April 28, 2020 / 5:08 AM / in 3 months

コラム:不安定化するコロナ後の社会、ドルの底堅さは続く=上野泰也氏

[東京 28日] - 緊急事態宣言が出された後、都心の繁華街では開いている店舗が数えるほどしかなく、異様なほど閑散としている。その一方、近所の駅前通りには買い物客の姿が多く、聞こえてくるマスク越しの主婦どうしの会話には「もう少しだから頑張りましょう」といったセリフが含まれていたりする。

4月28日、緊急事態宣言が出された後、都心の繁華街では開いている店舗が数えるほどしかなく、異様なほど閑散としている。都内で19日撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

日本人は戦前も戦後も、筆者の祖父の代も父の代も、いつも頑張ってきたような気がする。多くの場合、そうした頑張りには何らかの明るい目標やタイムフレームが伴っていた。いついつまで頑張れば、ゴールがやってくる。そして、それがたとえ百点満点の成果ではなかったとしても、努力したこと自体に価値があるのだという、多くの日本人が大なり小なり大好きな、一種の精神論の世界である。

<終わりなき闘いか>

ところが、突然現れた人類の新しい敵である新型コロナウイルスとの闘いは、日本人がこれまで頑張ってきたさまざまなケースとは、根本的に異なるように思う。多くの楽しみを奪われて鬱々(うつうつ)とした日々を送る中、そんな思考を筆者は巡らせてしまう。

まず、「いつまで頑張ればよいのか」が、誰にもわからない。冷静に考えて「長期戦」やむなしという状況なのだが、どれくらい長く続くのかについては、専門家でさえ確言できない。

政府が発した緊急事態宣言は5月6日までということになっている。だが、この日付を境にして人々が元通りの生活に戻れる可能性は、限りなくゼロに近いのではないか。ほとんど、あるいは全ての地域について、宣言はおそらく最低でも数週間は延長されるだろう。その地ならしとも受け取れる政府サイドからの発言が、散発的に報じられている。

かなり高いテンションで今頑張っている人々の心は、宣言の期間がだらだら長引くようだと、ある日ぽっきり折れてしまわないか。筆者は正直心配である。米国では最近、「密」を気にせずに経済活動の再開を求める人々のデモが、各地で繰り広げられている。欧州ではフランスなどで、「自粛疲れ」に陥った人々の危うい行動が報じられている。

むろん、感染者の増加ペースが今後顕著に鈍ってくるようなら、宣言は段階的に解除されていく手順である。だが、それはおそらく「こわごわ」とである。信頼性が高いワクチンが開発されて予防接種が大々的に行われ、集団免疫の状態が出来上がれば、生活は表面的には正常化し、繁華街の夜の街もそれなりの賑わいを取り戻すことだろう。 

けれども、すっかり元通りとはいくまい。また、同じようなことが近い将来起きるのではないかという警戒心を、人々はそう簡単には消すことができないだろう。

<社会的距離が変える>

次に、「頑張ろうとする内容」、外出を自粛するなどしてコミュニケーションの機会を無理に減らそうとすること自体が、人間の本性と思われるものとは真逆である。

人間は「社会的動物」と言われる。インターネット上の辞書を見ると、「人間が個人として存在していても、その個人が唯一的に存在し、生活しているのではなく、絶えず他者との関係において存在している」、「つまり個人が社会のうちにおいて生活し生存しているのであって、社会なくしては個人が存在しないことを意味する言葉」と書かれている。

さらに、古代の哲学者、アリストテレスが人間は「ゾーオン・ポリティコン(ポリス的動物)」であると喝破したことが説明されている。社会はあくまでも個人を基礎として成立していると同時に、個人はまた社会を担ってそれを発展させる存在だというのである。

しかし、「ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)」は、人と人の距離を遠くする。人間同士のコミュニケーションは、必然的に細る。ITリテラシーが一般に低い高齢者層は、社会の中で孤立感を深めるだろう。孤独死が増える見通しを口にする専門家もいる。握手、ハグ、キスといった欧米などで一般的なあいさつの習慣は、この先いったいどうなるだろうか。

思いつくままに並べてみたが、要するに、頑張れば頑張るほど、社会のきずなは細くなる。いやそうではない、自粛する中で団結心が増しているのだと、主張する人もいるだろう。そうした心持ちを筆者はむろん否定するものではない。

だが、すでに述べたように、今回のケースは、いつ終わるかわからない、ひょっとするとエンドレスかもしれない、特異なものである。日本における東日本大震災や、その10年前に起こった米国での同時多発テロ事件のような場合とは根本的に性質が異なるというのが、筆者の見解である。

今回のウイルス危機がとりあえず終息したとしても、社会の姿や人々の心が元の状態にすっかり戻るのは、やはり難しいのではないか。

<グローバルな動きはどうなるか>

もう1つ指摘しておくと、新型コロナウイルス感染拡大という今回の危機は、人の行き来による「国と国とのつながり」という面でも、大きな傷跡を残しつつあるように思う。

渡航制限が拡大し、海外旅行や留学が難しくなっている。学生時代から海外フリー旅行をこよなく愛してきた筆者にとって、これ以上ないほど悲しい事態である。日本を出国できても、相手国が日本からの(2週間の経過観察期間を伴わない自由な)入国を認めなければ、海外旅行をすることは事実上できない。

インバウンドにしても、たとえば欧州の人々が東アジアの国を訪れる際の安全性について考えることは、今回の新型コロナウイルス危機を経て、大なり小なり変わってくるだろう。

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は4月22日、新型コロナウイルスについて、アフリカや中南米諸国の一部では「懸念される拡大傾向」が見られると指摘。欧州の一部では状況の安定化が確認されているものの、「間違いなく道のりはまだ長い。このウイルスは長期間にわたってわれわれとともにあるだろう」(Make no mistake we have a long way to go. This virus will be with us for a long time)という、実に厳しい言葉を発した。

為替相場には直接関係ないことを書きつづってしまったが、要するに、われわれはもはや「コロナ前」の世界には戻れそうにないというのが、筆者の考えである。

<続くドル堅調>

では、その為替の世界はどうなるだろうか。

ドルの金利水準は、米連邦準備理事会(FRB)によるゼロ金利復帰と量的緩和再開を受けて、すでに大幅に低下してしまっている。日米の長期金利差は、以前であれば考えもつかなかったほど縮小しており、1%を大きく割り込んでいる。

それでも、ドル/円JPY=EBS相場が円高・ドル安方向を試す動きは、散発的にしか起こっていない。この背景には、基軸通貨として最終決済手段は「ドルで」という事情があるようだ。市場が大変動していた際には、ドル現金のニーズが大きいからドルは底堅いのだ、とひところは説明されていた。

だが、市場のコンディションがかなり落ち着いてからも、ドルは相変わらず底堅い。筆者としても、その根源的理由をまだ詰め切れていない部分は正直あるのだが、トランプ大統領が登場して既存の秩序を破壊し、米国第一主義を掲げつつ軍事力増強を行っている中で、不透明な世界で最後に頼れる通貨はユーロや人民元などではなく、やはりドルだという認識が、市場の内外でじわり浸透してきているのではないか。

すでに述べたように社会が安定化しにくい面がつきまとう「コロナ後」の世界においても、ドルは底堅く推移する公算が大きいと、筆者はみている。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

上野氏

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

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編集:田巻一彦

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