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コラム:FRBドットチャートに上方バイアス、ドル上昇は112円台が限界=上野泰也氏

[東京 30日] - 9月21、22日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)は、金融政策の現状維持を全員一致で決定しつつ、量的緩和縮小(テーパリング)の開始決定が間近であると示唆した。声明文の中で「予想通りに改善が広範に続くなら、資産買い入れ減額が近く(soon)正当化されるかもしれないと委員会は判断する」と記述し、メッセージを発した。

 9月21、22日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)は、金融政策の現状維持を全員一致で決定しつつ、量的緩和縮小(テーパリング)の開始決定が間近であると示唆した。ワシントンのFRB本部で2019年3月撮影(2021年 ロイター/Leah Millis)

パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の記者会見での発言も踏まえて考えると、今後の米雇用統計がよほど弱い内容にならない限り、11月の次回FOMCでのテーパリング開始決定が既定路線に近いように受け止められる。

<テーパリングと利上げの間に大きな段差>

もっとも、テーパリング開始のハードルと、利上げ開始のハードルには、かなりの段差が設けられている。FRB指導部の一員であるウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁は9月27日の講演で「雇用最大化の達成に向けて、まだ長い道のりがある」と述べつつ、その後の質疑応答ではインフレの関連で「懸念される兆候は見当たらない」と明言した。テーパリングと利上げを切り離すことによって「テーパータントラム」の再来を防止する狙いがFRB当局者の側にあることは、容易に推測できる。

<今回のドットチャートはタカ派なのか>

だが、常に収益機会を探し求めている市場のプレーヤーが、おとなしくばかりしているわけではない。目をつけたのはFRB理事・地区連銀総裁による先行き数年間の政策金利見通し、いわゆる「ドットチャート」である。

これが今回はタカ派の方向へ一層傾斜し、22年末は0.125%(利上げなし)が9人、0.375%(利上げ1回)が6人、0.625%(利上げ2回)が3人になった。

マスコミの中にはFRBによる利上げの想定時期が22年に前倒しされたと、踏み込んで書いた記事も見受けられた。だが、これは厳密には誤りである。22年末時点で利上げはまだないとみるドットと、利上げが最低1回行われているとみるドットは、同数である。しかも、パウエル議長ら枢要なメンバーは利上げなしのグループに属していると、発言内容から推測される。

<景気見通しとの整合性>

「ドットチャート」と、同時に発表されたFRB理事・地区連銀総裁による経済見通しとの整合性も問題になる。

利上げ時期に大きく影響する物価の見通し(中央値)を見ると、個人消費支出(PCE)デフレーター(総合)は、2022年と23年が2.2%、今回から予測対象に入った24年が2.1%になった(10─12月期の前年同期比)。

6月の前回見通しと比較すると、21年が0.1%ポイント上方修正されただけで、23年は同じ数字である。PCEデフレター(コア)の見通しも、似たような数字が並んでいる。

FRBは昨年8月、平均的なインフレ目標を採用。2%の目標水準を下回った時期がかなり長くなったことの埋め合わせで、2%を緩やかに上回る時期をある程度作り出す(容認する)ことにコミットした。上記の物価見通しは、そのことと照らし合わせると「あまりにも美しい」予測数値であり、ありていに言えば「出来過ぎ」である。

物価見通しの数字が6月からほとんど動いていないにもかかわらず、利上げの織り込みを厚くする方向へと政策金利のドットが今回シフトしたことに関しては、そういう利上げコースをたどらせることによって、先行きの物価動向を引き続き理想形にしておこうとする意図を反映した内容だ、という解釈になる。

<ドットチャートに内包される願望>

だが、政策金利の動きによって何年にもわたる先行きの物価上昇率の「ファインチューニング」は可能なのだろうか。他の要因にも影響されながら経済は動いていくわけであり、現実問題として不可能である、というのが答えになる。

異次元緩和が始まってから数年間、日銀が展望リポートで示す物価見通しは「願望」だと揶揄(やゆ)されていたことが思い出される。予測期間の先の方の年度の消費者物価の見通しが「お約束事」のように「物価安定の目標」2%をほぼ達成している姿に、いつもなっていたからである。

現在では現実に適合した「素直」な予測に変わり、23年度の最新予測は前年度比1.0%の上昇にとどまるが、そうなるまでにはそれ相応の時間が必要だった。

「ドットチャート」に話を戻すと、過去の予測が見事に的中してきたというわけでもない。むしろ、現実とのかい離が目立つし、状況次第でドットの位置は大きくシフトする。

一例として、19年3月の「ドットチャート」を振り返ってみよう。最も先の予測期間である21年末の分布は、2.375%(政策金利は2年9カ月にわたって据え置き)が5人、2.625%(利上げ1回)が同じく5人、2.875%(利上げ2回)が4人、3.125%(利上げ3回)が1人、3.375%(利上げ4回)が1人、3.625%(利上げ5回)が1人だった。

むろん、これらは「コロナ前」の金利予測だが、21年9月末の水準(0.125%)とのかい離はあまりにも大きい。

このように考えると、「ドットチャート」で示されている利上げ見通しについては、「話半分」ないしそれ以下の情報だと、冷静に見ておくべきだろう。ドットの分布にサヤ寄せして市場金利の水準が調整されるべきだという見方があり、欧州の中央銀行の動きなどから米債券市場のセンチメントが動揺する中、実際の取引でもそうした動きが一部見られているものの、安定的で持続的なものであるとは言い難い。

そうした米長期金利上昇に連動して、ドル/円相場は一時112円台に乗せたが、筆者はそこからドル高・円安方向に大きく動いて行くとはみていない。

物価の構造的な上がりにくさ、財政運営や株価動向に目配りする現実的な必要性などを考慮すると、米国の次の利上げ局面の「天井」はかなり低くならざるを得ない。

したがって、市場のセンチメントさえ落ち着けば、米国債のうち中期ゾーンの利回り上昇は頭打ち感を強め、米10年国債は1%台後半、米30年国債は2%台で押し目買いが徐々に厚くなり、利回り上昇が止まって反転低下するとみているからである。

ドル/円の年間値幅は10円程度であるのが近年の通例であること、今年の対円でのドル安値がこれまでのところ102.60円(1月6日)であることをみれば、円売りがこの先さらに進む場合でも、112円台半ばから後半あたりが大きな節目だろう。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

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