September 27, 2019 / 4:04 AM / 19 days ago

コラム:「金利の絶対水準」からドルに底堅さ、運用難の果てに=上野泰也氏

[東京 27日] - 最近の外為市場では、ドルの対円での下落余地が限られる相場展開となっている。米連邦準備理事会(FRB)の利下げが複数回行われても、それに伴って米国債の利回りが大幅に低下しても、あるいは米国株が「リスクオフ」でときどき急落しても、この地合いに変化がみられない。

9月27日、最近の外為市場では、ドルの対円での下落余地が限られる相場展開となっている。写真は米ドル紙幣。2018年2月撮影(2019年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)

「ドルは不思議なほど底堅い」という実感を抱いている市場関係者が、かなり広がりをみせているのではないか。   

8月1日にトランプ大統領が対中国制裁関税「第4弾」の発動を表明してから数週間続いた「リスクオフ」局面で、10年米国債利回りUS10YT=RRは2.0%台から1.4%台まで急低下。

単純計算で25ベーシスポイント幅の利下げ2回分を超えるほどの金利面のインパクトが、ドル相場に及んだと考えられる。月初に109円近辺で推移していたドル/円KPY=EBSは円高・ドル安方向に動き、5日には早くも一時105円台まで下がった。

ところが、その先は円高の歩みが鈍った。8月7日に105.50円を付ける場面があったが、ほどなく106円台に切り返す展開。東京市場が休場の12日に一時105.05円をつけたが、105円は割らずに105─106円台でしばらく推移した。

週明け26日の早朝に一時104.46円まで下がる場面があり、外為証拠金取引(FX)関連の損失確定売買かとも言われたが、ドル買いがふつふつと湧いてきて、その日のうちに106円近辺まであっさり戻した。テクニカル分析で101円台までは早いだろうという指摘が聞かれていたにもかかわらず、である。

筆者は、ドル・円相場について、1)米国の利下げを主因とする日米金利差縮小、2)「リスクオフ」材料が数多い上に米国のリセッション(景気後退局面)入り懸念が払しょくされない中での断続的な米国株急落がもたらす「リスクオフ」の2点を背景に、100円近辺まで円高・ドル安が進む場面があるだろうと、長く予想してきている。

だが、上記のような実際の市場の動きに直面すると、日本経済にとってクリティカルな100円ラインを試す場面がこの先あるとしても、その「滞空時間」はあまり長くないのではないかという見方をせざるを得なくなってきている。整理すると、その理由は以下の3つである。

1つ目は、投資マネーが「金利差」でなく、「金利の絶対水準」に着目する度合いが増していること。日銀やECB(欧州中央銀行)などがマイナス金利政策を採用したり、かつての高金利通貨国であるオーストラリアやニュージーランドの政策金利がわずか1.0%まで低下したりする中で、「プラスの金利」がまだ付いている債券が、グローバルに希少になりつつある。それらは当然、投資対象として選好されやすい。

「イールド・ハント」の下で、将来見込まれる経済成長率や物価上昇率を度外視する形で、言い換えると、ファンダメンタルズの側からは説明をつけにくい低い水準まで、米国の長期・超長期債は買い進まれている。それでもまだ、日欧などに比べれば、金利がたくさんついているように見えてしまう。

FRBが利下げに2回動き、この先にあと1回利下げを追加すると、日本と米国の金利差はおそらく縮小するが、そのことよりもドル金利の絶対水準の方に、世界の投資家の目は向きやすい。この金利の絶対水準を重視する雰囲気が、ドル売り・円買いの動きを鈍らせる方向に作用している。

2つ目の理由は、慢性的な「カネ余り」「円金利資産での運用難」の中で、100円に近づけば近づくほど、本邦勢からドルの押し目買いが出てきやすいこと。

日銀の異次元緩和は、エンドレスの様相をますます強めている。「物価安定の目標」である2%が高過ぎて、これを達成するメドが全く立たない。国債利回りは超長期ゾーンも含めて非常に低い水準となっており、3%台というまとまった運用利回りが期待できるJ-REITに保険会社や銀行勢の資金が、やむなく流入する構図になっている。

円売り・ドル買いを伴う外国債券への投資(円投外債)については、為替相場の水準にらみで、チャンスがあればポジションを積み増したい本邦投資家が、官民ともに潜在的に多いと推測される。

そうした動きが着実に出てくることにより、104─105円台で推移する時間帯が、これまでのところ限られていると考えられる。

3つ目の理由は、日米貿易協定に「為替条項」が入らなかったことだ。トランプ大統領はドル安志向が強く、為替介入によって自国通貨の水準を安くとどめようとする(ドルを高くとどめようとする)動きには、強い反対を唱える人物である。

数カ月前までは、仮にドル/円相場が100円に近づき、G20などの国際協調下で認められている為替市場におけるスムージングオペ(不規則変動をならして落ち着かせるための介入)を日本の通貨当局がドル/円で行おうとしても、米財務省はこれを容認しないだろうと、市場では考えられていた。

ところが、中国の予想外の強硬姿勢に直面して苦境に立ったトランプ大統領に対し、G7サミットが開催された仏ビアリッツで安倍首相は助け舟を出し、自動車関税の問題を棚上げしつつ農産物で先行合意するという、明らかに米国に有利な条件で日米貿易協定は大筋合意に達した。

日本は米国に大きな貸しを1つ作ったわけであり、これを利用する形で、為替介入実施が事実上制約されかねない「為替条項」を協定には入れない決着に、日本側はこぎつけたと推測される。

「フラッシュクラッシュ」的な円高/ドル安が起こるなどして100円ラインが脅かされる場面があっても、日本の当局が機動的に介入を行える状況に変化したのではないかと、筆者はみている。

不確実性の高い状況がこの先も続くわけだが、ドル/円が100円前後まで円高に動くようなら、周囲の状況を確認した上で、ドルの押し目買いのチャンスを見出せそうである。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

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編集:田巻一彦

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