[オーランド(米フロリダ州) 27日 ロイター] - 世界経済のグローバル化はピークを打ったのかもしれない。しかし世界規模の貿易は逆風が強まる中でもしぶとさを発揮しており、過去30年の流れは逆転が避けられないわけではなさそうだ。
新型コロナウイルスのパンデミックとロシアのウクライナ侵攻で世界の供給網が大混乱に陥ってからというもの、世界経済は過去30年ないし40年と比較して今後どの程度統合が進むか、という議論が熱を帯びている。
グローバル化の定義は曖昧だが、国際通貨基金(IMF)は「世界的な経済の統合拡大であり、特に国境を越えた財、サービス、資本の移動を通じてこうした動きが進むこと」としている。
多くの専門家はグローバル化が行き詰まったとみている。過去30年間は低インフレ、金融緩和、中国の世界経済への統合、比較的平和な時代背景の下、グローバル化が進んできた。
新型コロナのパンデミック、大衆迎合主義的な政治の台頭、欧州での戦争、軍事面や経済面、技術面における中国の強大化により、世界は「外」ではなく「内」向きの傾向がずっと強くなった。
しかしグローバル化は、その勢いが弱まったとはいえ、終焉を迎えたという報道はかなり誇張されたものではないだろうか。
昨年の世界貿易は名目ベースで過去最高水準に達したか、それに迫る勢いだった。40年ぶりのインフレ率に照らすと驚くべきことかもしれないが、数量ベースも過去最高水準だ。
世界銀行のデータによると、貿易が世界のGDPに占める割合は前年の57%から上昇し、輸出も前年から増えそうだ。そうなれば、一般に「グローバル化のピーク」とされる2008年に記録した過去最高の61%まであと一歩となる。
国連貿易開発会議(UNCTAD)のエコノミスト、アレッサンドロ・ニキータ氏は、世界貿易の構造は変化が避けられず、「脱グローバル化」あるいは「地域化」に向かうが、そのプロセスは産業や国によって「選択的」であり、5年から10年を要すると予想。「脱グローバル化はまだ到来していない。データには表れていない」と言う。ニキータ氏は昨年の世界貿易の伸び率は3%程度で、世界経済の成長率とほぼ同じペースだったと推計している。
<地域化>
世界貿易機関(WTO)のアナベル・ゴンザレス事務局次長によると、昨年の世界の財の貿易は過去最高を記録、米国と欧州の財の対中貿易も過去最高で、デジタルサービスの世界輸出は2005年から3倍以上に膨らんだ。ゴンザレス氏は昨年11月のイベントでサービスとデジタルベースの貿易を引き合いに、「貿易とグローバル化は衰退しているのではなく、変化しているのだ」と主張した。
ドル換算でみると世界の3大経済圏の貿易の流れはかつてないほど強力になっている。
昨年は中国とユーロ圏でいずれも輸出と輸入が過去最高を記録し、米国の対中貿易は輸出と輸入がいずれも記録的な水準に達している。
ただ、パンデミックやウクライナ戦争後に発生した世界的な供給網の混乱で各国・地域はエネルギー、食糧、資源、技術などの分野で「自給自足」を拡大する必要に迫られている。
バイデン米政権はインフレ抑制法や半導体業界支援法など、グリーンエネルギー、ハイテク、半導体産業向けに、補助金や資金提供を伴う画期的な財政支援策を進めてきた。
中国は国内の半導体産業に対して1兆元(約20兆円)を超える支援策を打ち出しており、欧州が追随するのは間違いないだろう。
JPモルガンのエコノミストチームは、供給網の「地域化」が進行しており、中国による機械・輸送機器の輸入総額に占めるアジアの割合が2017年から19年にかけて65%から79%近くまで上昇したと指摘している。
<一極VS多極>
中国と米国の経済、貿易、金融の結びつきが徐々に緩んでいけば、こうした「地域化」の流れは今後も続くだろう。冷戦終結後30年にわたる米国の経済的な覇権が揺らいでいる今、中米関係は悪化している。
米国と中国という2つの「生態系」に分かれた世界経済、あるいはさらに多極化した世界では、おそらく全体的にインフレが起こりやすくなり、金利は構造的に上昇し、成長率は低下するだろうと専門家は論じている。
供給網を近場で完結させる「ニアショアリング」や同盟国・友好国で完結させる「フレンドショアリング」にはコストがかかり、物価や賃金がすでに上昇している時にはなおさらだ。
ドイツ銀行のアナリスト、ルーク・テンプルマン氏によると、過去30年間の景気拡大期は概して、その前の数十年間よりも長かった。これは1991年の旧ソ連崩壊以降、世界経済が基本的に一極集中の枠組みで動いてきたことが一因だ。
このデータはサンプル数が少ない上に、経済、金融、人口動態、政治的な要因が絡んでいるとテンプルマン氏は強調している。しかし今後数年間、脱グローバル化の動きが強まる中で、留意する価値がある点ではないだろうか。
テンプルマン氏は「心配なのは、自給自足が進むと、貿易相手国との妥協点を探るインセンティブが薄れることだ」と危惧している。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)