February 18, 2018 / 12:41 AM / 7 months ago

コラム:シリア内戦の「悪夢」にはまる米国

[14日 ロイター] - 昨年シリアにおいて、たった1個の米海兵隊砲兵大隊が5カ月間で放った砲弾の数は、ベトナム戦争以降でどの米軍部隊が発射したよりも多かった。

 2月14日、シリア内戦において、トランプ政権はイスラム国の打倒以外に何を成し遂げたいのか自覚していないように見える。シリア・ラッカで昨年8月撮影(2018年 ロイター/Zohra Bensemra)

米海兵隊の新聞が今月明らかにしたこの統計は、実態が見えにくいシリア内戦がいかに依然として暴力に満ち、制御不能で、複雑かを改めて思い出させるものだった。

ロシアの支援を受けたシリアのアサド大統領は、自身の立場を確かなものとしており、もはや生き残りを賭けた戦いではない。だがシリア政府は国土の大半の支配を今なお失ったままであり、内戦に関与する部外者はその深みに一段とはまっている。

最近のシリア軍に対するイスラエルの大規模な空爆と、クルド人部隊へのトルコによる相次ぐ攻撃は、状況がいかに緊迫しているかを物語っている。シリア内戦が激化してからこの7年近くの間、イスラエルとトルコは内戦に直接関与することをおおむね避けてきた。だが現在、両国は自国の利益のために手を汚すことは避けられないとの結論を下したようだ。

米国にとって、これは厄介な状況だ。米国政府は、今世紀で最も凄惨(せいさん)な戦いとなっているシリア内戦に巻き込まれないようにするため最善を尽くしてきた。過激派組織「イスラム国(IS)」が急速に支配を拡大したため、米国は方針転換を余儀なくされたものの、イスラム国の打倒以外に、トランプ政権は何を成し遂げたいのか自覚していないように見える。

米国はクルド人主体のシリア民主軍(SDF)が、広い支配地域を獲得するのを支援してきた。だが、米国の多大な支援なくして、SDFはその地域をトルコやシリア政府側の勢力から守り続けることはできないだろう。現在、米国には明確に定義された任務がないまま、直接関与することを余儀なくされている。米主導の有志連合は7日、SDFに攻撃を仕掛けたとされるシリア政権側の部隊に空爆した。

報道によれば、この空爆で約100人が死亡したとされる。米国は空爆の理由について、米軍部隊が同行していたSDF部隊の陣地近くで一方的に攻撃を受けたためだとしている。この死亡者数が正確なら、米国とシリア政府の間の戦闘ではこれまでで最悪となる。

この翌日、マティス米国防長官は空爆について「自衛行為」と表現した。これに対し、米民主党のティム・ケイン上院議員(バージニア州選出)は懸念を表明し、トランプ政権は議会を通さずにシリア内戦の泥沼に意図的にはまろうとしていると非難した。

しかし、それは言い過ぎかもしれない。米国の行動に計画性があるようにはあまり見えないからだ。他の主な当事者の多くと同様、米国にとっての問題は、影響力を維持するという一縷(いちる)の望みのためだけに内戦の泥沼にはまっているということだ。

だが米国防総省が、シリア情勢をできるだけ公にはしたくないという姿勢でいることに変わりはない。

昨年12月、同省はシリアに約2000人の米軍兵士がいることを明らかにした。これは、その前に公表された数字の4倍である。だが今回の2000人という数は、IS掃討作戦が本格化した年初よりも減少しているとしている。さらなる撤退が予定されているというが、それが可能かどうかは全く別の問題だ。

アサド政権の主な支援国であるロシアとイラン、そして関与を強めるトルコにとっても、同じことが言える。

 2月14日、シリア内戦において、トランプ政権はイスラム国の打倒以外に何を成し遂げたいのか自覚していないように見える。写真右から2人目は、クルド人兵士と歩く米軍の司令官。シリア・マリキヤで昨年4月撮影(2018年 ロイター/Rodi Said)

一度は権力を完全に失いかけたアサド政権は明らかに、取り戻せる領土を全て回復しようとしている。

外部から政権交代の圧力が再燃することはもはやないとみるシリア軍は、反政府勢力が支配する地域への攻撃をひそかに激化させている。攻撃には化学兵器が使用されているとの報道もある。

そのような残虐行為は、主に首都ダマスカス周辺にある反体制派の最後の砦(とりで)を鎮圧するには十分かもしれないが、シリア全体の治安を回復することはできないだろう。ロシアのプーチン大統領は昨年12月、同地域におけるロシア軍事作戦の勝利を事実上宣言し、一部の兵士を帰還させると約束した。

それが本当に実現するかどうかについては、専門家の意見が割れている。だがロシア軍のプレゼンスが縮小すれば、イランとつながりがある勢力の活動増加を招くことになる。イランはロシアが最初に主導権を握ったことを快く思っておらず、自国と自国の影響下に置くレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの影響力を維持したがっている。

言うまでもなく、イスラエルの反感は避けられない。イスラエルによる最近の空爆は、シリアの領土からイランのものと思われるドローンがイスラエル領空を侵犯したのを受けて実施された。そして空爆は、イスラエルのF16戦闘機がシリアの対空射撃を受けて墜落してから激しさを増した。

このようにほとんど偶発的なエスカレーションが起きやすくなっているため、米軍が、シリア政府やロシアだけでなく、北大西洋条約機構(NATO)同盟国のトルコとも衝突するリスクがさらに高まる可能性がある。少なくともロシア人2人が米国の空爆により死亡した可能性が今週明らかになったが、このことは事態がいかに混乱し危険を増す可能性があるかを示している。

トルコのエルドアン政権にとって、米国が支援するクルド人勢力によるIS掃討作戦の成功は、全く異なる種類の災難を意味している。クルド人主体のSDFと有志連合は現在、米インディアナ州とほぼ同じ規模の地域を支配下に置いている。

米国は、シリアにおける活動の中心がテロ対策であることに変わりはないとする一方で、戦略的に重要なマンビジのようなSDF支配地域の主要拠点から撤退しないとも明言している。シリアのクルド人自治区と協力して国境警備隊を創設するとも表明しており、単にトルコをさらに怒らせる結果となった。

今後、米国政府は実際に何が達成できるか、答えを見つけ出さなくてはならないだろう。現在SDFと共に支配する地域を維持することは可能だろうが、シリアとトルコの圧力に直面して軍備増強を強いられる可能性がある。

ロシア、イラン、トルコと協力して和平合意を進めることにもメリットがあるかもしれない。だが短期的に見れば、そうした交渉を真剣に検討するには、全ての関係者が自国の軍事力を試すことに躍起になり過ぎているように見える。

事態がすぐに改善することは期待しない方がいい。シリアの長い悪夢は終わるどころか、複雑化する一方だろう。

*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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