May 16, 2018 / 11:14 PM / 9 days ago

コラム:米国の核合意離脱、プーチン氏に思わぬ「漁夫の利」

David A. Andelman

 5月15日、イラン核合意から離脱するというトランプ米大統領の決断は、ロシア大統領府に予期せぬボーナスをもたらした。写真はロシアのプーチン大統領。モスクワで4月代表撮影(2018年 ロイター)

[15日 ロイター] - イラン核合意から離脱するというトランプ米大統領の決断は、ロシア大統領府(クレムリン)に予期せぬボーナスをもたらした。

米大統領によるこの決定は、ロシアのプーチン大統領が、制裁で被った損失を原油価格の高騰で埋め合わせることが可能となることを意味する。原油は、プーチン氏にとって、ロシア経済と政権維持の土台である。

確かにまだプーチン氏は、米議会が可決しトランプ氏が消極的ながらも署名した対ロシア制裁から解放されてはいない。それでも、トランプ氏が米国内で大混乱を巻き起こし、西側同盟国を分断させているという望ましい状況を非常に喜んでいるに違いない。

これまでに起きたことをおさらいしておこう。トランプ氏は米国を環太平洋連携協定(TPP)から離脱させ、事実上中国の力を押し上げた。そして米国は、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」とイラン核合意の両方から離脱した唯一の国となり、最も緊密な同盟諸国に対し、貿易を停滞させるような関税を課すと脅している。

また、米大統領選へのロシア介入疑惑を巡る捜査で米国内が混乱に陥る一方、クレムリンの専門家たちは、世界のどこでも通用する戦術に磨きをかけている。

だが現実的に、最も明らかで直接的な影響は数字に現れている。特に、科された制裁を相殺する「棚からぼた餅」をロシアは手にした。ロシア経済の屋台骨は原油であり、プーチン政権を支えているのはその価格である。1年前の北海ブレント先物は1バレル当たり46─51ドルで推移していた。米国がロシア経済への制裁を強化する中、同価格は15日までに約60%増の78ドルにまで高騰した。

価格上昇分のうち約10ドルは、この2カ月で上昇したものだ。米国がイラン核合意から離脱し、その結果として、イランとの取引に科される制裁による影響で発生するであろうプレミアムを市場が織り込み始めた時期である。

日量1100万バレル近く生産しているロシアは、1日当たり1億1000万ドル、年間にして400億ドルの追加収入を得ることになる。

制裁がロシア経済にじわじわと損失を与えたことは間違いない。少数の新興財閥が痛手を受けたことは確かだろう。4月はロシア株にとって良い月とは言えず、主要指数が1日で11.4%下落した日もあった。米経済誌フォーブスによると、ロシアの富豪トップ50人が失った富は合計で120億ドルに及んだ。

言うまでもなく、これは帳簿上の話だ。実際に保有株を売却して損を確定させた新興財閥はほとんどないと見られる。実際のところ、ロシア株投資家は過去1カ月、その忍耐に対する見返りを相当得ることとなった。RTS指数は1085(4月16日)から1194(5月11日)と、10%超上昇した。

同時に、プーチン氏は原油の輸出先を多様化するなどリスクを分散し始めた。1月には、2本目となる中国へのパイプラインを開通。両国をつなぐパイプラインシステムを通じて、中国への輸出が3000万トンに倍増する可能性もある。

米制裁によるロシア経済へのマクロ的影響を正確に把握することが困難なのは確かだ。だが大手多国籍企業の数社、とりわけロシアの3大銀行(スベルバンク、VTB、ガスプロムバンク)と、エネルギー企業3社(ロスネフチ、ノバテク、トランスネフチ)のバランスシートは改善し、利益を得たようだ。このエネルギー3社は債務を大幅に減らし、同大手銀3行は外部資金への依存がかつてないほど低下している。ロシア中央銀行のデータによると、同国企業の対外債務は2016年は111億ドル、昨年は152億ドル減少した。

さらに言えば、西側の企業は今でもロシアでのビジネスはもうかり、実に魅力的だと考えている。ドイツの対ロシア直接投資は昨年の第1─第3・四半期、10億8000万ドルに跳ね上がり、2016年通年の投資額と比べ4倍増を記録。独自動車大手ダイムラーはモスクワ近郊に、総工費2億5000万ユーロの組立工場を建設した。

フランスの直接投資も昨年、前年の4億3800万ドルから5億2400万ドルに増加した。こうした背景には、ロシアへの投資環境の改善があるかもしれない。ビジネスのしやすさを評価した世界銀行の今年の報告書によると、ロシアは190カ国中35位に急浮上している。2014年は92位だった。

マクロ的に見ても、過去1年の原油価格上昇は、制裁の影響を埋め合わせる以上の効果があるようだ。ロイターが先週報じたように、ロシアの財政収支は今年、2011年以降で初めて黒字を見込んでいる。その主な要因は、歳入の40%を占める原油の価格が65%上昇したことにある。

確かに、イランにさらに厳しい制裁が科されることへの懸念だけが原油価格に影響する唯一の要因ではない。ベネズエラの原油生産減少のような要因も影響している。とはいえ、トランプ氏が下した核合意離脱の決定は、一方的な「アメリカ・ファースト」主義の限界から恩恵を受けているロシアの大統領に、思いがけないが、まんざらでもない新たなプレゼントを贈ることになるのだ。

*筆者は、米フォーダム大学法科大学院国家安全保障センターの客員研究院。著書に「A Shattered Peace: Versailles 1919 and the Price We Pay Today」がある。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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 5月15日、イラン核合意から離脱するというトランプ米大統領の決断は、ロシア大統領府に予期せぬボーナスをもたらした。写真は、言葉を交わすロシアのプーチン大統領(左)とトランプ米大統領(右)。ベトナムのダナンで昨年11月撮影(2018年 ロイター/Jorge Silva)

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