February 25, 2020 / 4:31 AM / a month ago

コラム:「新型肺炎相場」の複雑な構造、株安止める切り札は何か=上野泰也氏

[東京 25日] - 中国本土における感染者数が7万人を大きく超えた上に、韓国、イラン、イタリアへと感染が地域的な広がりを見せている新型コロナウイルス。経済面ではもっぱら中国だけの問題だとは、もはや誰にも言えなくなった感が強い。

1月25日、中国本土における感染者数が7万人を大きく超えた上に、韓国、イラン、イタリアへと感染が地域的な広がりを見せている新型コロナウイルス。写真は24日、渋谷の展望デッキから撮影(2020年 ロイター/Athit Perawongmetha)

グローバル経済は、今年の夏ごろには安定化し、底入れに向かうのではないかと年初の時点では見られていた。だが、事態は暗転した。そうしたタイミングが年後半以降へ先送りになったことは疑いあるまい。

2002─03年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の終息宣言が世界保健機構(WHO)から出されたのが03年7月5日だったこともあり、北半球で気温や湿度が高くなる今年の夏には新型肺炎も終息するのではないかという、希望的観測がある。

もし、その通りなら、新型肺炎による世界経済への悪影響には、時限性があるという話になる。ワクチンや特効薬の類いも、時間が経過するにつれて各国で開発・普及が進むはずである。

もっとも、新型肺炎のリスクが夏場に必ず消滅する保証はなく、次の冬以降への懸念をぬぐい去れるわけでもない。こうした中、時に臆病なところを見せる金融市場はリスクを回避する方向、「リスクオフ」に傾斜するのが普通だろう。

<リスクオフに傾く市場>

何らかのリスク要因が強く意識されて「質への逃避」が起こる際に買われやすいのが、金である。ニューヨーク商品取引所(COMEX)上場の金先物<GCv10#GC:>は、中心限月である4月物が24日にかけて8営業日続伸し、清算値は1オンス=1676.60ドルになった。13年2月以来の高値である。1800ドルを目指すのではないかという声もあるという。こうした金価格の様子は、市場が「リスクオフ」であることを明確に示している。

また、市場が「リスクオフ」に傾斜する際に資金を置いておく場として選好されやすい米国の中短期債が、しっかり推移している。2年物US2YT=RRは24日時点で1.25%まで利回りが下がった。3カ月物US3MT=RRの利回りは10年物US10YT=RRを上回っており、逆イールドになっている。どこまでが「質への逃避」によるもので、どこまでが純粋に米連邦準備理事会(FRB)による追加利下げの織り込みなのかは峻別できないものの、「リスクオフ」の様相は明確である。

ところが、市場が「リスクオン」「リスクオフ」いずれなのかを判断する際に用いられる代表的なインディケーターの1つである米国株は、24日にかけて急落したものの、それでもなお、ヒストリカルに見れば高値圏で推移している。新型肺炎の問題が浮上した後も、年金運用のベンチマークになることが多いとされるS&P500種株価指数.SPXや、ハイテク株の動向に左右されやすいナスダック総合指数.IXICは、史上最高値を何度も更新した。

一時的であるにせよ、話をさらに複雑にしたのが、外為市場で20日にかけて、一時112円台前半をつけるところまでドル高・円安が突然進んだことである。

世界のどこかで何らかのリスクイベントが発生した際にマネーを逃避させる場として選好される通貨、いわば嵐が過ぎ去るまでのシェルターになりやすい通貨が「逃避通貨」である。古くからの市場参加者はすぐに、スイスフランを挙げるだろう。近年では米国のドルと日本の円が、両方とも「逃避通貨」とみなされている。

したがって、ドル/円相場がどちらかに大きく動くとすれば、それはいずれかの国の中央銀行が金融政策を動かす時だというのが、ベーシックな考え方として市場で根強く存在している。

要するに、金融政策の面で日米の既存のバランスが崩れないなら、ともに「逃避通貨」であるドルと円の交換比率は、何らかのリスク事象が発生しても、そのことだけでは大きく動かないはずだという見方である。

<「カネ余り」対「リスクオフ」>

以上の状況をどのように整理すべきか。筆者なりに結論を述べると、金価格の高騰が示す通り、新型肺炎を材料にした「リスクオフ」が広範に生じている。だが、そうした流れに対してカウンターで効いているのが「カネ余り」、すなわちFRBをはじめとする日米欧中央銀行のバランスシート規模の拡大継続が安心材料になって生じている一種の「官製バブル」であり、これが米国株の高値圏推移の原動力になっている。

米国株は1月下旬には、新型肺炎を材料にしながら下落する日が多かった。その間は、米株式市場参加者のセンチメントにおける一種の「綱引き」で、「リスクオフ」が「カネ余りあまり」に勝っていたと言えるだろう。

しかし、「株価急落時に下値で買えば勝てる」というのが、近年の経験則になっている。それだけ、FRBをはじめとする中央銀行が株価にフレンドリーな政策をとってくれるはずだという安心感や、モラルハザードのようなものがあるとも言える。

このため、ある程度下げたところからは米国株の押し目買い圧力が急速に強まり、急落前にいたところよりも上まで、米国の主要株価指数は駆け上がった。「綱引き」は局面が変わり、「リスクオフ」に対して「カネ余り」が優勢になったわけである。

その際には、新型肺炎の感染者数増加ペースの鈍化などが、買い材料として使われることになった。筆者はそのようにみている。

新型肺炎に関連する明るいニュースや、必要があると判断されれば早期追加利下げも排除せずといったFRB高官によるリップサービスなど、きっかけは事前に特定できないものの、24日にかけて急落した米国株も「カネ余り」を足場にして急速に値を戻す場面が、いずれ見られるだろう。米国株は今後も振れが大きくなりやすいとみている。

<円安の意味>

為替についても説明を加えておきたい。2月中旬の円安ドル高・円安急進行については、外債投資やM&Aに関連するドル買い需要の前倒し説を含めてさまざまな解釈が出ている。

1つ言えるのは、新型肺炎の問題で中国に次ぐ「準主役」級ではないかという視線を他国から浴びつつある日本と、中国から距離的に遠い上に感染者数が今のところ少ない米国では、新型肺炎というリスクから「逃避」できる度合いが(少なくとも為替市場の認識では)全く異なるということである。

しかも、実質国内総生産(GDP)が昨年10-12月期に予想外の落ち込みを見せるなど、日本のマクロ経済指標の悪さが目立ち、円は資金の「逃避先」として危ういのではないかという思惑が生じやすくなっていた。

もっとも、30年米国債利回りUS30YT=RRが過去最低を更新するなど、米国の長期金利が一段と低下していることは見逃せない。このことは、金利水準の面でドルの魅力がそれまでよりも減ったことを意味している。ドル/円相場の112円台前半への上伸はやはり持続性のない動きであり、24日には一時110.33円をつける場面があった。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

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編集:田巻一彦

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