August 4, 2018 / 12:23 AM / 2 months ago

コラム:米自動車燃費基準の撤回で笑う中国

[2日 ロイター] - 米国のトランプ政権は自動車燃費基準を緩和することを提案し、輸送革新を大いに後退させている。

 8月2日、米国のトランプ政権は自動車燃費基準を緩和することを提案し、輸送革新を大いに後退させている。写真は、列車で輸送される電気自動車。中国・山東省で昨年8月撮影。提供写真(2018年 ロイター/China Stringer Network)

プルイット米環境保護局(EPA)長官(当時)は4月、現行基準について「高すぎる」とし、「現実に合わない」と語っていた。だが世界に目を向ければ、中国をはじめとする各国が低炭素経済に移行し始める中、こうした基準は米自動車メーカーが競争力を維持するのに役立っている。

燃費基準の逆行は、米自動車メーカーに対し、世界的に進化する市場において時代遅れの車を生産することを奨励するものであり、その過程で米国はマーケットリーダーの座を中国に明け渡すことになるだろう。

米自動車メーカーは現在、連邦政府が定めるガソリン1ガロン当たりの走行距離と炭素排出量に関する基準を満たす乗用車を生産しなくてはならない。トランプ政権の提案には、そうした基準を後退させる8つのシナリオが盛り込まれている。中でも推奨されているのは、2026年まで、基準を2020年の水準で凍結することだ。

これは、市場、安全、環境といったどの観点から見ても、見当違いである。

歴史的に見て、米自動車産業に対する連邦政府の規制は、より良い車の生産を促してきた。シートベルトやセーフティーブレーキ、フロントガラスに使われるガラス基準などは全て、過去半世紀にわたり世界基準となる安全な車の発展につながった。低炭素あるいは非炭素の車が世界的に輸送の未来を支配することは明らかである。

燃費基準は、低炭素車、とりわけ電気自動車(EV)を生産・販売するインセンティブを米自動車メーカーに与えている。ガソリン車よりも環境に優しく燃費効率が良いからだ。メーカーはこうした車を自社で生産するほか、より進んでいるEVや代替燃料車の生産ラインをもつ他社からクレジットを購入することにより、基準を満たすことが可能だ。こうした基準は柔軟性があり、EV生産で米国が首位を維持するためには必要不可欠である。

環境・エネルギー学研究所(EESI)によれば、米中両国において「政策支援はEV開発・展開に主要な役割を担っている」。それ故、両国が世界のEV市場をリードしている。米燃費基準の後退は自動車メーカーへのEV投資圧力を短期的に緩和させるだろうが、長期的には米国に多大な影響を及ぼす可能性がある。

世界のEV販売台数は昨年、初めて100万台を超えた。バッテリーパックの価格は2013─17年に65%下がり、EV需要が世界的に高まるにつれ、そうした傾向は加速する一方だろう。

中国は、英国、フランス、ノルウェー、インドと同様、今後数十年のうちにガソリン車の使用を段階的に停止すると宣言した。エクソンやBP、石油輸出国機構(OPEC)でさえ、2040年までEV需要が急増すると予想している。また、もっとも強気な市場予測は、2040年までにEVが世界の自動車販売全体の3割以上を占めるとみている。

自動車メーカーは動向をうかがっている。世界全体では、2025年ごろまでにさらに1300万台のEVを走らせるため、1500億ドル(約16.7兆円)が投資される。

EV市場で米国は強みを発揮しているが、首位を走るのは中国だ。2017年、世界のEV生産の半分は中国で行われた。同国のEV需要は2022年までに3倍に増加すると予想されている。中国政府はEV生産・販売を促進する手厚い優遇措置を提供している。さらに重要なのは、自国に拠点を構えることを検討している海外自動車メーカーに対して寛大な条件を提示していることだ。

これは功を奏している。フォードやゼネラル・モーターズ(GM)のような米企業は、中国のEV市場に大規模な投資を行うと発表している。また、フォードの会長は「中国がEV開発で世界をリードする」と公言している。

米国は2017年、EV世界生産の17%を占め、中国に次いで2位だった。国内政策がEV市場の成長を著しく促進する一方で、消費者需要の高まりもある。全米自動車協会(AAA)の最近のデータによると、米国人ドライバーの5人に1人は、車買い替えの際にはEVにする可能性が高いという。また、EV運転時にバッテリーチャージ切れを心配する人も減っていることが明らかとなった。

フォード、GM、トヨタはそれに応じて生産体制を変化させており、世界的なEVシフトの大きな流れを示している。しかしEV生産の上位20社のうち9社は本社を中国に構える。一方、米国に本社を置くのはわずか3社にすぎない。中国は世界のEV投資の4割を占めており、2040年まで同市場をリードすると予想されている。

中国が変わりゆく自動車セクターを支配する可能性は重大な意味を持つ。自動車は米国内総生産(GDP)の約3%を占め、他の製造業のどれよりも雇用数が多い。これらの仕事やマーケットシェアを他国に奪われる事態は、特に自動車産業がさかんな中西部や南東部では、笑い事では済まされない。ミシガン、オハイオ、テネシー州では、自動車関連の仕事は州全体の労働力の1割、あるいはそれ以上を占める。

このように業界が活気づき、巨額の投資が行われる重大な局面で燃費基準を凍結するというのは、成長するEV市場を中国に譲り渡し、米自動車メーカーに規制上の要らぬ心配を与えることになる。

トランプ政権は現行基準を維持すべきだ。さもなければ、EVが支配する未来に、過去の車をつくることを自国の自動車メーカーに奨励する危険を冒すことになる。

*筆者は米コロンビア大学国際公共政策大学院グローバル・エナジー・ポリシー・センターのフェロー。著書に「Risky Business: The Economic Risks of Climate Change in the United States」がある。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

 8月2日、米国のトランプ政権は自動車燃費基準を緩和することを提案し、輸送革新を大いに後退させている。写真は、米電気自動車(EV)大手テスラのモデル3。カリフォルニア州で6月撮影(2018年 ロイター/Stephen Lam)

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below