August 3, 2016 / 4:26 AM / 4 years ago

コラム:米国がプーチン氏を「悪党」呼ばわりする本当の理由

[1日 ロイター] - 米国の政治演説を1980年代までさかのぼると、ほぼ確実に言えることがある。米政府高官が誰かを「悪党」呼ばわりするときは、問題が起きる前兆だということだ。悪党は、アメリカ例外主義論者が使う表現で最も安全な人気ワードなのだ。

 8月1日、米国の政治演説を1980年代までさかのぼると、ほぼ確実に言えることがある。米政府高官が誰かを「悪党」呼ばわりするときは、問題が起きる前兆だということだ。写真はロシアのプーチン大統領。スロベニアで7月撮影(2016年 ロイター/Srdjan Zivulovic)

ロシアのプーチン大統領をマイクの前でこう呼びたい人はたくさんいるだろう。オバマ米大統領はプーチン大統領のことを「悪党」と呼んだ。かつて米大統領選の共和党候補指名争いに名乗りを上げていたルビオ上院議員はそれに加え、「ギャング」と呼んだ。共和党のライアン下院議長の報道官は、プーチン氏と同氏率いる国家全体をあげつらい、形容詞を付け足して「腹黒い悪党に率いられているロシアは世界の脅威となっている」と表現した。

プーチン大統領にこのような言葉を投げつけることは、ロシア政府のハッカーが米民主党全国委員会のコンピューターに侵入したとされる証拠が弱いことと関係する一方、その背景にはより大きな問題が隠されている可能性がある。

「悪党」という言葉は、犬笛のようなものに思える。その音は、米国民やメディアにとって新たな戦いへと闘志を燃やすシグナルとなるのだ。

以下に例をいくつか挙げよう。

ケリー米国務長官は、シリアのアサド大統領を「悪党で人殺し」と表現。また、「ダーイシュ(イスラム国の別称)は実際のところ、人殺しや、誘拐犯、犯罪者、悪党の寄せ集めにすぎない」と語った。

ジョージ・W・ブッシュ大統領は当時、国際武装組織アルカイダについて、「このような悪党集団に油断したら、再び痛い目に遭う」と語った。ブッシュ氏はまた、イラクのフセイン大統領を悪党だと考えていた。

米大統領選で民主党候補指名を争ったサンダース上院議員は、リビア元最高指導者の故カダフィ大佐について、「ほら、誰もがカダフィは悪党で人殺しだと理解している」と発言した。

しかし、なぜプーチン大統領なのか。しかもなぜ、今なのか。恐らくわれわれが目にしているのは、米国が果てしない戦争状態に再び突入する準備段階なのだろう。

ソビエト連邦が崩壊し、冷戦が終結してから(フランシス・フクヤマ氏はこれを「歴史の終わり」と呼んだ)、米国にとって抑え込む敵は世界に存在しなくなった。武器調達を促進したり、世界中に数多くの基地を展開する永続的で巨大な軍事力を正当化したり、あるいは、大統領をスーパーヒーローに変身させるため戦いを仕掛ける相手になるような悪い大物はいない。

米同時多発攻撃が起きた後、悪者は「テロリスト」になった。ジョージ・W・ブッシュ政権はそれを改良し、イラクのフセイン大統領(当時)を大量破壊兵器の脅威と見なし、またイランと北朝鮮については「悪の枢軸」と呼んだ。

フセイン政権は崩壊し、イラク戦争も結局、国民からの支持を得られなくなった。アルカイダの指導者だったウサマ・ビンラディン容疑者は米国に再び攻撃を仕掛けてはこなかった。アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンは、焦点を見失ったように見える15年に及ぶ戦いのなかで弱体化した。イランと北朝鮮は大いに騒がしいが、米国に対し実際に害を及ぼす能力があるようには決して見えない。

米国は、リビアのカダフィ大佐、シリアのアサド大統領、過激派組織「イスラム国」といった他のあらゆるものに対しては、終わりなき戦争に値する世界の敵として扱おうと努めてきたが、中東は総じて泥沼と化してしまった。米国は勝者が好きだ。それが見せかけであったとしても、だ。

新政権の誕生に先駆けて、米国は最大の敵、映画「007」シリーズに登場するジェームズ・ボンドの敵役のようなイメージの人物をまさに必要としている。できれば、核兵器を保有し、それを振りかざしはするが、決して使わないような人物だ。

そこでプーチン大統領の登場だ。

過去の冷戦によって、米国民は、ロシアを再び悪の帝国と見なす心構えがすでに十分できている。プーチン大統領もそのように見える。ロシアはシリア内戦に関与しているため、そこには継続性のようなものが感じられる。ロシアとの新たな冷戦で、米国はより高額な軍用装備品を購入するだけでなく、バルト諸国のような欧州の地域に新たに軍を駐屯させる必要に迫られるだろう。それはまた、テロとの戦いにおける自らの役割について混乱がみられる北大西洋条約機構(NATO)に新たな活気を与えることになるかもしれない。

政治家がイスラム教徒の脅威を絶えず叫び続けることにはマイナス面があることも証明された。それは多くのイスラム教徒を刺激し、恐らく急進化へと向かわせるものだ。さらには、米国にはイスラム教徒の有権者も存在し、彼らに敬意を払う人々もいる。米大統領選の民主党全国大会で、戦死したイスラム系兵士の両親が行った感動的なスピーチはその証しだ。

一方、プーチン大統領をいいやつだと考えるのは一握りの極左の人だけだ。スピーチの中でプーチン氏を手荒く扱っても、同氏が実際に米国に戦争を仕掛けてくるリスクはない。米国の民主的プロセスに干渉したと同氏を非難したとしても、罰せられることもない。

「悪党プーチン」は政治的、軍事的、産業的な側面が複雑に絡み合った夢の候補だ。新政権の外交政策において、プーチン氏が大いに重用されることが予想される。

*筆者は、米国務省に24年間勤務。著書にイラク再建の失策を取り上げた「We Meant Well: How I Helped Lose the Battle for the Hearts and Minds of the Iraqi People(原題)」などがある。最新刊は「Ghosts of Tom Joad: A Story of the #99 Percent(原題)」。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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