April 6, 2018 / 11:17 AM / 16 days ago

コラム:賃上げに慎重姿勢の日本企業、低生産性と併存するリスク

田巻 一彦

 4月6日、期待が大きかった今年の春闘だが、結果は昨年の上げ幅を0.1%ポイント上回る程度にとどまり、個人消費を大幅に押し上げる力はないとみた方がよさそうだ。都内の日銀本店で2017年10月撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai/File Photo)

[東京 6日 ロイター] - 期待が大きかった今年の春闘だが、結果は昨年の上げ幅を0.1%ポイント上回る程度にとどまり、個人消費を大幅に押し上げる力はないとみた方がよさそうだ。デフレ時代に培われた経営者の「慎重」なスタンスは、今回も大きな変化を見せなかったと言える。

ドイツの金属産業労組(IGメタル)がフォルクスワーゲン(VOWG_p.DE)と4.3%の賃上げで合意したのとは対照的で、固定費増を嫌う日本の経営者の心理は、大胆な経営改革を回避しがちな土壌となっているのではないか。

人手不足が供給制約の色彩を強めつつある日本経済において、リスクに憶病な「退嬰(たいえい)的」経営者が増えれば、低賃上げと低生産性が併存し、潜在成長率の引き上げが望めない日本経済となるだろう。

<今年の賃上げ率2.17%、昨年から0.12%拡大>

今年の春闘は、大企業・製造業を中心に昨年実績を上回る回答が続出した。たとえば、日産自動車(7201.T)が昨年の7500円から9000円(平均賃金改定原資)、マツダ(7261.T)が1100円から1400円、パナソニック(6752.T)が1000円から1500円と昨年を上回る賃上げで妥結した。

だが、連合がまとめた3月23日現在の回答(1216組合、179万5413人が対象)では、加重平均で2.17%・6508円(定期昇給相当込みの賃上げ計)と前年と同じ時期の2.05%・6224円を0.12%ポイント上回る結果にとどまっている。

複数の民間エコノミストは、この程度の小幅な賃上げ率の上昇では、物価を一段と押し上げる力は弱いとの見通しを示している。

ただ、2%の賃上げは、足元の物価水準を考えれば、実質購買力を1%程度、押し上げる可能性がある。

とはいえ、全ての財・サービスが平均的に売れ出すのではなく、日用品を含めた生活必需品に対しては厳しい価格志向が働き、趣味や余暇などの選択的消費が伸びると予想される。

実際、一部のスーパーや大型小売店では、日用品の値下げを競う動きも見られ、物価上昇の足を引っ張る構図も見える。

ドル/円JPY=EBSは、年初に113円台を付けたが、1─3月期は円高が進行。輸入食料品の値下げをしやすい環境になっていることも、流通業における価格引き下げの背景にありそうだ。

<IGメタルは4.3%賃上げ、日本企業引き離す>

所得増━個人消費増━企業の売り上げ増━設備投資増という前向きの循環メカニズムが本格的に回り出し、その反射的な効果として、企業の値上げが通りやすくなり、物価上昇率が高まるという「好循環」が表れるには、やはりスタート時点の所得増のパワーが弱いと言えるのではないか。

日本企業と同様にドル安/ユーロ高に直面してきたドイツでは、別の風景が展開されている。IGメタルがフォルクスワーゲンと合意に達した賃上げ率は4.3%。そのうえフルタイム被用者が19年から最大2年間、週労働時間を35時間から28時間まで短縮する権利を得ることになった。

日本の経営者は、すぐに「固定費増は経営基盤を揺るがしかねない」と言いたがるが、高い賃上げを可能にする生産性の引き上げを待ったなしでやり遂げる必要性を経営者に迫るという「効果」もある。

だが、大幅な賃上げを拒む今の日本の経営者は、チャレンジしていくという積極性に欠け、コスト圧縮を最大の利益源とする、保守的というよりも退嬰的な心理を形成してきたのではないか。

<鈍い生産性引き上げの動き>

ドイツ車の製造コストには4%の賃上げが含まれ、一方、日本車のコストには2%の賃上げ分しか含まれないとすると、2%分が日本の経営者にとって「ゲタ」となる。

しかし、現実にその優位性が経営上の計数に示されているかと言えば、はなはだ疑問だ。

言い換えれば、賃上げ率の差・2%分の安逸を日本の経営者は享受しつつ、生産性の引き上げを促す投資に経営資源を集中させず、低賃上げと低生産性が併存する「構図」を作り上げているのではないか。

日本経済は今、空前の人手不足に直面。一部の製造設備は、中小企業のニーズを満たすことができず、それが供給力の増加を阻み、需要があるのに供給が間に合わないという現象が各所でみられるようになってきた。

ロボットや人工知能(AI)などを駆使した人手を介さない自動生産ラインの増加がもっと顕著に出てきても不思議ではないが、今のところ、米独などに後れを取っている。

低賃上げと低生産性の並立現象を解消するには、市場機能を活用するのが早道ではないかと考える。だが、マーケットにあふれるリポートの中で、生産性の高い企業ランキングとか生産性ワースト10リストなどは、見た記憶がない。

生産性の引き上げは、賃上げ原資を生み出し、最終的には日本経済の潜在成長率の引き上げにつながる。経営者のアニマルスピリッツに火が着き、ドイツ並みの賃上げが現実になるようなら、日本経済を覆う閉そく感を打破するきっかけになるだろう。

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