July 2, 2014 / 5:03 AM / 4 years ago

コラム:物価を左右するユニクロ型と廃業建設会社型の綱引き

田巻 一彦

[東京 2日 ロイター] - 物価見通しをめぐる日銀と市場のギャップは、6月短観の発表後も埋まっていないようだ。需給ギャップのプラス転換を重視するのか、景気がいずれ失速する可能性に重点を置くかで異なった結論に到達する構図がある。

違った見方で示せば、「値上げするユニクロ」型と「廃業する建設業」型のどちらの力が強いのかという「綱引き」が展開されているのではないか。どちらが優勢になるか、予断を許さない状況になっている。

<秋冬物からユニクロ値上げ>

6月短観の結果を受けて、市場では業況判断DIの回復テンポが予想よりも鈍い点を挙げて、日銀の追加緩和の可能性を見ている向きと、需給の引き締まり具合をみて、物価が上がりやすくなっていると予想する見方が両サイドに位置し、その中間で物価動向がどちらに傾くのか、様子見を決め込むグループが増えているようだ。

この2つの見通しを別の角度から見ると、ちょっと違った風景が展望できる。ユニクロを展開するファーストリテイリング(9983.T)は、今年の秋冬物から5%程度の値上げを実施する。

原材料高や円安、人件費増などのコスト増を値上げで吸収して対応することにしたとみられる。

<値上げと連動している正社員化>

この発表の前に、同社は重要な政策を発表している。アルバイトの約半分に当たる約1万6000人の正社員化だ。コストはアップするが、優秀な人員をまとまった規模で確保するために、労務政策を大転換したと思われる。

外食チェーンの一角で、人手不足により店舗の縮小を迫られているのとは、対照的な企業経営と言えるだろう。構造的な人手不足を予見し、手をこまねいて何もしないのではなく、先手を打って雇用確保に大胆な政策転換を行った。

この政策が「鋭い視点」を持っているのは、コスト増を値上げで乗り切ることが可能と判断し、「賃上げ」と「値上げ」がセットになっている点だ。アベノミクスの効果もあって、値上げが通るとの確信があって、この政策が採用されたのではないか、と予想する。

日本経済のマクロ的な状況や、アベノミクスというマクロ政策の効果を読みつつ、「先回り」して動いた同社の柳井正・会長兼社長の慧眼(けいがん)には驚きを隠せない。

ユニクロの衣料品における価格決定力は、群を抜いて高い。したがってユニクロの値上げを契機に、他の衣料品にも値上げの動きが出てくることが予想される。

また、「賃上げ」と「値上げ」をセットにした独創的なモデルは、「普通」の経営者が追随する公算が大きく、今年秋以降に値上げの大きなうねりが出てくる可能性はかなりあると考える。

<人手不足で倒産のケースも>

一方、国内における供給力の弱体化は、都市ではなく地方で顕著に進んでいる。中でも人手不足で工事を受注できず、売上高の低迷に悩み、廃業へと進む建設会社が出てきているのは、政府が公共工事を増やす中で起きていることを考えると、二重の驚きだ。

    東京商工リサーチによると、人手不足関連の倒産に関し、代表者の死亡などの「後継者難」が圧倒的に多いものの、今年5月に入って「求人難」を理由にした倒産が3件発生している。デフレ時代には考えられない現象といえる。

    また、人件費の高騰で「利益なき成長」をたどる企業が少なくないと同リサーチは指摘している。こうした企業の割合が増大していくと、景気変調のサインがマーケットに発信され、企業心理と消費者心理の両方を冷やし、アベノミクスの推進力に逆風として働く展開も予想される。

    <注目される経営者のアニマルスピリット>

    今後の物価がどうなるかは、ここで指摘した「ユニクロ型」のビジネスモデルが幅広い分野に波及し、賃金上昇と値上げがセットになって、物価を押し上げていくのか。それとも人手不足を起点に縮小均衡の歯車が回り出し、利益が出ない企業が続出し、それが倒産の増加などにも表れて、景気が失速する方向に動くのか──。

    どちらの力が強いかで、物価上昇のメカニズムの継続性が計られるだろう。私は、足元で起きている人手不足を起点にした人件費増加の流れが、物価上昇の動きに波及するのではないかとみている。

    ただ、そのためには柳井氏のような決断を他の経営者もするという前提がある。「普通」の経営者にアニマルスピリットを求めることができないのであれば、再びデフレの道に戻るリスクも依然としてあると指摘したい。

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