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コラム:FRBの「QEライト」、ハードランディングで円高か=上野泰也氏

[東京 29日] - 金融市場には、「軽量QE(QEライト)」をいかにうまく「解除」するかがFRB(米連邦準備理事会)にとって今年最大の課題であり、対処を誤れば金融市場の混乱という「大けが」が起こり得る、という見方が広がっている。QEというのは、量的緩和のことである。

 1月29日、金融市場には、「軽量QE(QEライト)」をいかにうまく「解除」するかがFRB(米連邦準備理事会)にとって今年最大の課題であり、対処を誤れば金融市場の混乱という「大けが」が起こり得る、という見方が広がっている。写真は1月21日、ニューヨーク証券取引所で撮影(2020年 ロイターBrendan McDermid)

FRBのバランスシートが昨年秋から拡大を続けていることについて「この動きはあくまでテクニカルな調整であって、景気・物価への刺激を狙った新たな量的緩和ではない」、「昨年10月から毎月600憶ドル規模で実施しているTビル(短期国債)の買い切りを、金融危機対応で行った大規模な資産買い入れと混同すべきでない」と、パウエルFRB議長らは繰り返し強調している。

だが、市場関係者の多くは、パウエル議長の発言を素直に受け止めておらず「これは軽量QE(QEライト)だ」という声も出ている。「FRBがバランスシートの拡大を停止した時、何が起きるかが問題になる。流動性の蛇口が閉まった時、株式市場がどう反応するのか注意しなければならない」という市場関係者の警告的なコメントも報じられた。

英経済紙・フィナンシャルタイムズは、1月21日の特集記事でこのQEを取り上げ「それをQEだと私は思う。明示的にQEだと認識されないかもしれないが、しかし、それはQEだ」といった、FRBの説明に納得していない市場参加者のコメントをいくつも紹介していた。

<蛇口が閉まることへの市場の不安>

筆者は、今回の「カネあまり」相場(一種の「官製ミニバブル」)への市場の安心感は、FRBさらには欧州中央銀行(ECB)と日銀を加えた3中銀の総資産(バランスシート規模)が先行き拡大を続けそうか、それとも縮小に転じそうなのか、という点とリンクしているという見方を取っている。

短期金利の急上昇を抑え込むため、毎月600億ドルのTビル(短期国債)買い切りを今年6月にかけて実施すると昨年10月にアナウンスしたFRBは、新たな量的緩和ではない、という説明を繰り返している。利付国債の買い切りは行っておらず、長期金利を押し下げるという政策的意図を有していないという説明である。

だが、昨年10月以降のTビル買い切りもQEも、FRBのバランスシートを拡大させるという点では、外形的に全く変わりがない。

バランスシートの規模が拡大していれば、金融緩和が続いているということなので、蛇口から水がバスタブに流れ込んでいるという安心感が市場に漂いやすい。

しかし、量的緩和の停止などでバランスシート規模が横ばいになると、蛇口から新たな水が入らなくなり、株価の上昇力は強まりにくくなる。

そして、17年10月から19年7月までFRBが実際に行っていたように、金融政策正常化を図る狙いからバランスシートが縮小に向かうと、バスタブの栓が抜かれた形になり、時間の経過とともに水の量は減少するという連想が、市場で広がりやすくなる。

FRBは昨年7月の予防的・保険的な利下げの開始に際し、バランスシート縮小政策を前倒しで終了した。「アクセルとブレーキを同時に踏むのは避ける」ということなので、自然な動きと言える。

そして、いくつかの要因が複合して短期金利が跳ね上がった同年9月には、FRBは短期金融市場へ現先方式での資金供給を強化し、バランスシートの拡大に踏み出した。さらに、すでに述べたように翌10月には20年4─6月期にかけて毎月600憶ドルのTビル買い切りを行うとアナウンスした。

<秋以降に米株は下向きに>

新型肺炎の影響拡大という新たなリスクファクターの急浮上によって、米国株は足元で調整を余儀なくされているものの、日米欧中銀がそろってバランスシート規模を拡大させることがほぼ確実な今年前半は、上昇余地を試す場面が出てきやすいだろう。

7月以降もバランスシートを拡大し続けるのかどうかについて、FRBは方針を明らかにしていない。銀行準備預金の実態としての不足感が解消されれば、「QEライト」は終わり、バランスシート規模の運営は自然体になるのが普通だろう。

だが、それを市場にうまく伝えられるのか。蛇口が閉まることへの不安感や恐怖感を刺激することなく、FRBがあくまで技術的な対応としているバランスシート拡大をソフトランディング的に止められるのかどうか──。

話がそううまく運ぶことはなく、今年後半、特に秋から年末には、米国株などリスク性資産は下落しやすくなるだろうと筆者はみている。

おそらく夏場あたりにグローバル経済の先行きについて、市場で楽観論が過度に強まり、その反動が秋から年末に出てくるだろうという読みもある。為替市場では、秋から年末に円高圧力が強まると予想される。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

(編集:田巻一彦)

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