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コラム

コラム:自由貿易協定で膨らむ米赤字、TPPは本当に必要か

[17日 ロイター] - オバマ米大統領は環太平洋連携協定(TPP)妥結に向け、大統領に貿易促進権限(TPA、いわゆるファストトラック権限)を付与するよう議会に要請している。この権限が大統領に付与されれば、議会は大統領がまとめた通商協定について「賛成票」か「反対票」を投じるのみで、協定に修正を加えることはできない。

 2月17日、オバマ米大統領は環太平洋連携協定(TPP)妥結に向け、大統領に貿易促進権限を付与するよう議会に要請している。写真は2013年、米ワシントンの連邦議会議事堂のドーム(2015年 ロイター/Jonathan Ernst)

オバマ大統領は、TPP交渉で米国に最も有利な条件を引き出す上で、権限は不可欠だと主張する。

オバマ大統領は2008年の大統領選の際、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を行い、改善を図ると約束した。しかし大統領は今、この欠点の多い貿易モデルを他国にも広げようとしているようだ。

NAFTAから21年、2011年の米韓自由貿易協定(FTA)から4年が経つが、この貿易モデルが大半の米国の企業、農業、労働者にとってマイナスの影響をもたらしていることを示すデータは数多い。

自由貿易協定の導入以来、協定相手国に対する米貿易赤字は430%超増加。同じ時期、協定を結んでいない国との米貿易赤字は11%減少した。ファストトラック権限がNAFTA締結や、米国の世界貿易機関(WTO)加盟に活用されて以来、全体の米貿易赤字(モノの貿易)は年間2180億ドルから9120億ドルへと4倍超に膨らんだ。

米国は今では、自由貿易の相手国20カ国とのモノの貿易赤字が、年間1770億ドルに達している。ただし、過去10年間の米国の輸出の伸びを見ると、自由貿易協定を結んでいない国に対する輸出の伸びのほうが、協定相手国に対する輸出の伸びよりも24%高い。

NAFTAの下、カナダとメキシコへの輸出における米中小企業のシェアは低下した。もしシェアを失わなかったとすれば、米中小企業のメキシコとカナダへの輸出は、今よりも年間135億ドル多いはずだ。

NAFTAやそれ以降の自由貿易協定がファストトラック権限を通じて可決されて以来、米国では500万人分(4人に1人)の製造業の職が失われた。自由貿易協定の影響で、大学の学位を持たない米労働者の63%にとって、就くことのできる職種や賃金が根本的に変化した。

米労働統計局によると、一度職を失って2014年に再就職した製造業の労働者のうち、5人に3人は賃金が減少。3分の1は、賃金が20%以上も減少した。職を失った製造業の労働者が、接客や小売りなどのサービス業に進出し始めた結果、サービス業の実質賃金も減少した。

ファストトラック権限が誕生した1974年以来、米労働者の生産性が倍になる半面、実質ベースの賃金はほとんど増加していない。

米労働者がどうやって、最低時給が平均58セントに過ぎないベトナムに対抗するのか、という点については、ワシントンの通商担当者は、TPPの労働に関する条項を隠れ蓑にしている。しかしこの労働条項とは、ブッシュ大統領(当時)がコロンビア、パナマ、ペルーとの自由貿易協定に盛り込んだ労働基準の単なる焼き直しに過ぎない。さらに、会計検査院(GAO)が公表した新たな報告書によれば、労働規定があっても、コロンビアなどの国々の労働条件に改善は見られない。

自由貿易協定により消費財は値下がりしたが、中間層の賃金減少分を補うには不十分。輸入品の価格下落を考慮したとしても、大学の学位を持たない米労働者の賃金はおよそ12.2%減少した。つまり、米国の製造業、サービス業への消費者の需要が減退したということになる。

オバマ政権の通商担当者は、直近の自由貿易協定ではこうした弊害は起こらないとして、過去の話だと一蹴するかもしれない。

しかし、TPPのたたき台になっている、2011年の韓国との自由貿易協定では、韓国に対する米国の貿易赤字は最初の2年に50%急増した。これは米国で5万人分の職が失われたことを意味する。中小企業による韓国への輸出も14%減少した。米国の対韓貿易赤字(モノの貿易)は2014年10月に30億ドルに達し、過去最大を記録した。

最近の通商の状況が、米国の所得格差拡大につながっていることについては、エコノミストもほぼ一致している。見解が分かれているのは、どの程度が通商の責任なのかという点だけだ。ピーターソン国際経済研究所は、格差拡大のうち39%が通商に起因する部分としている。

所得格差と戦い、中間層の雇用創出に努めることを宣言しているオバマ米大統領が、TPPを推進しようとしているのは、おかしな話だ。

米国商業会議所が、オバマ大統領の通商政策を支持していることは、サイプライズではない。商業会議所は主に、大規模な国際企業の利益を代言しており、一般のメンバーの利益は無視しているからだ。

しかし、過去に自由貿易協定を支持していた著名エコノミストや議員が、今やTPP反対に転じているのは興味深い。当時のクリントン政権下でNAFTAを支持したライシュ元労働長官も反対を公言。ポール・クルーグマン氏、ジェフリー・サックス氏、ジョセフ・スティグリッツ氏など、自由貿易派のエコノミストらも、反対に転じつつある。

バイデン副大統領の元チーフエコノミスト、ジャレド・バーンスタイン氏は、TPPに為替操作を禁じる条項を盛り込まなければ、所得格差が一層拡大し米企業や農業が損なわれると主張する。230人の下院議員、60人の上院議員が、為替操作禁止を盛り込むことを要求しているが、ホワイトハウスはこの問題を取り上げることすら拒否している。

議会でファストトラック権限付与への反対が強いも当然だ。

中間層重視を強調し、それを自身のレガシーとしようとしているオバマ米大統領が、どうして中間層に直接的な打撃を与える貿易協定を推進するのか不可解だ。ファストトラック権限が議会で否決されてTPPがとん挫、大統領のレガシーが守られることになれば、朗報なのだが。

*レオ・ヒンドレー・ジュニア氏は、未公開株投資ファンド、インターメディア・パートナーズのマネジングパートナー。かつてのAT&Tブロードバンドで、最高経営責任者(CEO)を務めた経歴を持つ。

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