December 25, 2019 / 1:39 AM / 8 months ago

コラム:2020年も「動かない・動けない」ドル/円相場=上野泰也氏

[東京 25日] - 2019年はドル/円JPY=相場の年間変動幅が7円94銭と、少なくとも1985年以降で最も小さくなる見込みである。年間のドル高値(112.40円)を基準にして変動率を計算すると7.1%弱に過ぎない。

12月25日、2019年はドル/円相場の年間変動幅が7円94銭と、少なくとも1985年以降で最も小さくなる見込みである。写真はドルと円の紙幣。2013年2月撮影(2019年 ロイター/Shohei Miyano)

ドル/円が「動かない」あるいは「動けない」理由として市場で最もよく言われるのは、米連邦準備理事会(FRB)による3度の利下げ実施後もドルの金利水準が日欧などに比べてはるかに高い状況に変わりはなく、ドルが引き続き選好されたことである。FRBが利下げに動いた今年は、日米金利差の縮小という観点からは、円高・ドル安方向でレンジが広がるチャンスだった。けれども、そうした動きが104円台まででブロックされたため、結果として年間の値幅が狭くなった。 

もう1つは、ドルも円もともに「逃避通貨」であることから、グローバルに目白押しの感がある「リスクオフ」材料のいずれかが為替市場で材料視される場面でも、どちらか一方の通貨のみが買い進まれるような動きにはなりにくかったことである。  これらの点は、2020年も基本的に変わりがないと予想される。したがって、新しい年もドル/円の値幅は10円前後以下にとどまるだろう。

<FRB、来年のメインシナリオは>

まず、日米の金融政策について、動きの有無を考えてみよう。  

FRBの場合、景気後退を予防するための、同時に物価目標2%対比で下振れが続く物価への目配りを示す保険的な狙いも込めた利下げ局面は、3回連続で0.25%引き下げることで、はっきりとピリオドが打たれた。次のリセッションに備えて「タマ」(利下げ余地)を温存しておきたいという強い意向がそこには見えるし、1995─96年のグリーンスパン議長時代の先例にならった面もあるだろう。

金利に敏感な住宅セクターでは利下げの効果がすでに明確に出ているほか、浮揚している株価が米国経済の「大黒柱」である個人消費を資産効果で支援している。リセッション入りのリスクがにわかに膨らんだことを示す、FRBとして予見不可能なネガティブサプライズでも生じない限り、米国の追加利下げは少なくとも向こう1年程度は、メインシナリオにならない。

追加利下げよりも可能性がさらに低いのが、利上げへの転換である。パウエルFRB議長は12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)終了後の記者会見で、利上げ(への転換)にはインフレ率の大幅かつ持続的な上昇確認が必要になると述べていた。  大幅というのは目標である2%をはっきり上回ること、持続的というのはそうした動きが、たとえば原油高に支援された一過性のものではなく、1年をはるかに超えて続くことを意味している。そして、それらの点を確認した後になってようやく、FRBは利上げに向けた重い腰を上げるという流れである。  

さらに、20年は11月に米大統領選・上下両院議員選が行われる。FRBの政治的中立を守るという観点からは、よほど大きな状況変化でもない限り、夏場から大統領選投開票日にかけての金融政策変更は自重されるだろう。

<来年のドル/円コアレンジ>

では、日銀の金融政策はどうだろうか。筆者を含む日銀ウォッチャーのほとんどが、2020年を通じて現状維持が続くとみている。

まず、利上げ方向は論外である。物価安定の目標である2%が遠いままである上に、日銀はシナリオに対するリスクバランスを「下振れリスクの方が大きい」と19年10月の展望リポートに明記している。グローバル経済に明るい動きが出てきているのは事実だが、力強く回復をけん引する主役となる国・地域やセクターが見当たらないため、回復の動きは脆弱(ぜいじゃく)なものにとどまらざるを得ない。20年に入ってからの展望リポートでも、下振れ警戒には変わりあるまい。

また、経済にとって「薬」ではなく「毒」になる可能性が高いマイナス金利深掘り(利下げ)も、行われない可能性が高い。黒田東彦日銀総裁は12月19日の記者会見で「マイナス金利の深掘りというのも、金融政策として必要な事態になれば十分あり得るとは思います」と、淡々と述べていた。

FRBなどの利下げを背景に円高圧力が強まることを警戒し、マイナス金利深掘りというカードを(実際は発動のハードルが極めてきわめて高いにもかかわらず)ちらつかせてけん制していた夏から秋とは様変わりである。  付言すると、ドル/円への為替介入を日本の通貨当局が実施できる環境に変わったとみられる点も、日銀の金融政策への負荷を軽くする要因であり、金融政策が動かない確率を高めたと筆者はみている。  

ムニューシン米財務長官は12月19日、CNBCテレビのインタビューで、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新協定である米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に含まれる、通貨安誘導を禁止するといった「多くの為替に関する条項が、中国との(第1段階の)貿易合意に含まれた」と説明し、「USMCAが今後の(貿易協定の)モデルになる」と述べた。  

だが、日米の貿易協定には、為替条項は含まれていない。8月に仏ビアリッツでG7サミットが開催された際、安倍晋三首相が自動車関税の問題を事実上棚上げにしてでもトランプ大統領との間で日米貿易協定の大枠合意を急ぐなど、日本政府が巧妙に立ち回った結果と言える。日米貿易協定は2020年1月1日に発効する。

2020年のドル/円相場は105─110円がコアレンジになるだろう。米国や中国を中心とするグローバル経済の動向に関して、強気の見方が台頭する場面では110円超えがあり得るものの、長続きはしないだろうと筆者はみている。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

(編集:田巻一彦)

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