。

改めて指摘するまでもないが、為替を動かす注目テーマはネコの目のように変わる。上記のような構造論でドル安ストーリーを展開すると、万年ドル安論の呪縛から逃れられなくなるが、為替市場の住人は飽きっぽい。ずっと同じネタで同じ方向に動き続けることは多分ない。

特にドル円通貨ペアについては、このまま今年末を迎えた場合は過去最長に並ぶ「5年連続の陰線」になる。日柄的にもそろそろ飽和感が出てくる頃合いだ。来年あたりはそろそろ底入れのタイミングが来るかもしれない。

その際、何がドル円反発の触媒になるかは分からない。ただ、最近の事例でみると、11月9日に出現した最大上げ幅2円46銭にも達した大陽線は、「新型コロナワクチンの開発期待」が起爆剤だった。「臨床試験が上手くいった」という報道一発であれだけ激しい円安が起きたことを勘案すると、実際に投与が始まったときの反応はもっと激しくなるかもしれない。

第2に、日米両国の政策金利はどちらもほとんど動かなくなっている。現在、米連邦準備理事会(FRB)は少なくとも2023年末まで現行のほぼゼロ金利政策を続ける見込みであり、当分利上げはないので極端なドル高圧力は発生しそうにない。だが一方で、マイナス金利に踏み込まない限り、追加利下げの余地もなくなっている。ドル安方向への振幅も限られそうだ。

一方、日銀による金融緩和の出口はもっと見えなくなっており、米国より先に利上げする可能性は非常に小さい。米FRBは現在、過去最低の政策金利に毎月1200億ドルもの資産購入を組み合わせ、リーマン危機の時より強烈な金融緩和を行っているが、ドル円は当時のように75円台まで下がっていない。100円超のレベルで踏ん張っているのは、たぶん日銀緩和の影響だ。

日銀が現在行っている異例の超低金利政策については、「地域金融機関の経営圧迫」や「機関投資家の運用難」などの副作用もあるため、これ以上の下げ余地はほぼ無くなっている。日銀による追加緩和で円安ショック起こすことは難しくなっているが、国内投資家が辟易としている今の超低金利政策を維持する限り、過度の円高を抑止するバックストップ力は残存するだろう。

第3に、これまで当コラムで展開してきた主張の繰り返しになるが、日本の基礎収支による為替需給環境はおおむねバランスが取れている。現在、日本の貿易サービス収支、第2次所得収支、資本移転などを合算した実需のフローはほぼ拮抗しており、海外からの利息や配当で稼いだ第1次所得収支の黒字を海外への直接投資や長期証券投資で還流するループが出来上がっている。

海外に保有する資産から上ってくる利配収入による黒字は金額が安定している一方、海外投資で出ていく資金フローの勢いは、ドル円相場のレベルが上がったり下がったりすると、その動きに反比例して強まったり弱まったりする。極端なドル高や円高が進むと、それにカウンターを当てて過度の為替変動を抑える需給調節の機能が働いているとみられる。

以上の要因を考慮した上、この先1年程度については1ドル=105円を中心に上下5円程度の値幅で動く可能性が高いと考えている。110円に接近したなら戻り売り、100円付近に軟化した場合は押し目買いを考えたいが、それだとレンジが広過ぎて、売買ともにノーチャンスかもしれない。狭くみるなら105円の上下数円程度のコアレンジに絞っても良いだろう。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

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編集:久保信博

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