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コラム:宿命的な米中対立、長期的なリスクオフ材料に=上野泰也氏

[東京 26日] - おそらくトランプ大統領の意向により、8月15日からいったん延期されていた米国と中国の貿易に関する電話協議が25日に行われた。2月に発効した第1段階の両国の合意内容(いわゆる「部分合意」)を引き続き着実に実施し、そのための条件を整えることで、両国は合意したと発表されている。協議を行ったのは、中国の劉鶴副首相、米国のライトハイザー通商代表部(USTR)代表およびムニューシン財務長官である。

8月26日、おそらくトランプ大統領の意向により、8月15日からいったん延期されていた米国と中国の貿易に関する電話協議が25日に行われた。写真は2019年6月、大阪で言葉を交わすトランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席(2020年 ロイター/Kevin Lamarque)

米国と中国の対立は、どこまで深刻(あるいは真剣)なのか。金融市場がメルクマールの1つと認識しているのが、この部分合意の行方である。

市場に緊張が走ったのは2カ月ほど前。6月22日にFOXニュースのインタビューで、中国との貿易合意について質問されたナバロ大統領補佐官が「それは終わりだ」と述べた時である。東京市場の時間帯に飛び出した上記の発言で、市場は一時的に「リスクオフ」に傾いた。

だが、トランプ大統領はSNSを通じてすかさず、合意は「全く損なわれていない」というメッセージを発信した。ナバロ氏はその後に声明を出し「私のコメントは文脈から大きく外れてとらえられた。第1段階の貿易合意とは全く関係なく、合意は引き続き有効だ。中国共産党が中国ウイルスの発生源を偽り、世界的な大流行をもたらしたので、われわれは同党への信頼を失ったと語っただけだ」と釈明した。対中強硬派として有名なナバロ補佐官としては、屈辱の発言撤回だったろう。

<大統領選意識したトランプ氏の発言>

トランプ大統領は中国との関係について、米国民の間での反中国感情の高まりを示す世論調査結果もおそらく念頭に置きつつ、かなり強硬な発言を繰り返している。8月22日に収録されたFOXニュースのインタビューで同大統領は、中国とのビジネスは「しなくてもいい」と述べ、その後にデカップリング(経済関係の分断)に言及。「彼らがわれわれに適切に対応しなければ、私は確実にそれをするだろう」と述べた。

ロイターによると、これより前の6月にはムニューシン財務長官が、米国の企業が中国で公平に競争できない場合、米中経済のデカップリングが発生する恐れがあると述べていた。

外交・安全保障問題でも、トランプ政権が中国に対して強い態度に出る場面が増えている。

7月下旬には、テキサス州ヒューストンにある中国総領事館の閉鎖を米国が要求。報復措置として中国は、四川省成都にある米国の総領事館を閉鎖に追い込んだ。

米国防総省は8月14日、米航空機メーカー製の戦闘機F16の最新モデルを66機購入する合意書に台湾が正式に調印したと発表した。米国による台湾への最新鋭戦闘機の売却はブッシュ(父)政権が1992年にF16の150機売却を承認して以来のことであり、「1つの中国」を掲げる中国政府の神経を逆なでした。

さらに、アザー米厚生長官が台湾を訪問したが、これは1979年に米国と台湾が断交して以降では最高レベルの米政府高官による訪台である。

こうした中国への敵対行動の一方で、米国産農産物の中国による大量購入には「農家が満足している」と述べて、米中「部分合意」による成果をトランプ大統領がアピールする場面も、しばしばある。

<米中間に横たわる戦略的な溝>

この政権の対中国政策を、全体としてどのように捉えるべきなのだろうか。

中国の脅威は東西冷戦時代の旧ソ連のそれより大きいと主張しているポンペオ国務長官のような対中強硬派には、それなりのビジョンや将来の政策の絵図があるのかもしれない。だが、トランプ大統領の頭の中は11月の大統領選挙で再選を果たすことで一杯であり、米国の政権には現在、体系的でストラテジックな対中国政策は存在しないとみるべきだろう。

ビジネスマン出身のトランプ大統領は、金銭的な「損得」で物事の是非を判断する傾向が強い。国の安全保障についても例外ではなく、ドイツや韓国、さらには日本に駐留している米軍の費用負担問題が、典型的な事例である。

このような、多分に場当たり的な対中国政策の1つの帰結が、中国による米国産農産物の大量購入の約束を含む「部分合意」が今なお破棄されず、有効なままになっていることである。

そうなると、米中関係において本当の意味で次に大きな展開があり得るのは、米国で大統領選挙が終わった後という話になる。

トランプ再選の場合、2期目に何をどこまでやろうとするかは、それまで以上に大いに注意が必要である。再選という目標が達成されたということは、その目標に由来してきた歯止めがなくなるということでもある。米中はともに核保有国であるため、軍事力による直接の対決に至る可能性はきわめて小さいものの、これまで以上に経済面での米中デカップリングが進んでいくシナリオが意識される。

一方、民主党のバイデン候補が勝利して政権を奪還する場合には、関税を武器にした強引な交渉姿勢を改めて、中国とはより紳士的に交渉を重ねようとする可能性が高い。

とはいえ、太平洋を挟んだスーパーパワー同士の「宿命的」とも言えそうな対立関係や、米国民の間に広がっている反中国感情には、コロナ禍の行方如何(いかん)にかかわらず、変わりがあるまい。米中両国の関係が大きく改善していくシナリオは描きにくい。

したがって、米国と中国の対立は金融市場にとって、息の長い「リスクオフ」材料だという結論になる。そうした状況において、ドルが一方的に下落していくとは考え難い。他に代わり得るライバルが見当たらない唯一の基軸通貨として、ドルの買い需要は今後も根強いだろう。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

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編集:田巻一彦

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