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コラム

コラム:「現金廃止論」浮上、マネーはどこに向かうのか

[25日 ロイター] - 好むと好まざるとにかかわらず、高額紙幣廃止論は他の市場に影響を与えるだろう。投資家も悪党も、価値の便利な保存先を探し求めているからだ。

 2月25日、好むと好まざるとにかかわらず、高額紙幣廃止論は他の市場に影響を与えるだろう。投資家も悪党も、価値の便利な保存先を探し求めているからだ。北京で1月撮影(2016年 ロイター/Jason Lee)

端的に言えば、高額紙幣で現金を得ることが難しくなるなら、投資家は合法的な他の代替手段を求めるようになり、資金は芸術品やワイン、貴金属へと流れていく。

世界の中央銀行の間で、高額紙幣の廃止を求める声がにわかに高まっている。その代表と言えるのが、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁で、同総裁は15日、犯罪に使われるケースが多いことを理由に、500ユーロ紙幣の廃止を検討していることを明らかにした。

その翌日には、サマーズ元財務長官が、同じく犯罪での使用を理由に挙げ、新たな100ドル紙幣の発行停止を呼びかけた。

麻薬取引から資金洗浄(マネーロンダリング)、ありがちな脱税に至るまで、好ましくないさまざまな目的のなかで中心的な役割を果たしている高額紙幣を廃止するという議論は確かに興味深い。さらに言えば、サマーズ氏はこの見方に否定的だが、高額紙幣を廃止することと、マイナス金利政策を順調に機能させることには関連がある。

サマーズ氏や他の人たちは、現金を制限しなくても、引き出し手数料を導入すればマイナス金利政策は効果をもたらすと主張するが、銀行に現金を預けるのに金を払わなければならないならば、自分で現金を保管するという行動に関連性があることに変わりはない。

マットレスの(下に隠して)厚みを高くするのではなく、景気を刺激したいと考える中銀当局者にとって、これは問題である。

日銀が先月マイナス金利を導入した日本では、金庫の売り上げが1年前と比べて倍増し、1万円紙幣は全紙幣の92%を占めている。一方、スイスの当局者は、2011年以降で1000スイスフラン紙幣の流通が約50%増加したが、同紙幣を廃止する計画はないとしている。

<SWAG>

確かに、マイナス金利政策が続いて拡大するかどうか、さらに現金の持ち運びを難しくさせ、流動性を悪くする試みが成功するかは定かではない。

しかしそれを同時に行うなら、これまで基本となる伝統的に安全資産だった現金の保有(それがどのようなカネであろうと)に応じたペナルティーを支払うことを、預金者が簡単に受け入れるとは期待しない方がいいだろう。

「投資家たちはこうした現金廃止論から身を守るために、代わりとなるアセットクラスへの移行を一段と余儀なくされている。はっきり言えば、代わりとなるような安全な資産運用先として効果的に機能するアセットクラスはほとんどないに等しい」と、以前ヘッジファンドのムーア・キャピタルに勤めていたジョー・ローズマン氏は指摘。

ローズマン氏は、著書「SWAG」で異例な金融政策が投資家を銀やワイン、芸術や金(これらの頭文字からSWAG)に向かわせると主張している。

言うまでもなく、これは中銀当局者が意図することではない。量的緩和策の当初の主な目的、そして現在のマイナス金利導入の目的は、資金を金融資産に向かわせ、安い金利で借り入れをしやすくし、願わくば企業が投資拡大することだ。

しかしながら、われわれがすでに目にしているように、マイナス金利や超低金利によって、投資家は価値が持続することを期待して、資金を芸術品や他の資産に移行している。

タンス預金をするにも現金入手が難しくなり、他のすべての条件が同じであるなら、それが時計であろうと、宝石であろうと、期限のないプリペイド式クレジットカードやギフトカードであろうと、このような傾向は拡大するとみられる。全くもって奇妙な投資状況である。

もちろん、貴金属や芸術のような資産のリスク特性は現金のそれとは大きく異なる。それに現在、人々が合法的に隠し持っているマネーの多くがそのような資産に取って代わると考えるのはばかげている。

投資家にとって、現金がもつ従来の価値は2つある。1つ目は、自国通貨として額面通りの価値が維持されるはずであること。2つ目、機会があれば、他の資産に変えられるというオプション価値を備えていることだ。

1つ目の価値は、保有費用が現在高まっている分だけマイナス金利のあおりを食っている。また、インフレに再び火がついたら制御不能となるリスクもある。これは実物資産が支持されるもう1つの問題でもある。

芸術あるいはワイン、また、それらほどではないが貴金属も、現金同様のオプション価値を持たない。なぜなら売買コストは通常高くなりがちだからだ。

いずれにせよ現金が課税される経済で、現金を論じるならこうったものだろう。「次に何が起きるかはほとんど見当もつかない」

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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