June 24, 2020 / 5:13 AM / a month ago

コラム:米国の弱点露呈で「悪い円安」進行せず=上野泰也氏

[東京 24日] - ドル/円JPY=EBS相場が5月は106─107円台を中心とする狭いレンジ内に収まってしまい、ほとんど動かなくなったことを、筆者は前回のコラムで「JGB(日本国債)化した」と揶揄(やゆ)する声を交えながら取り上げた。日米の中央銀行がやっていることにほとんど差がなくなっており、ドルと円のどちらかをあえて買い進める大きな理由が見いだせない。

 6月24日、人口減少による国力低下や財政悪化など、日本のネガティブな面が市場に注目されて「悪い円安」が進むタイミングが来るという見方は、根強い人種差別問題や新型コロナウイルスへの対応で米国の弱点が露呈したことで薄れつつある。写真は6月19日、オクラホマ州タルサの裁判所前で撮影(2020年 ロイター/Lawrence Bryant)

その後、米国株高騰を背景に「リスクオン」へと市場が傾斜し、対ユーロや対オーストラリアドルといったクロス円取引で円売りが強まったことを主因に、ドル/円は6月上旬に109円台に乗せる場面があった。だが、「カネあまり」に足場を置いた米国株の「上がり過ぎ」が露呈して反落すると市場の空気は変わり、今度は円を買い戻す動きが強まった。

そして、ドル円相場は元のレンジに回帰した。日銀が公表している東京市場17時時点の気配は、6月18日が106.96─98円、19日が106.96─97円、週明け22日も106.96─97円。3日続けてほぼ同じ数字であり、これはなかなか起こらない出来事だろう。「ミスター・コーチャク(膠着)」が出没しているなどと、現場のディーラーは面白おかしく言っているだろうか。

では、長い目で見た場合のドル円相場はどうだろうか。「コロナ前」にエコノミストや学者、市場関係者の間では、短期的には米金利低下などを手掛かり材料にして円高・ドル安が進みやすいものの、長期的には人口減・少子高齢化による国力低下や極端に悪い財政事情といった日本のネガティブな面が市場で大きな材料になる場面がおそらく到来して、「悪い円安」が対ドルで進むのではないかという見方を支持する人が多かった。筆者もその一人である。

そして、そうした円を売り込む動きがなかなか出てこない理由については、世界経済全体にとって意味合いがはるかに大きい「チャイナリスク」が近い将来の市場の関心事であり続けるため、日本にはスポットライトが当てられにくいのだと、筆者は説明してきた。

<注目点は中国から米国へシフト>

ところが、である。「チャイナリスク」は、米中の貿易戦争激化、香港問題などに透けて見える習近平体制の強権体質、国内改革の先送りなどから引き続き市場でも関心を集めているわけだが、ここにきて米国にまつわる不安材料が噴出している。

全米における人種差別抗議デモの広がりは、この国に内在する根深い問題が50年ほどたっても、いっこうに解決されていないことを浮き彫りにした。

新型コロナウイルス感染拡大への各州知事による対処には、トランプの共和党対反トランプの民主党という激しい対立が投影されている。さらに政権奪還を狙う民主党内では、中道の主張と左派のそれの間に大きな溝がある。

そして、米国経済のいわば「底力」となってきた移民の受け入れに、トランプ政権は消極的・否定的である。有能な移民が起業することなどを通じて、米国経済のサプライサイドは、日本経済にはない強みを発揮してきた。そうした人口動態の面での強みを自ら捨て去ってしまうとなると、日本に対する米国のアドバンテージは、目立って縮小する。

また、米国の財政事情は急速に悪化しており、2020会計年度(19年10月─20年9月)の当初8カ月間の赤字幅は、前年同期の約2.5倍に達している。そこからさらに、トランプ政権も議会民主党も、景気対策を追加したい考えを示している。

医療体制では、今回のコロナ禍の中で、米国に内在する弱さが露呈した面がある。この先、秋から冬には、季節的なリスク要因が待ち構えている。インフルエンザの流行である。

米国では、マスクをする生活習慣は今回のコロナの件でそれなりに普及したように見えるものの、インフルエンザ予防注射の接種率は高くはあるまい。むろん、予防注射をすればインフルエンザにかからないというわけではないものの、重症化はしにくくなるはずである。

米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長らは6月23日の議会証言で、新型コロナウイルスの流行は当面続く見通しであり、秋のインフルエンザシーズンと重なるようだと医療システムを「著しく圧迫しかねない」と述べた。

米国の弱い面・悪い面がこのまま増えていく、あるいは目立っていくとするなら、日本との差が小さくなる分、長期的に想定されてきている「悪い円安」が進む度合いは、それだけ限られるという話になる。

むろん、日米ともに民主主義国家であり、選挙などを経て、国のリーダーは民意を間接的に反映する形で交代する。米国では11月に大統領選・上下両院選が予定されており、日本では21年9月に安倍首相の自民党総裁任期が満了する。

米国では、国内の分裂状況を修復して国を良い方向に導くような指導者が登場するのかどうか。日本では、旧態依然たる政策決定過程など「おり」のような部分を一掃しつつ、長期的に明るい展望を切り開くことのできる首相が登場するのかどうか。

いずれも明らかにハードルがかなり高い話であり、市場の期待値は高まりにくいだろう。とすればドル円相場はこのまましばらく、膠着感の強い取引が続くことになる。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

(編集:田巻一彦)

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